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Ep④それぞれの秘密

離れにいる騎士3人とオリヴィアの世話は概ねメアリーとアンジェリカが交代で担うことになった。


しかし、事件は数日で起きた。

メアリーが離れの患者の紋章入りの衣類を洗濯していたところ、そとに用を足しにきた帝国の騎士に見つかってしまった。


それを知った帝国の騎士たちは離れの前に詰め寄った。

「ここにいるのは分かってるんだ!ここを開けろ!!」


殺気立った騎士たちの中には剣に手をかけているものもいる。

離れの前には騎士たちと対峙するようにグレースとクレア、メアリーたちが立ちふさがっていた。

「ここには誰も入れないようにジョージから言われているわ、下がりなさい」

グレースが毅然と言い放った


「うるさい、そこをどけ!どかなければ痛い目をみるぞ、ばばあ!」

「んまあああ!麗しい乙女バージンになんてことを!」

グレース38歳が白々しく言った。


「はあ?麗しい乙女だあ?!」

「全員乙女(バージン)なのはあってるわよ!」

「全員とは限らないわよ?ふふふ」

グレースの横でメアリーがポツリと呟いた。


その場にいたものが皆メアリーを見て固まった。

「…え?」

グレースとクレア、そして騎士たちが目を丸くしている。


「長く生きていると色々あるのよう」

ふふふっとメアリーは又いたずらっぽく笑っている。


「とにかく!そこをどけ。たたき切るぞ!」

血が上った騎士の数人が彼女たちを脅すように剣を抜いた。


「ああ!神よ!」

突然それまで黙っていたクレアがロザリオを握って仰々しく叫んだ。


「主の僕である私たちに慈悲を持たぬ愚かな彼らをお許しください。彼らがあなたのもとに召される時、どうか地獄の業火に放り込まれませんように」

「ちょっ…や、やめろ!」


「ああ主よ!」グレースが続いた。

「彼らの傷を癒すとき、うっかり手元が狂って彼らに更なる苦難が降りかかったとしても、愚かな私の手をどうかお許しください」

騎士たちの顔が引きつり始めている。


「わが主よ、彼らの糧に薬と下剤を見間違えて入れてしまうかもしれない、年老いた私の目をどうかお許しください」

メアリーが静かな声でとどめを刺した。


「「「アーメン」」」

「後の二人、確信犯じゃねえか!」


離れの中ではアンジェリカがオリヴィアの背中をさすっていた。外から聞こえる騎士たちの怒号に怯えて過呼吸を起こしている。

興奮した騎士たちがなだれ込んできたら、ひとたまりもない。


するとそこに療養中のはずの従者と騎士が腰に帯刀して2階から降りてきた。

「あなた、まだ熱が下がっていないでしょう!?」

アンジェリカは外には聞こえない声で傷が一番ひどかった少年の騎士に言った

「あいつらの目的は俺だ。どのみち死ぬなら迎え撃って散った方がましだ。後ろに隠れていろ」


外では騒ぎを聞きつけたジョージとトムがやってきていた。

「何をしている?」

凄みのある声でジョージが騎士たちをにらみつけた。

「この屋敷で剣を抜くことは主である私が許さん」


「あなたを切りたくはない、どいてくれ。さもなくば中の奴らを引き渡せ」

「私の患者だ。手をだすな」


一触即発の空気が流れる中、トムが前に進み出た。

「皆、剣を収めよ!」

トムの厳然とした声が響いた。


「しかし殿下!」

騎士の一人の言葉に中にいたアンジェリカは耳を疑った。殿下?


「ミハイル様、ここにはイングリッドの兵士がおります!」

「黙れ!この屋敷でレイブン卿の言葉に従わぬ者は私に仇なすものと心得よ!」


トムに一喝されて、それまで興奮していた兵士たちは一様に黙りこみ、それぞれ剣を鞘に納めていく。

そして各自部屋に戻るように言われ、解散していった。

中には、十字を切りながら戻るものもいた。


「レイブン卿、シスター、ご迷惑をおかけしました」

トムが深々と頭を下げている。


「頭をあげてくださいませ。あなた様のおかげで、また寿命が延びました。”ミハイル・トーマス・ウェルズ殿下”でよろしいかしら?」

メアリーがいたずらっぽい笑顔でいった。


「ははは、とうとうバレてしまいましたね」

トム改めミハイルが観念したような表情で笑った。


「レイブン卿、中の方とお話しは出来ますか?ご覧の通り僕は丸腰です」

「中の様子を先に確認します。少々お待ちを。…入るぞ」


そういってジョージが中へ入ると、騎士たち三人がアンジェリカとオリヴィアを庇うように立っていた。

「剣を収められよ、兵士たちは部屋へ返した」

剣先をこちらに向けている騎士たちに、ジョージが務めて冷静に声をかけた。


「それより子供を見てやってくれ」

剣を鞘に戻した少年騎士がオリヴィアとアンジェリカに視線を送った。


ジョージが子供を確認する。

「アンジェリカ、オリヴィアを上へ」

「はい」そういってアンジェリカは子供を抱えて一旦2階へ上がった。


「君の傷も見せなさい」

ジョージが声をかけるが、少年の騎士の方がそれを遮った。

「いや、大丈夫だ。そちらのお方も話がしたいのだろう」


その言葉にジョージは黙ってうなずくと、三人から剣を預かった。


「ミハイル殿下、中へ」

ジョージに促されミハイルは従者一人と共に中へ入ると静かに驚いた。


「君は…」

敵国イングリット王国の第2王子、ユージーン王子がそこにいた。


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