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異界転生 人斬りの使い魔と没落探偵  作者: 悦田半次


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22/37

再会

 随分と、派手にやっている。

 断続的に揺れる屋敷の中を歩きながら、リドーは思った。


「あーあー、ウチも暴れたかったわー。そもそも、向いてないねん。こーゆー隠密っぽいの。東洋のニンジャやないんやし、ちゅーかどっちかっつーとツバキちゃんの方がニンジャっぽいわ。あんたもそう思わん?」

「し、知らねえよ!」


 リドーに首根っこを掴まれながら屋敷の案内をさせられている黒スーツは、顔を青ざめさせて言った。

 正面から突撃したツバキに注目を集めさせ、その間にリドーがシルヴィアを救出する。


 これが今回の作戦だ。

 そのためリドーもド派手に暴れたかったのだが、今回はあくまで救出が目的なのでグッと我慢する。

 せいぜい、見張り役の首をへし折るくらいだ。

 無論、問答無用で殺してはいない。


 シルヴィアの居場所はどこだと聞き、知らない者と頑として言わなかった者を殺している。

 そして目の前にいる男は、他の連中より口が軽かったため助かったのだ。

 あっさりと地下室まで案内してくれた。


 ドアを開くと、見張りと覚しき黒スーツがぎょっと目を見開く。

 すぐに投げナイフを投擲し静かにしてもらった。

 そして椅子に縛り付けられているシルヴィアを見つけた。

 髪は乱れ、顔に傷を負っている。

 その姿を見て、リドーは小さく舌打ちした。


「な、なあ。俺は助けてくれるよな? 言われたとおりに案内しぐべっ」


 首を握った手に力を込めてへし折り、死体を放り棄てた。


「ウチは『案内せんかったら今すぐ殺す』言うただけや。『案内したら助ける』とは言っとらん」


 用済みになった以上、生かしておく理由などどこにもありはしない。


「さーて、嬢ちゃん。助けに来たで――って、うわ」


 シルヴィアの目は虚ろだった。

 素早く手首や首筋を確認すると――あった、注射痕だ。

 病院で医師が行うものとは違う、素人感満載のそれが意味することは1つだ。


「最悪や。クスリ射たれとるがな」


 シルヴィアの目の焦点は定まっていない。

 こうなってはリドーのことも気付いているか怪しい。


「うん?」


 シルヴィアは、ぶつぶつとうわごとのように何かを呟いている。

 耳を近づけると、微かに声が聞こえた。


「ツバ、キ……」


 てっきり、クスリの快楽で完全に理性を手放しているように思えたがそうではない。

 あと一歩の所で、シルヴィアは踏みとどまっていた。


「マジか。どんな精神力や」


 尋問用のクスリを接種された状態で、一欠片でも理性を残すのは尋常ではない。


「甘い甘い……ったく、あんたも随分ワルい男に惚れたもんやな」


 今なら砂糖を吐けそうな気がする。


「けどまあ、そーゆーんは嫌いじゃあないで」


 リドーはガラスの小瓶の栓を抜いた。

 気化した魔力が、僅かに漂う。


「とっておきや。しっかり味わうとえぇ」


 リドーはシルヴィアの口にポーションを容赦なく注ぎ込んだ。

 瞬間、シルヴィアの目がこれでもかと見開かれ――


「ぶはーっ!」


 と、ポーションを吹き出した。


「マズっ! 何なのこの味は! いえ、これは味と表現するにはあまりにもおぞましい――あら?」


 キョロキョロと、シルヴィアは周囲を見渡す。


「リドー? どうしてこんなところに……というか、私はなぜ正気を保てているの?」


 正気を失っていたという自覚がちゃんとあるあたり、やはりシルヴィアの精神力は頑丈だ。

 困惑顔のシルヴィアは、リドーが持っていた瓶と底に残ったポーションを見てぎょっと目を見開いた。


「ま、まさかそれは……」

「そ、エリクサーや」

「ぎえー!」


 お嬢様らしからぬ悲鳴が炸裂する。

 怪我でも病気でも一瞬で完治させ、さらには不老長寿を与えると言われる万能の薬。

 エリクサーを騙る薬は多くあれど、本物はほぼ伝説上の存在だ。

 魔法に詳しい者であればあるほど、自分が口にしたものがどれだけの価値を持つものか理解し驚愕する。

 丁度、このシルヴィアのように。


「あああなんてこと。そんな貴重なものを吹き出してしまうだなんて。何か染みこませて保存しないと……」

「そりゃ無理や。とっくに蒸発しとる」


 エリクサーは特注の瓶の中でなければ、すぐに魔力となって蒸発してしまう。


