第九十一話 砂の城セントノヴァ
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一世達を乗せたオルベイルは、何事もなくセントノヴァの砲台、その射程手前の岩場まで辿り着いた。
ここは、古くからセントノヴァに乗り込もうとする者達が最後の一時を送る事が出来る、覚悟の地として知られていた。
それは、セントノヴァの砲台を設計した技術者が与えた慈悲か、それとも単なる偶然か。
どちらにしても、ここからはエクリプスの幻影月鏡無しには進む事もままならなくなる。
「シイナ、頼めるか?」
「任せろ」
一世の問い掛けに、シイナは難なく応え、幻影月鏡を作動させる。一世の方も、それを確認した上でオルベイルをセントノヴァへ向けて直進させる。
途中、首都周辺を巡回する艦隊を横切るが、彼らはオルベイルの存在を周知する事は無く、戦闘も無いまま通過した。
「このまま何事も起こらなければ、潜入も上手くいくか」
キール皇帝が、そう言って先程通過した艦隊に視線を向けた。
アルカニック・インペリアルの合体形態は、オルベイルの頭上に輝く王冠。それ故に、王冠を左右に回転させれば自在に乗り手とは別に視点を変化させる事が出来るのだ。
「陛下、そのように油断をしていると、思わぬ痛手を貰いますよ」
キャシーが、皇帝にそれとなく注意を促す。
ここは、スヴェントヴィトとは違い最前線。しかも敵地の文字通り目と鼻の先なのだ。何かが狂えば折角の作戦が水泡に帰すどころか、その水泡すら砂漠の砂に飲み込まれてしまうかもしれない。
「そろそろ、市街地に入りますよ」
一世がそう言って、機体をジャンプさせる。
セントノヴァ外周部は、高い外壁によって囲われ、更にサーチライトが周囲を照らしており、蟻の子一匹見逃さない警備体制が敷かれていた。
オルベイルはそれらを尽くスルーして、機体を隠せそうな場所に着地させた。
そこは、様々なゴミが行き着くジャンクヤード。鉄屑が折り重なって出来た山の上が、彼らの取り敢えずの安息の地となった。
「むう、このような場所に降りねばならなかったのか……」
「文句は、言わないで下さいよ」
幼い皇帝は、ゴミの山の上に立っているという事実に思わず目を背けたくなる気持ちになるが、キャシーはそれでも我慢するよう言い聞かせる。
そこには、アーコロジーを作り上げ、人類の大半を見捨てようとも種を、国を守ろうとした為政者ではなく、年相応のお坊っちゃんが居るように、一世は感じ取っていた。
恐らく、それまでは国の存続を第一に考え、自分を押し殺して来たのだろう。そして、今はその重圧からある意味で開放され、キール・ハザマ・スヴェントヴィトの「素」が現れるようになったと、一世は見ていた。
せめて彼が気負わなくて済むような世界を作ってやりたいものだと考えつつ、一世はこれから行うべき作戦の内容を、再び確認した。
「俺達の目的は、都市中央の行政府を占拠。その際には、皇帝陛下の支配の能力を使わせて頂く事になります」
「抵抗する敵がいる場合は、私のエイレイネーでスートアーマーを作って適宜制圧、これでいいのよね?」
メアリが自分の役割を確認し、一世もそれを肯定する。
「ただ、能力が干渉し合う事があるだけに、支配の力と幻影月鏡は同時には使えない。だから、行政府に取り付いたら、シイナも周辺警戒に回って欲しい」
「心得た」
作戦の説明を終え、一世は再びオルベイルを夜空へと跳躍させた。
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セントノヴァの中央行政府では今、次期国家元首を決定する為の緊急会議が開かれている真っ只中だった。
既に国土の大半を奪われているこのような状況下で、悠長に国のトップを決めてる場合なのかと、一人の男は心の中で皮肉げに笑う。
どちらにしても、この国はもう終わりだ。
ならば、今はどの様に負けを認め、スムーズに戦後政策を開始できるかを考えた方が、まだ希望の芽はあるだろう。
