第七十六話 和平会談
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「この機体のアルカナの棺、本当にオルベイルに取り込ませていいんですか?」
一世は、ハンガーに固定され、動く事のないアル・ラヴァーを見つめながら、オルベイルのコクピットモニター越しにザリアーナに問うた。
「構わないわ。もうエイリアスも目を覚ましたし、何よりこの棺は危険だから。それに皇帝陛下の許可も頂いているしね」
二人の同調者を得る事で想定以上の性能を発揮する特殊な棺。
その性質さえコントロール出来ればまだ使い道はあるのだろうが、それを扱う事が出来ないと同調した当人達が判断し、このような判断を下したのだ。
その意志を尊重するべきだろうと一世は理解し、眼前の機体のジェネレーターブロックにオルベイルの手を添えた。
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スヴェントヴィトとペラウンの国境。その中でアナンタ・テリトリーの存在しない唯一のポイントに、機甲ギルドの戦力が集結していた。
開戦の準備は着々と整いつつあり、後は一世達が世界と女帝のアルカナの棺を奪還するのを待つばかり。
ギルドの主だった幹部は、誰もがそう考えていた。
しかし、その目論見は、まさかの形で裏切られる事になる。
「国境線の向こうに、オルベイルの姿を確認しました」
「来ましたか」
「し、しかし……その」
伝令の、その煮え切らない態度を受けて、ジョウとギルドマスターはすぐに野営地に設営された物見やぐらに登り、双眼鏡を覗き込んだ。
かつてのそれとは異なる外装が付与されているが、確かにそこにはオルベイルの存在があった。しかし、同時にオルベイルの背後には、二人が想定していなかった存在が、列を成して率いられていた。
エクリプスとエイレーネー、セカンド・ザディスとストレンガスが居るのは当然として、そこにスヴェントヴィト聖封騎士団のアルカニック・ギアの全てと、ランク第一位の筆頭騎士団長機、そして皇帝機アルカニック・インペリアルの姿がある事に、ギルドの面々は度肝を抜いた。
そう、スヴェントヴィト帝国の最高戦力を従えて、一世はギルドの拠点へと現れたのだ。
「ちょっと、これは一体、何のつもりですか?」
思わず、ジョウは一世に通信を入れる。
潜入を言い渡しておいて、敵の総大将を引き連れて帰還したのであれば、そのような反応も致し方無い。
「兵士達を解散させろ。戦争は、しなくて済む」
一世は、明らかに狼狽している様子のジョウに、そう言って返した。
ジョウは一世に反論しようと言葉を選ぶが、それよりも先に一世が続けて口を開く。
「キール皇帝は、機甲ギルドとの和平を望んでいるぞ。それに従わなかった場合、世間体が悪くなるのはそっちなんじゃないのか?」
一世にそう言われ、ジョウは仕方なくキール皇帝らを野営地に迎え入れる事にした。
「全く、あなたは私の予測を覆す存在だと思っていましたが、ここまでやるとは思っても見ませんでしたよ」
「褒め言葉として、受け取っておくよ」
「実際に褒めているんですけどねぇ」
ジョウはその言葉と共に、苦い笑みを浮かべた。
一世は最早自分の操り人形にはならない。彼は自分から状況を作り出す側の人間となったのだと、ジョウは強く認識せざるを得なかった。
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「これで、双方の目的は同じである事が確認されました。今後は機甲ギルド、スヴェントヴィト帝国は合同でドゥクス・アナンタへの対抗策を講じるべく、手を取り合って行く事になります」
機甲ギルドと、スヴェントヴィト帝国の会談は、思いの外スムーズに進行した。
そもそも、ジョウは帝国に対して敵愾心を持ち合わせておらず、戦争はあくまでアルカナの棺を手に入れる為の手段として見ていた。
キール皇帝も、将来的な危機を乗り越える為にはアルカナの棺の全集結が必要であると受け止めた上で、ギルドとの協調路線に舵を切ったのだ。
しかし。
「協調路線が明確化しても、反対派は現れます」
「今回の戦争で利潤を得ようとしている者は多かったからな」
