襲撃開始
ペルペトーファミリーの屋敷は街の中心部から少しばかり離れた場所にある。
かつては貴族の別荘だったこともあり、中々に豪華な造りである。
が、見張りに立っているガラの悪いスーツ姿の男達を追加すればあら不思議、優雅な貴族の別荘からガラの悪いマフィアの本拠地になるのだから、建物にとって住人がいかに重要な存在であるかがよく分かる。
さて、そんな黒スーツ×2は夜の警備のために門の前に立っていた。
ペルペトーは敵も多いため、いつ何時襲撃を受けるか分かった物ではない。
そのため門番もそれなりに腕の立つ者が選ばれる。
そんな彼らの前に現れたのは、同じようにスーツを着た1人の少女(少なくとも2人にはそう見えた)だった。
「誰だテメェ」
泣く子がさらに激しく泣きわめくドスの利いた声で問う。
だが、少女(仮)は表情をぴくりとも変えない。
「ウチのにこんな奴いたか?」
「分からねえぞ。ボスが頼んだ女かもしれねぇ」
腰に剣を差していたが別にそれくらいは珍しくもないし(2人も似たような装備だ)、そもそも1人でカチコミをしようなんてバカはいないので、襲撃という選択肢は2人とも早々に捨てていた。
「ウーン、顔はいいな。でもよぉ、ムネとケツが貧弱でいけねぇや」
「バカヤロー。こーゆータイプほど脱いだらスゴいんだよ」
少女(仮)の表情が引きつっていくが、門番達はまるで気付いていない。
「シルヴィア・ブルームはここにいるか?」
感情を抑えた声に、門番2人はようやく理解した。
目の前の少女が、彼らが考えていたような生易しいものでではないことを。
その表情の変化を少女(仮)は見逃さなかった。
「アタリみたいだな。もういい」
瞬間、2人の首が飛んだ。
「冥土の土産に言っておく――俺は男だ」
少女――否、ツバキ・ツルクの言葉に、首だけになった2人はくわっと目を見開く。
「ありえねぇ……!」
「せめて確認――」
それが最期の言葉となった。
「おーおー、始まったみたいやな」
物陰にこっそり隠れながら、リドーは屋敷の様子を覗っていた。
屋敷内の明かりが次々と灯り、怒号と爆発音が膨れ上がるように大きくなっていく。
予定通り、ツバキが暴れ始めたのだろう。
「ほな、ウチも始めよか」
そう言って、リドーは革手袋を着けた。
「カチコミじゃぁ――!」
そう叫んだ黒スーツの首をツバキは刎ねた。
既に複数の死体が転がっている。
各々の武器を手にした黒スーツの男女は、屋敷のエントランスから乗り込んできたツバキに応戦した――が、それはあまりにも一方的な戦いだった。
ナイフや斧を手に近接戦闘で挑もうとしても一瞬で切り伏せられ、魔法を使ってもスキルによって難なく切断。
その際に軌道を変えられ、味方に直撃して犠牲が増える。
「あじゃああああああああああ!」
味方から文字通りのフレンドリーファイヤを頂戴した黒スーツは、火達磨になって柵から身を投げ、落ちていった。
その様子を視界に収めることなく、ツバキは動く。
西洋式の剣は両刃で少しばかり勝手が違うが、問題無く人を斬れている。
「テメェ――俺の兄弟をやりやがったな!」
怒声と共にこちらに向けてくるのは、大筒――確か、魔導グレネードという代物だ。
魔力の塊である魔導結晶に、さらに臨界寸前の魔力を込めて発射し、対象を粉砕するといった、まさに力こそパワーな脳筋兵器である。
シルヴィアは「美しくないわ」と酷評していたが、美しかろうがなんだろうが、威力は高い。
直撃を食らうのはツバキも避けたい。
周囲に一瞬視線を走らせた。
「よし、やるか」
「死にさらせェ――!」
トリガーが引かれるのとほぼ同じタイミングで、ツバキは剣を投擲して伏せた。
魔導グレネードは威力こそ高いが1つ弱点が存在する。
トリガーを引くことでロックが解除され、その後強い衝撃を受けると爆発するのが魔導グレネードの仕組みだ。
つまり、ロックが外されたその瞬間を狙って強い衝撃を与えられれば、敵では無く射手がランチャーごと木っ端微塵になる。
爆音と熱が周囲を揺らした。
巻き添えを食らって10人以上が死んだ。
一方で、ツバキは無傷である。
「……剣1本犠牲にした割には、あんま殺せてねえな」
だが、あのグレネードをそのまま撃たれなかっただけ良しとしよう。
「丸腰だ! やっちまえ!」
生き残った黒スーツ達は、我先にとツバキの下に殺到する。
だが、彼らは1つ見誤っていた。
「得物は1つじゃないんだよ」
回し蹴りで首の骨を粉砕。
ネクタイを引き抜き、スキルを付与してもう1人の首を刎ねた。
相手の手からこぼれ落ちた剣――先程使っていたものと似ている――をキャッチし、向かってくる相手を次々と斬る。
先程の剣を遠慮無く犠牲に出来たのも、予備の存在が確認出来たのが大きい。
「な、なんだコイツ……!」
「バケモノだ! バケモンだぁ……!」
怒りで赤くなっていた顔が、次々と青くなっていく。
彼らは気付いたのだ。
目の前にいる少年は、人の理から外れた存在であることに。




