2日目
16、2日目
2日目の営業は日曜日だった。朝から準備万端、畑から大根やネギの収穫も終え、だしつゆづくり、麺打ちと前日と同じ準備をしっかりとこなして11時を迎えようとしていた。営業中の看板を出したところすぐにお客さんが入り始めた。2階の部屋の3つの座席はすぐにいっぱいになってしまった。全部で8人、妻が注文を取りに行くと16杯の注文が入ってしまった。30杯を定量と決めていたが、午前中の営業だけで16杯が出てしまった。うれしい悲鳴を上げながら16杯の蕎麦を順番通り6杯、4杯、6杯と3回に分けてゆで上げた。その後も順調に客が入り、午前中の営業を終えたが、昼休み中に妻が
「あと5杯しかないのは夕陽を見に来てくれるお客さんに申し訳ないわ。お昼のうちに、あと30杯分作っておいたらどうかしら。」
確かにそうだとも思った。しかし、手打ちそばの店の営業形態はなくなったら終わりと言うのは標準的である。それに毎日同じようにお客さんが入るとは限らないのである。
「とりあえず、今日は追加するのはやめよう。午後の様子を見てまた考えよう。」
と答えた。たった2人で切り盛りする店で無理をすると続かない。体力的にも厳しくなる。自分たちのできる範囲でやっていかないと必ず弊害が出る。そう考えた結論であった。
午後の営業を2時に開始するとすぐに5杯全部出てしまった。3時には閉店。完売である。
夕方、暇になってしまった2人は営業方針についてもう一度話し合った。
「30杯の定量を増やして50杯にすると、的川蕎麦の蕎麦粉が底をつき、6月ごろには営業ができなくなり、夏場は閉店して新蕎麦が出るまで待つということになる。しかし、それも新しい蕎麦屋の形かも知れないね。」
と杉下が言うと妻は
「夕陽亭と言う名前にして、夏のきれいな夕陽の時期に営業してないのもおかしいかもしれない。夕方限定で営業と言うのはどうだろう。」
「それはないよ。お酒を提供する店の営業時間になってしまうよ。今回は開業したてだったし、土曜と日曜だったから混みあったけど、2週間ほどすると誰もお客さんが来ないかもしれないからそんなに心配するのはよそう。そんなにお金を儲けようなんて気持ちはもともとなかったんだから、適当に楽しんで蕎麦を打って、お客さんと楽しくお話ができればそれでいいじゃないか。」
と提案すると、妻も
「そうよね。繁盛したのは最初だけなんて言うのはよくある話よね。」と言って方針は変えないことに決まった。
厨房で話を聞いていたご婦人たちは
「60歳を過ぎてからのお仕事はあんまり頑張りすぎてもダメなのよね。ほどほどが大事なの。お二人の判断は懸命だったんじゃない。」と言ってくれた。
「そうなんです。注文が入ったからと言ってたくさん作っていたら私たちの体が持たないし、夏の初めにはこだわりの蕎麦粉が底をついてしまい夏から秋にかけて休業しなくてはいけなくなっていたかもしれません。それに所詮素人が始めた蕎麦屋ですから最初は物珍しさがあったかもしれませんが、客足は落ち着いていくものです。落ち着いて考えてよかったです。」
と言って次の話に移っていった。




