第七十七話 Allegory再結成
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「はぁ……」
一世とアルエは、メアリがドギーと呼ばれた大柄な男と結婚していた事実に最初は驚きを隠せなかったが、時間の経過と共にその事実をなんとか受け止められるようになっていった。
それもそうだ。
メアリはアルエと一世がこちらの世界に誘われた後の時間軸から、アルエと一世がこちらの世界に現れる以前の時間軸にやって来たのだ。
その間に、色々とあったであろう事は想像に難くない。
「でも、結婚は流石に驚く」
「うん、流石にアイドルなんだし」
「アイドル云々は、もうあっちの方では死んでるからノーカンでしょ?」
一世とアルエの言葉に、メアリ自身はそう反論してみせた。
だが、そうなるとメアリに執着を見せていた正典に憐れみを感じてしまう。果たしてこの話をあの男が知ったらどうなるのだろうかと、一世は思わざるをえなかった。
「で、二人の馴れ初めは?」
茶化すように、ネインが話に割り込む。
「いやあ、実を言いますとメアリはここに来たばかりの頃は、まるで死んだ魚のような目をしてたんですけども」
「ちょっ、やめてよ」
ドギーが顔を赤くしながら語り始める。メアリはそれを止めようとしたが、面白がるアルエに抑え込まれ、それは叶わなかった。
「自暴自棄になってた彼女の事さ放っておけなくて、一生懸命尽くしたらいつの間にかといいますか、まあ、お互いに通じ合うモノを見つけまして」
ネインもアルエも、「ほうほう」と相槌を打ちながら、ドギーの言葉を聞き入った。
一方のメアリは、自分の事を誰かに聞かれるのが慣れていないらしく、アルエに拘束されたまま真っ赤になった顔を両の手のひらで抑え込んでいる。
だが、アルエもメアリに何かあったかを聞かされているだけに、自分が駅で電車に轢かれた後の事は、それとなく想像できていた。
余命幾ばくも無い状態で、一人ぼっちのアイドル活動。
やがて限界が来たのを見計らっての引退と、入院生活。
その間にファン達は新たなアイドルに熱中し、忘れ去られる……。
「メアリも、大変だったんだね」
「あ、うん。まあね」
なんとも言えない距離感が、二人の間に生まれる。
そんな中、メアリとの会話の中で、アルエはこちらの世界に来てから全くと言っていい程に歌を歌っていない事に気が付く。
ここにはメアリも、シイナもいる。だったら。
「あーあ、また三人で思いっきり歌いたくなって来たなぁー」
欲望が、アルエの口からまろび出た。
「そっか、久々に、Allegoryが勢揃いしてるんだ」
ここ最近のゴタゴタから、すっかり頭の隅に追いやられていた大事な事を、メアリはその一言で思い出す。
ならば、やる事は一つ。Allegoryの発起人であるだけに、考える事と行動する事に関しては誰よりも速かった。
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「……ライブ、ですか?」
執務室で、メアリの提案が書き込まれた企画書に目を通しながら、ギルドマスターは訝しげに表情を歪ませた。
歌とダンスで、観客を楽しませる為のイベント。それくらいの事は、彼女だって知識はある。
しかし、果たしてそれをやる暇が、今の自分達……更にはこの世界に残されているのだろうかという疑問が、ギルドマスターの頭に浮かんで来る。
そして、大きくゆっくりと息を吐き、ギルドマスターはメアリの瞳を見ながら口を開いた。
「今は、大事に向けた重要な時です。そのような事にうつつを抜かしている暇はありません」
「いいえ、ギルドマスター。今だからこそ、このイベントをやらなければならないんです」
間髪入れず、メアリが反論する。ギルドマスターは自然と「何故?」と返していた。