「それに、これは本物のエリクサーやないんよ。厳密には、その失敗作や」

「失敗作……?」

「そ、不老長寿の効き目はないけど、回復薬としては最高レベルの代物や。クスリの成分フッ飛ばすことくらい、造作もないわな」


 シルヴィアが受けた暴力の痕跡は、肌に張り付いた乾いた血くらいしかない。

 全ての傷が塞がり、クスリの影響も消えている。

 シルヴィアは吹き出していたが、少しでも口に含んだだけで効果は出る。

 浄火機関の薬学部が作った薬は、失敗作といえどそんじょそこらのポーションとは一線を画す代物なのだ。


「つっても、支給されてるのは1人に付き1本やし、補充するにしても、どう使ったか報告書書かなアカンのよ。めんどいわー」

「ご、ごめんなさい。そんな貴重なものなのに……」

「ええよええよ。嬢ちゃんにはサービスしたる。あのいけ好かない転生者野郎に使うとしたら尻の毛まで毟り取ったるけど」

「それは無理じゃないかしら。だってツバキは――」


 と、ここでシルヴィアは固まった。


「どしたん?」


 顔を覗き込むリドーにの肩をシルヴィアは掴み、叫んだ。


「そうよ――ツバキに伝えないと! 今すぐあの子の所に連れてって!」

「落ち着きや嬢ちゃん。一体何を伝える言うんや」

「ペルペトーのところにはもう1人転生者がいるの!」

「もう1匹ィ……?」


 シルヴィアは今まで多くの転生者と戦ってきた筈だ。

 敵が1人増えたからと言って、ここまで焦るものだろうか?


「彼女はダメよ。強さもそうだけど、そうじゃない何かを感じるの。あの転生者を、ツバキと戦わせちゃダメ!」



 何人斬っただろうか。

 向かってくる敵はとりあえず斬ったが、以前のゴーレムのようにポコジャカポコジャカと出てくることはなく、確実にその数を減らせている手応えはあった。

 少なくとも、目に入っている構成員は全員動かぬ肉塊と化していた。


「こんなもんか?」


 ふと、引っかかりを覚える。

 あまりにも順調すぎる。

 敵は数こそ多いが、転生者ということもありこちらの方が圧倒的に強い。


「こんな連中にシルヴィアが捕まったのか……?」


 それは少し考えにくかった。

 部屋の状況からして、襲撃者は恐らく1人。

 そしてその実力は、シルヴィアが不覚を取るほどだ。

 彼だか彼女だかは知らないが、少なくともそれくらいの実力を持つ相手度は今この場で出会っていない。


「リドーの奴、うまくいってるといいけど」


 もっとも、リドーもここの連中に遅れを取る訳ではあるまい。

 最悪なのはシルヴィアを人質に取られることくらいだが――そう思った矢先、ツバキの前に1人の男が現れた。

 ツバキは初対面だが、纏っている空気の質が明らかにそこらの黒スーツとは違う。

 そもそもスーツの色からして違う。


「おまえがペルペトーか」

「ああ。そしておまえはツバキ・ツルク」


 こちらも顔が割れていた。


「ブルームの懐刀と言われた家の名を転生者如きに与えるとはな。おまえの主人は酔狂なことをする」

「それがあいつのいいところだ」


 自分で言うならまだしも、赤の他人――しかもシルヴィアをさらったクソ野郎に――に言われると妙に腹が立つ。


「まったく派手にやってくれたもんだ。まあ、この程度の人材は後からどうとでもなるがな」

「テメェみたいなのがボスってのは、死んでいった部下も浮かばれねえな」

「浮かぼうが沈もうが、俺には関係無い」

「ああそうかい。けどまあ、俺もあんな連中のことはどうでもいいんだ。シルヴィアを返してもらうぜ」

「そうはいかん。アレは換えが効かないからな」

「じゃあどうする。三文小説の悪役よろしく、『こいつがどうなってもいいのか』とかやってみるか?」

「その必要はない。おまえはここで死ぬ」

「そっくり返すぜ」


 遠慮はいらない。

 血にまみれた床を蹴り、ペルペトー目掛けて剣を振り下ろす。

 だが、刃がペルペトーに到達することはなかった。


「なっ……!」


 驚愕に目を見開く。

 先程までは、ペルペトーの周囲には誰もいなかった筈。

 それにも関わらず、ツバキの眼前には刀を手にした和装の女が、ツバキの一撃を受け止めていた。


 目には光が宿っていない――傀儡と化した転生者特有の目だ。

 彼女こそがシルヴィアを襲った張本人。

 そしてツバキは、その女のことを知っていた。


「姉上……!」 


 血を吐く思いで、ツバキは言った。

 顔を歪める弟を、姉は能面じみた表情で見ていた。


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