なのに、この会議に出席している者達の大半は、まだ逆転の一手があるに違いないと信じてやまない。
何をやっているのだろうと思いながら、男がふと天蓋を見上げた瞬間、異変は起きた。
議事堂の天井が崩れ落ちる、そこから三機のスートアーマー……否、アルカニック・ギアが現れた。
「突然の訪問、失礼する。我はキール・ハザマ・スヴェントヴィト。スヴェントヴィト帝国第三十二代皇帝である」
中央の機体……正確にはその機体の上に浮かぶ王冠型のパーツから、声が聞こえる。
それは、ノヴァの為政者達が、海の向こうでふんぞり返っているとばかり思っていた軍事国家の長のものに他ならない。
つまり、ノヴァの敵対国であるアガトラの上役、そのトップが直接攻め込んで来た。それだけで、その場にいる全員を震え上がらせるには十分なインパクトがあった。
「この場で降伏を認めるならば、これ以上の危害をそちらへ与えるつもりは無い」
「それはまた、願ったり叶ったりだ」
キール皇帝の言葉に、男の頬が釣り上がる。
そして、どうやら男の声は集音マイクによってキール皇帝に拾われていたらしく、王冠が男の方へと「視線」を向けた。
「へっ、へへ……」
及び腰になりながらも、男は手を上げて王冠に挨拶する。
その行動が銃爪となり、会議に出席していた全員の視線が、男に集約された。
「貴公、名前は何という?」
キール皇帝が、男に名前を訪ねた。
「あ、アルベルト・ザーズ。ザーズ・コロニー統括だった、グリッチ・ザーズの……長男ですよ」
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行政府に突入したオルベイルから、一足先に分離したシイナのエクリプスは、幻影月鏡を展開しつつ、中央行政府の周辺を警戒していた。
程なくして、この場に軍の部隊が大挙として現れるのは明白だ。ならば、その動きを少しでも早く一世達に伝えるのが、今の役割。
しかし、ノヴァ軍の動きを見てみると、シイナの立てた予想とは別の動きを見せている事が分かった。
「……何だ?」
そこに不気味なモノを感じ取り、シイナはすぐに行政府の中央タワー、その頂点へと機体を上げた。
そこは、セントノヴァの中でも一際高い建物であり、都市全体を俯瞰するのに最も適していた。
「軍の部隊が、東に集中している。戦闘か?」
どうやら、この砂漠の都に、自分達とは別の侵入者が現れたらしい。
東側エリアで、時折認められる銃撃の光が、その情報が確たるものであると担保していた。
しかし、一体何者が?
その疑問を確かめるべく、シイナはエクリプスのもう一つの能力を発現させる。
「……究明月鏡」
それは、汎ゆる「秘匿」を許さない月の光。どの様なステルスであっても無力化し、闇に潜むモノを暴き出す。
そして、それと同時に、強力な探知機としての役割も担っており、如何なるものであろうと、一度その月の光に照らされれば、究明月鏡の効果範囲内でエクリプスから逃げる事は難しい。
「侵入者の数は三。サイズはそれ程大きくは無い。だが、この異様な速さ……いや、数が増えていく。これは、まさか……ッ!」
嫌な予感を覚え、シイナは思わずセントノヴァの東の砂漠を究明月鏡越しに見据えた。
砂の下には、無数アナンタの獣の気配。
それは、解き放たれればこの都を埋め尽くす事など造作も無い程の規模だ。
首都防衛部隊は、まだ気付いていない。そして、今東で暴れているものは、その先遣隊でしかないのだ。
シイナは、すぐに事態を一世へ知らせる事にした。
だが、通信を行おうとした矢先、突如として究明月鏡がダウンする。
「これは、まさか……!」
能力が強制停止する事など、これまでは無かった。では、何が起きたというのか。
程なくして、彼女はその答えを理解する事になる。
市街地で暴れる敵の中に、アナンタの獣と機械が融合したかのような姿の機体がいる。
それが、アルカナの棺の能力を無力化したのだ。
そして、その機体こそが一世とジョウの言っていた愚者のアルカニック・ギアなのだと、シイナはすぐに理解した。