「ドゥクス・アナンタの復活阻止、その目的に向けた決起集会のようなものです。ギルドは確かに帝国と調定を結びましたが、でもまだ足並みは完全に揃っているとは言えません。だからこそ、場を盛り上げ、参加した人々の意思を一つに出来る手段が、必要ではないでしょう?」
メアリは勢いよく執務机を叩きながら、真剣な面持ちでギルドマスターの顔をじっと見やった。
「……分かりました、許可しましょう」
「やっ……ありがとうございます!」
思わず飛び上がりそうになるのを抑え込み、メアリはギルドマスターに深々と頭を下げた。
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ライブの開催許可を取り付け、すぐにアルエとメアリ、そしてシイナはレッスンに取り掛かった。
ライブまでに用意された時間は二週間。それまでに、曲と振り付けを完全にマスターする必要が、彼女達にはあった。
暫く歌もダンスも疎かにしてしまっていた為に、ブランクがあるだろう事は予測されていた。だからこそ、メアリは自分達がライブで歌い慣れた曲を中心に、セットリストを組んでいた。
楽曲はメアリがこの世界の楽譜に合わせて新しく書き起こしており、音源も平行して制作されるという。
とは言え、それ以外の不安要素は大きい。特にシイナの記憶が未だに完全に残っていないのは、最大の懸念事項であったが、レッスン初日で彼女の身体にダンスの振り付けが染み付いている事を知り、アルエとメアリはその不安を払拭する事ができ、取り敢えず安堵した。
「楽しそうですね」
「あの三人が、仲良くしてるのを見ると、メアリがこっちさ来る前もあんな感じだったのかと実感させられますわ」
レッスンに勤しむ三人組を遠くから見つめ、一世とドギーは彼女達の現役時代についての話に花を咲かせていた。
「一世さんは、あの三人とは同郷なんだべ?」
「同郷、と言えばそうだけど、住んでる所は遠かったし、アルエとの出逢いも事故みたいな物だったから、接点なんて全然無かった、かな」
それが今ではこうして一緒に世界の危機に立ち向かおうとしている。改めて考えると不思議な運命の巡り合わせを感じるものだと、一世は自分がこれまで送ってきた日々を皮肉げに、だが大切そうに笑った。
「しかしながら、あの三人の曲はなんと言いますか、格好がいいですな」
「確かに、元々そういうイメージで売り出していたから、かな。実際に生歌聴くのは、俺も初めてですけど」
こっちの世界に来てから、一緒に朝の柔軟体操に付き合っていたから分かる。彼女達は本物の芸能人、アイドルなのだ。
それだけに、彼女のレベルは一般的な高校生のそれよりも高く、一世は自分が如何に基礎体力が無いかを自覚させられた。そして、それに合わせてアルエが柔軟のレベルを下げてくれていた事も。
そう考えると、自分の鍛錬が足りていない事に、急に恥ずかしさがこみ上げて来る。
「オラも、時々鼻歌さ歌ってる所にばったりって事もありますけども。あの歌は三人合わさって本当に完成すんだと、聴いて理解しました」
確かに、彼女達が今回歌う曲は、パート分けがシビアであり、一人で歌うにはすぐに息切れしてしまう。
故に、三人の息がピッタリと合致しなければ、すぐに曲調が乱れ、ライブが台無しになってしまうだろう事は、音楽についてそれほど詳しく無い一世であっても、理解出来た。
やはり、彼女達は、本物なのだ。
だからこそ、あの三人が本番でどのようなパフォーマンスを発揮するのか、一世とドギーは楽しみでならなかった。
「とは言え、彼女達を疎んじる人々は、何処からでも現れますよ」
「ジョウさん、いつの間に?」
突然二人の会話に割って入ったジョウの姿に、一世とドギーは驚きの表情を見せる。
「あんたがそう言う時は、決まって面倒な事があるんだろ?」
このローブの男の行動パターンをそれなりに理解出来るようになっている事に、一世は軽い自己嫌悪に陥る。
そして、ジョウは一世の言葉を肯定し、こう告げた。
「未来予測の結果、二週間後に彼女達のライブは襲撃されます」
この未来を覆せ。
ジョウは言外にそう言っていた。




