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異界転生 人斬りの使い魔と没落探偵  作者: 悦田半次


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デュアルスキル

「スキル2つって……そんなのアリかよ」

「私が知っている限り、そんな事例は無かったわ。でも実際に目の前にいる。それだけは確かよ」


 スキルは、転生者同士の戦いを左右するものの1つ。

 ツバキも自分のスキルに何度も助けられてきた。

 だからこそ、そんなものを2つ持っているナツメに反則だと言いたいが、その反面どこか納得もしていた。


「姉上の能力は分かるか?」

「能力はぱっと見、身体能力及び斬撃の威力上昇ってところかしら……けど、何か、嫌な感じがするわ」


 と思ったら、シルヴィアはあっさりとスキルの詳細を口にした。


「……マジか」


 身体能力と斬撃強化。

 なるほど言葉にしてみれば単純だ。

 だが――よりによって、1番ナツメが持つスキルであって欲しくなかった。


「殺す気でかかれ、ツバキ。でないと死ぬぞ」


 そう言って、地面を蹴り砕きながらツバキに肉薄。

 ナツメは明らかに先程より強くなっていた。

 技の冴えも、剣速も、1段階上の領域に上がったような――そんな状態だ。

 同時に、スキルのせいで高熱の衝撃波もやってくるというオマケ付きだ。


 少しでも気を抜けば、ツバキの体は原型すら留めず刻まれる――冗談では無く、本当にそう思わざるを得なかった。

 ナツメの一撃には、それだけの力が込められていた。

 あまりにも一方的で、あまりにも苛烈。


 そこにあるのは相手を殺し、奪うという感情のみ。

 それ以外のものは、剣戟を通して一切伝わってこなかった。

 あまりにも、乾いた剣だった。

 そこにツバキは、違和感を抱いた。

 ナツメは、剣術が好きだった。


 生き残るための道具としてしか認識していなかったツバキと違い、刀を愛していた。

 常に手入れを欠かさず、寝食を共にし、よく頬ずりとかもしていた。 

 左頬の傷はうっかり峰ではなく刃に頬ずりしてしまったことが原因である。(頬を真っ赤にしながらもいやあ参ったと笑っているその姿は軽くホラーであった)

『里』の剣士は、腕を磨く度に人間性を失っていく。むしろ喜んで投げ捨てていく。


 だがナツメは手放さなかった。

 瞳を夜空の星のように輝かせ、剣を振るった。

 ツバキと同じく里のイレギュラーでありながら、『人刃一体』に最も近いと言われた剣士。


 だがツバキは知っている。

 ナツメは『里』の理想云々よりも、ただ好きなことを突き詰めていったらいつの間にかそうなっていた――というところだろう。

 地獄の中でも心の底から笑っている、そんな人だった。


 そんな彼女が側にいたから、ツバキも辛うじて人間らしい感情が一欠片残っていたのだろうと思う。

 だが――今の彼女に、笑みは無い。

 星空のように輝いていた瞳は、理性を取り戻して尚も曇っている。

 直線的な太刀筋こそ同じだが、そこに宿る禍々しさはなんだ。

 目の前にいる人間は、本当にあのナツメなのか……?


「分かるかツバキ。これが『修羅の剣』だ」

「修羅……?」

「私のスキルの名であり、私があの世界で到達した剣の境地――それが、これだ」


 相手を一方的に蹂躙する剣技。

 それがあの世界で得たものだと、ナツメは言ったのだ。

 こんな剣技は、ツバキは知らない。

 だが今、ふつふつと湧き上がる感情の名前は知っている。


「ふざけんなよ……!」


 怒りだった。


「こんな剣が――こんなモンが姉上の至った領域だってのか!? どうしてそうなった! なんでそうなっちまったんだよ!」

「聞いてどうする。納得したら、あの女の首でも差し出すか?」


 そうじゃない。

 ただ、知りたいだけなのだ。

 ナツメの在り方は、かつてとは根本的に変わってしまっている。

 それだけのことが、ナツメの身に起こったのだ。


「前に言ってたよな。戦いとは敵を知り己を知ることだって……でも今の姉上から、そんな気概がまったく感じられない。ただの殺戮人形じゃねえか。そんなんじゃ、『里』の連中と変わらないだろ!」


