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Ep③高貴な騎士と3人の聖女たち

残酷な描写があります。苦手な方はご注意ください。

注意:この作品はフィクションです。作中の診断や治療を現実に行うことは大変危険が伴います。実際の健康上の問題に関しては必ず医師や医療機関にご相談ください。

 敵国イングリット王国の紋章が刺しゅうされたマントから、一目で高貴な騎士と分かる少年は顔面が紅潮し、荒い息をしていた。


「一旦、離れの方へ」

 ジョージがそういって、ほかの騎士たちに見つからないよう畑の傍にある別棟の2階へ患者を移し、アンジェリカも処置に必要なものを運んだ。


「体がとても熱い。おそらくはこの傷からの熱だろう」

 ジョージは少年の脇腹の傷が腫れて、中に膿がたまっている様子を見て言った。


「ここに溜まっている膿を一旦出します。少し切りますが構いませんか」

「構わんっ…私の手足を、動かないように縛れ」


 まだ少年といっても差し支えない幼さを残しながらも、毅然と従者と思しき騎士二人に命令した。

 ベッドに手足を括り付け、声が出ないよう手拭いを噛ませた。


 処置の間、少年は苦痛に顔をゆがめ、脂汗をかきながら耐えていたが、処置が終わると、熱と疲労のためか気を失うように眠った。


 従者の騎士たちもそれぞれ裂傷や打撲を負っており、そちらの治療も行った。

 処置後、後片付けをしながらジョージが従者に言った。


「彼はおそらくあと数日は熱が下がらないかもしれない。しばらくはこちらで安静にするように。」

 ジョージが眠っている騎士を見た。


「ご厚意感謝します。ただ私たちのことはどうか内密に」

「もちろん善処はするが…こちらには帝国の騎士達もいる」

「はい、問題が起きる前にここを出るつもりです」


「ところで、ここまでどうやって?」

ジョージが3人のうち少し年上らしき従者に聞いた。

「主がけがをしたあと、村の外れまで馬で飛ばしてきました。馬も人も動けなくなったところを親子連れにみつけられて。見かねた彼らが水と新しい馬を用意してくれたのです。その時にこちらが一番近いと教えてくれて」


「そうか。…とにかく疲れただろう、何か食べたかい?」

「いえ、とてもそれどころでは…」

「アンジェリカ、何かだせるかい?」

「はい、簡単なものですが」


 アンジェリカは騎士達に晩の残りのスープとパンを運んだ。

「残り物で申し訳ありませんが…」

「とんでもない、ありがとう」

 ここに来るまでずっと張りつめていたのだろう。若い騎士の険しかった顔から少しずつ緊張が解けている。


「ほかのものに見つからないように、熱が下がって傷がふさがるまではこの屋敷で過ごしなさい」

 父にそういわれて、騎士達はベッド横のカウチとソファに休むことにした



 数日後の昼過ぎ、修道院から3台もの荷馬車が到着した。

 先頭の荷馬車の御者台にはアンジェリカの兄ジョンが座っていた。

「お兄様!」

 アンジェリカが御者台に駆け寄った。

「アンジェリカ!久しぶりだな」

兄の元気そうな声を聴いてアンジェリカは懐かしいような嬉しいような気持ちになった。


 荷馬車の後ろからは2人の聖女が下りてきた。

 一人はやや老齢の聖女でもう一人は見習いのようだ。

「メアリーおばあちゃま!」

 アンジェリカが老齢の聖女に抱き着いた。


「やあアンジェリカ、また大きくなって」

 メアリーはそういってアンジェリカを抱きしめると目を細めた。

 もう一人の見習いの聖女はクレアといった。


 2台目の荷馬車からは更にもう一人の聖女と5~6歳の女の子が一人いた。

 手伝いにきた騎士の一人が子供を降ろすのに手を貸そうとしたが、子供は聖女にしがみついている。

「ダメなの、騎士を怖がってしまって」

 そういって子供を抱いて降りてきた。


「グレース様、ありがとうございます」

 アンジェリカが子供を抱いた聖女に礼を言った。

「いいえ。それにしてもダイアナにますます似てきたわね、アンジェリカ」

快活そうな声が響いた。

 彼女はアンジェリカの母ダイアナの修道院時代の古い友人であった。


「この子は?」

「オリヴィアよ。つい最近両親を亡くしてね。静かな所で過ごさせてあげたいのだけれど、離れは使えるかしら?」

「ああ、あの、それはお父様に聞いてみて下さい」

 アンジェリカが言い淀むと、何か事情がることをグレースは察した。


「わかったわ」

 グレースがそういうと、ちょうど屋敷からジョージも出てきてグレースたちに礼を言った。

 彼女の話を聞いて、二人は屋敷の中へ入っていった。


「それにしても、すごい量の物資ね」

 アンジェリカは呆気に取られていた。

 荷馬車には食料やアルコールのほか、リネン類や薬草、精油、石鹸まで詰め込まれていた。


「弟を少々脅してね」

 メアリーがイヒヒヒヒと笑っている。

 彼女の実家は豪商だと聞いていたが、家業を継いだ弟は彼女に弱みを握られているらしかった。


 物資は兄のジョンを中心に少し動けるようになった騎士たちが屋敷に運び込んだ。

 そしてその日から、アンジェリカと3人の聖女がこの人里離れた診療所を手伝うことになった。


 離れに案内されたグレースはジョージから事情を説明された

 グレースが2階の騎士たちにあいさつした。

「ジョージから事情は聞いたわ。でも口は堅い女ばかりだし、この子はしゃべれないから安心して…って、何か?」


 グレースは騎士達が子供を見てなにやら動揺しているのに気が付いた。


「…いや、構わん」

 まだ起き上がれない少年の騎士の方が横になったまま言った。

 しかしオリヴィアをみた付き添いの従者二人の表情は曇っていた。

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