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天上のオルベイル -Arcanx Gear Altwelt-  作者: [LEC1EN]
十三 再び、砂の海へ

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92/111

第九十二話 敗者の理想

○

 都市の東側から、アナンタの獣の大群が出現した報せは、すぐに一世(かずや)達が占拠したセントノヴァ中央行政区に伝えられた。

 同時に、一世のオルベイルとキール皇帝のアルカニック・インペリアルの再結合(リユニオン)が、強制解除される。


「何……?」

「合体が、何故」


 加えて、オルベイルの臨界形態も解除され、通常形態に戻ってしまう。それは即ち、機体の能力が何者かによって阻害されている事を意味していた。


「まさか、奴が来たのか」


 愚者のアルカニック・ギア。その力によって、オルベイルの能力が封じられた事は、今の一世達の状況が指し示している。

 当然、それは外で幻影月鏡を展開していたシイナのエクリプスにも及んでおり、この場で起きている異変が周知となるのもまた時間の問題と言えた。


「アナンタの軍勢の中には正典が居る。だが、ここで私が動けば作戦は成り立たなくなる……どうすればいい」


 キール皇帝は悩むが、そこにキャシーが提案を持ちかける。


「陛下、ここは私と一世が、状況を確認するために現場に向かいます。陛下は、その間に各部族長の説(・)得(・)をお願いします」

「あ、ああ。分かった」


 キール皇帝の了承を得て、オルベイルとチャリオットがその場を後にする。

 その場に残されたキール皇帝は、会議の中で注目を集めた男……アルベルト・ザーズに改めて視線を向けた。


「貴公は先程、私の要求に願ったり叶ったりと言ったな。それは何故だ?」

「は、はい。そもそも、この国は既に沈みかけの船も同然。ならば、如何に後腐れ無く、そして戦後復興をスムーズに進められるよう負けるかを考えるのが、敗国の努めと考えたからです」

「ほう、面白い事を考える」


 アルベルトの意見に、キール皇帝は興味を抱く。

 だが、会議に出席していた各部族長達は、アルベルトの考え方を「売国奴の思考だ」と批難する。


「黙れ!」


 野次同然の外野からの声を、アルベルトはその一言で遮った。


「わ、私の故郷は、父の出した欲が原因で滅んだも同然だ。そこから如何に損失を少なくして戦争から抜け出すかを考える事の、何が悪い。そもそも、ノヴァの国土は最早セントノヴァ周辺と僅かな飛び地のみになるまで追い詰められてしまっているだろう!」


 そこからは、アルベルトの独壇場だった。


「ならば、無意味なプライドを振りかざして抵抗という名の延命を繰り返すよりも、民の為に戦後を見据えて敗者の屈辱に塗れた方が、幾らか賢いという物だ。だからこそ、ここで敗北を受け入れるべきだと、私は主張する」


 アルベルトはその演説によって、この場の全員を鎮めてみせた。

 無論、キール皇帝は、一切の能力を行使していない。当初から、この場にいる部族長達を支配して無理矢理戦争を終わらせようとしていただけに、敢えて自分の意思を以て敗北を受け入れる姿勢を見せる人間が一人でもいてくれた事を、キール皇帝は嬉しく思った。


○

「なんて数だ……」


 行政府から顔を出し、一世はシイナから闇夜に紛れてセントノヴァへと向かってくるアナンタの獣の軍勢の凡その数を聞かされ、思わず頭を抱えた。

 こんな物が市街地になだれ込んだら、それこそ一大事だ。

 東側エリアの避難は始まっているものの、都市全体に被害が及ぶ事はまず間違いない。避難完了よりも、アナンタの獣の侵攻スピードが勝る事を考え、一世達は行動を開始した。


「アルカナの棺の力は今はアテに出来ないから、気をつけて!」


 キャシーの忠告が、一世、シイナ、メアリの三人に発せられる。

 そんな事は理解している、と言わんばかりに各々は市外に出る。そして、顔を出したアナンタの獣と戦闘を開始するが、それでも普段からの癖は抜けない所があり、特に一世は砂に足を取られ、立ち回りに苦労している様子だった。

 そう、世界のアルカナの棺の能力は、「如何なる環境であっても万全の状態で機体運用が可能になる」という物だ。

 その能力が今現在使用できないという事は即ち、今のオルベイルもまた環境に即したセッティングが必要となる、という事に他ならない。


「砂上戦闘用の設定……どうすれば!」


 勢いよく飛び出して来たものの、動きがおぼつかずに困惑している一世の眼前に、アナンタの獣が迫る。

 一世は何とかガトリング砲でそれを迎撃しつつ、一旦その場から距離を取る事にした。


「一世くんは、後方からガトリング(それ)で火力支援をよろしく」


 メアリが一世にそう指示を出しつつ、オルベイルを持ち上げてセントノヴァの外壁まで後退させた。

 このような状況でありながら、他人を矢面に立たせてしまう自分の無力さにいらだちを覚えつつ、一世は今自分に出来る精一杯の行動を行う事にした。


○

 程なくして、セントノヴァの防衛艦隊が、アナンタの軍勢を左右から取り囲むように展開し始めた。

 艦載されたスートアーマー部隊を展開し、外周から敵の数を少しずつ減らしていく。


「おお、やっと来てくれたか」


 議会でその様子をモニター越しに見ていた政府高官の一人が、自国軍の戦力を見て胸をなでおろす。

 何せ、首都防衛艦隊はこの国の軍の中でも精鋭中の精鋭。彼らの存在があったからこそ、首都は今日まで守られて来たと言っても過言では無かった。

 だが、一方のキール皇帝はその様子を見て、決して油断をしなかった。

 首都防衛艦隊とは言え、あの場にいるのは全てが百戦錬磨の剛将という訳ではない。全体を俯瞰して見れば、運良くこれまで生き残ってきた、敗残兵の寄せ集めが殆どなのは一目見れば理解できる。

 彼らは、どのように立ち回れば生き残れるか。どのように戦えば食い逸れる事が無いか。そのような事を考えているだけで、最早、国家にその忠誠心を向けていない。

 そして、そのような者達の力を借りて何とか現状を維持しようとしているこの国は、正に沈みゆく船も同然なのだ。

 だからこそ、アルベルトのように「ベストな負け方」を選択する者が出てくる。

 彼の選択は、単に保身を目的とした物ではない。軍の士気の低下、政治の混乱を正し、国の威厳を保つ事を前提としている。

 そして、それを単身で出来ないと判断したからこそ、この場にキール皇帝が現れた事が、彼にとって千載一遇のチャンスとなったのは、間違いない。

 ならば、この男に賭けてみるのも一興だ。

 キール皇帝はそう思いながら、アルベルトに語りかけた。


「アルベルトと申したな。貴公は、この国を背負って立つつもりはあるか?」

「えっ、あ、はい。しかし、自分は未だに若輩の身。コネも人脈も十分とは言えないだけに、これまで改革にも手を出せずにおりました」


 唐突な質問に対して、それでも前持って筋書きが用意されていたかのような返事が返ってくる。

 それは、紛れも無い才能だろう。


「よし、ではその改革、我がスヴェントヴィト帝国が手を貸そう」

「よ、宜しいのですか?」

「うむ、今のこの世界に、危機的状況が迫っている。故に貴国らの力が、その状況を打開する一手として必要なのだ」

「有難き、お言葉です」


 かくして、両者の間に契約は取り交わされた。

 だが、それでもなお、セントノヴァに迫る敵の勢いは、留まるところを知らない様子だった。

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