 何より、里の連中と同じ淀みを、ナツメから感じたくなかった。


「殺戮人形か……ははっ」


 この世界で初めて、ナツメが笑っているのを見た。

 もっとも、それはかつての清々しい笑顔とはまるっきり別物だったが。


「なるほど。言い得て妙だな。今の私にはお似合いだ」

「何……?」

「おまえを犠牲にして、私はこの領域に至ったのだからな。そんな奴は、人形がお似合いだと言ったのだ!」


 ビキリ、とツバキの剣に亀裂が入る。

 だがそれよりも、ツバキは引っかかりを覚えた。


「俺を犠牲にって、どういうことだよ」

「簡単な話だ。おまえが『里』の人間に殺された後、私は『里』の者達を鏖殺した」

「……は?」


 一瞬、理解出来なかった。


「全員って……冗談だろ。里に何人いると思ってんだ!」

「全員は全員だ。枯れ木のような老人も、産声を上げたばかりの赤子も皆、殺した」


 なんでもないように、ナツメは言った。

 あまりにも、無茶苦茶な告白だった。

 いくらナツメの剣技が優れていると言っても、里の人間全員を相手取る事など不可能の筈だ。


「おかしいだろ……! 里の連中で、親しくしてたヤツもいただろ!」


 ナツメもナツメでツバキとは少し異なる方向で里の人間から外れてはいたが、それでも里の人間が納得するだけの強さを持っていた。

 だからこそツバキとは違い、里の人間との関係は悪くはなかったはずだ。


「そうだな……あの中には大分世話になった人達もいた。友と言っていい者もな」


 暴虐の嵐と共に紡がれる言葉は、どこまでも乾いていた。


「だが、殺さない理由にはならなかった。ツバキの死を是とした者達を、私は生かしておく訳にはいかなかった」


 納得した。

 せざるを得なかった。

 このナツメならば、里の人間を鏖殺しようと決意するのも、実行することもできるだろう。


「んで、身につけたのがその剣術だってのか……!」

「その通りだ。これが今の私だ」

「……!」


 転生者のスキルの中には、生前持っていた技術や逸話が昇華されたものが存在するが、ナツメの『修羅の剣』はこのタイプのようだ。

 己の剣が新しい段階に到達する。

 これは本来喜ぶべきことだ。

 だが、ツバキは悲しかった。

 里の人間のような虚ろな目で、ただ破壊するためだけの剣を振るう。

 あの活き活きと、剣と共に歩んできたナツメの到達点がここだというのか?


「ふざけんな……!」

「だったら否定してみろ。その剣で私を殺してみろ、ツバキ――!」


 刀が纏う魔力を斬ることはできる――が、あまりにも硬い。

 ――この剣じゃ、無理なのか。

 だが無い物ねだりはできない。

 今の自分に出来ることは、シルヴィアを守ることだけだ。


 食らいつく。

 嵐に体を巻き上げられないように、抵抗する。

 ナツメと鳳から発せられる赤い炎のような、嵐のような魔力に触れる度に肌が裂けていく。


 それでも、止まるわけにはいかない。

 隙間を縫うようにナツメに肉薄せんと試みる。

 瞬間、嵐が止んだ。

 ナツメもだらりと腕を下げ、筋肉の緊張も見られない。


 罠ではない。

 だが、意図が分からない。

 連続した殺し合いの中で生じた空白。

 迷っている暇は無い。


「ツバキ――」


 剣の間合いにまで張り込み、大上段に構えた剣を振り下ろす――


「――助けてくれ」

「……ッ、ッ!」


 刃は、ナツメの眼前で止まった。

 勢いを止めなければ、ナツメを唐竹割りにすることもできただろう。

 だが、ツバキは止めてしまった。

 その縋るような声を出す姉に、どうして刃を向けられようか。


「愚かな」


 すっと、ナツメは目を細めた。


 纏っていた儚げな空気は一瞬で霧散し、その代わりに再び赤い陽炎が体から発せられる。


 白刃が煌めく。

 ツバキは逆袈裟に斬り上げられ、血を迸らせていた。


「ツバキ――!」


 シルヴィアの悲鳴が聞こえた。

 不思議と、痛みは感じなかった。 

 

「敵も殺せず人も守れず――そんな剣に、何の価値がある。おまえの甘さは、何の価値もない」


 先程とは逆方向に繰り出される袈裟切りがツバキを襲う。


「がっ――」


 傷口を見る。体には、大きな×印が刻まれていた。ツバキの全てを否定するかのように。



 

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