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Ep②影武者と魔女

注意:この作品はフィクションです。作中の診断や治療を現実に行うことは大変危険が伴います。実際の健康上の問題に関しては必ず医師や医療機関にご相談ください。

 翌日から、ケガを負った騎士たちがさらに運び込まれることになった。

 最初は2人、翌日にまた3人と増えていき、そのたび、ジョージとアンジェリカは治療にあたった。


 傷口のガーゼは毎日変え、その都度、治療器具と共に洗浄、煮沸消毒された。

 清潔な寝室で休めるよう、部屋は毎朝空気を入れ替え、掃除のあとアルコールであちこち拭き上げた。

 日に日に増えていく負傷者にだんだんとアンジェリカたちの仕事が追い付かなくなりそうだった。


「修道院に手伝いを寄越してもらおう。それとジョンにも少しの間戻るよう手紙を出しておく」

 ジョンは大学で医学を学んでいるアンジェリカの兄だ。

 そういってジョージは村へ戻る騎士に手紙を託した。


 一週間ほどたつと、治療の甲斐あってかトムは少し動けるようになってきていた。まだ右手の添え木は外せないが屋敷の中を歩くのは問題ないと父が許可していた。

 屋敷の裏の畑でアンジェリカが薬草を摘んでいるのを見つけると声をかけた。


「僕にも手伝えることはあるかい?」

「ありがとう、じゃあ、このカモミールを積んでもらえるかしら?」

「わかった」

 そういって二人で摘み始めた。


「薬草に詳しいんだね、父君から学んだのかい?」

「ほとんどは母よ。孤児だった母が修道院で薬草の知識を身に着けたときいているわ。そこで奉仕しているときに医学生だった父と出会ったの。母が孤児院を出た後、二人は村に小さな診療所を開いて、私も小さい時から母に薬草の知識を聞いてある程度身についたし、修道院に手伝いに行ったりもしていたのよ」


「なるほど。では母君はどうしているんだい?」

「…疫病が村を襲った時に伯爵さまがすべて母のせいだと言い出して…最後は魔女扱いされて死んだわ」

 一瞬アンジェリカは言い淀んだが、薬草を摘みながら務めて淡々と話しているようだった。

 トムは村人達がこの少女を魔女という理由が少し理解できた気がした。

 よく見るとアンジェリカの口元が少し歪んでいる。悔しさをかみ殺しているようだ。


「そうだったのか…辛いことを聞いてすまない」

「いいの、でも母は魔女じゃないわ」

「ああ、君を見ていればわかるよ。とても素晴らしい母君だったのだろうね」

トムは母を亡くしたアンジェリカと、今もなお母親と同じ魔女ではないかと噂されているアンジェリカのこれまでを想像した。


 アンジェリカは話題を変えようと顔をあげた。

「ところで、聞いてもいいかしら?答えにくければ答えなくていいのだけど」

「ん?何だい?」

「…あなた、ミハイル殿下の、その…影武者なの?」

「…ああ、実はそうだったんだけど、こんな有様でね。主に向ける顔もないよ」

「でも、影武者なんて命がいくらあっても足りないじゃない…」

アンジェリカが気の毒そうにトムを見た。


「ははは、僕の命なんて大したことはないさ…両親にとっても僕は沢山いる兄弟のうちの一人に過ぎないしね。何ならあの時死んでも良かったんだ」

 トムの顔にどこか皮肉めいた表情が浮かんだ。


 しかし、それを聞いたアンジェリカの目つきが険しくなった。

「…なぜそんなこと言いうの?」

 先ほどまでとは違ってアンジェリカの声がかすかに震えている。


トムはアンジェリカとジョージに助けてもらったことより、自分の不遇さを嘆いている自分に気づいて申し訳なくなった。

「…すまない。そんなつもりでは…」

「父は、あなたに生きてほしくて助けたのよ」


 静かに怒りを孕んだアンジェリカの声にトムは独りよがりな自分の子供っぽさを恥ずかしく感じた。

「本当にすまない。君たちのこと軽んじたわけじゃないんだ」

「…分かってるわ」


アンジェリカの言葉にトムは少しほっとした。

「また、手伝いに来てもいいかい?」

「ええ、無理しない程度になら」



 それから毎日のようにトムはアンジェリカの手伝いをするようになった。

 一緒に薬草を摘んで、綺麗に洗い、そのたびにアンジェリカを盗み見た。

 薬草はそのまま使うものもあれば、風通しの良い日陰に干すもの、アルコールに漬けるものもあった

 少しぶっきらぼうではあるが、的確な指示を出すアンジェリカをじっと見つめてしまうこともあった。

 ある日の朝にはアンジェリカが朝食を作っている間にジョージと食事の準備をしながら時折アンジェリカの様子を盗み見ていた。度々ジョージの咳ばらいが聞こえて、慌てて手伝いに戻った。


 アンジェリカの方は、なぜかトムにずっと見られているようで少々やりにくいような気もしていた。

顔をあげれば目が合い、振り向けば目が合う。

一方でトムの物覚えの良さには驚いていた。

 傭兵でありながら、王子の影武者として徹底的に叩き込まれたのか、所々に垣間見える丁寧な所作や言葉遣い、物腰の柔らかさに感心していた。


    


 ある晩、皆が寝静まった夜半にまた兵士3人が屋敷の前についた。

 しかしいつもの兵士たちとは様子が違う。

 フードを目深に被った騎士を二人の従者が支えて小さく戸をたたいた。


 他の兵士たちを起こさないよう、ジョージが出た。


「ここにどんな病も傷も治す魔女がいると聞いたが」

「患者は?」

「この方だ」

 まだ幼さの残る患者をみてジョージはすぐに診察室へ運んだ。すでにアンジェリカが準備を始めていた。


 フードを脱がせると、ジョージとアンジェリカの二人は息を飲んだ

 隣国の紋章が刺しゅうされた上質なマントが現れたのだ。

 敵国の騎士、それも位の高いものと一目でわかった。


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