キール皇帝の両脇を固めるチャリスとペンタルクが、今後の懸念事項を端的に指し示す。
「それは理解している所存です」
ジョウもそれに対して理解を示すが、二人よりもあまり問題視している様子は無かった。
「言葉が軽いですね。それとも反対派の動きは既に掴んでいるとでも?」
ジョウの態度に、チャリスがカマをかける。
それに対して、ジョウは彼女の顔を見ると、にこやかに笑みを浮かべ、口を開く。
「ええ。隠者と魔術師の棺の力で、ある程度の反対派閥の動きは見えています。彼らが行動を起こす前に、その不満を解消するくらいの事は、出来る筈です」
未来を見通す隠者の棺。そして過去の情報を蓄積する魔術師の棺。
それの力が合わさった時の威力を、キール皇帝らはジョウの言葉を以て理解した。
「そして、反対派閥を抑え込めれば、我々は最優先事項に注力できる」
「やるべき事、とは……?」
ジョウが新たな議題を切り出し、ペンタルクがそれを問う。
「未だ未発見の愚者、星、そして審判のアルカナの棺の捜索です。これらを確保し、人造神の復活を確たるものとした上で、ドゥクス・アナンタに対抗します」
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実のところ、アルカナの棺の捜索はギルド、帝国双方共に水面下で行ってきた。
だが、このゾリャー大陸では既に主だった遺跡や遺構の捜索は終わっており、力のアルカニック・ギア、ストレンガスの発見・発掘を以って、この大陸の全てのアルカニック・ギアは全て発掘し終えたと言われている。
「未だに調査が進んでいないのは、ワステュルジ亜大陸と、グラウンド・ゼロ。そしてノヴァ大陸、この三箇所ね」
一世達の前で世界地図を広げ、メアリが未だ棺が発見されていないポイントをピックアップする。
ワステュルジ亜大陸は、ゾリャー大陸の南端から伸びる巨大な島であり、大陸とは異なる亜大陸と分類されていた。
そして、ワステュルジ亜大陸から東へ向かった所に、ノヴァと対立するアガトラ王国が存在し、そのアガトラの北側に存在する半円状の湾こそが、グラウンド・ゼロと呼ばれているポイントだった。
グラウンド・ゼロの中心にはぽつんと小さな島が存在しており、見方によっては巨大なクレーターのように見えなくもない。ジョウ達はこの島にアルカナの棺が存在していると見ているらしい。
「調べるなら、まずはワステュルジを渡ってグラウンド・ゼロに向かう事になるか……」
一世が卓の上で頬杖をつきながら、辿るべき道筋に当たりを付ける。
「いや、ワステュルジは大小様々な国がそれぞれ睨みを効かせている紛争地帯だ。スヴェントヴィトの武力も、まだここには至っていない」
シイナがワステュルジの情勢を端的に説明する。
「それじゃあ、グラウンド・ゼロも?」
「そう。ここもまた、何もない海域に見えて複雑な海流によってそこに近づく事も難しい」
シイナの様子を伺いながら、アルエが問うと、黒髪の少女は淡々とした口調で魔の海域の状況を説明した。
どちらにしても、この二つのポイントでの面倒事は避けられないと、一世達は覚悟を決めた。
「ところで、さ」
ふと、思い出したかのようにアルエが話の腰を折る。
「アルカナの棺は二十二個、未発見の棺が残り三つなら、太陽の棺はどこにあるの?」
尤もらしい疑問だと、一世とネインはアルエの言葉に同調する。そして、その疑問に答える為にメアリが口を開いた。
「ああ、それなら……」
「メアリ、無事に戻って来たんけ?」
その瞬間、一同が会議に使っていたテントに大柄な男が一人、入って来た。
身長二メートルを越すであろう適度に鍛え上げられた巨体に乗っかった、のほほんとした雰囲気の顔が、どこかミスマッチさを醸し出す。
「ええ、私は何ともないよ。それより、今丁度あなたの事を話していたの」
「そうなんか?」
そう言って、巨漢はテントで卓を囲む一世達を一瞥する。
「紹介するね。この人はドギー。太陽のアルカニック・ギアのパイロットで、私の旦那様よ」
「旦那様ッ!?」
メアリの口から最後にまろび出た言葉に、一同は思わず釘付けになる。
特にアルエはその現実が信じられないような表情を見せるが、当のドギーは、何故そのように驚かれるのかすら理解していないようだった。




