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屋台転生 〜その料理人最強につき〜  作者: 楽
第二章 城塞都市 ヴェルスタッド
39/64

第35話 聖女ってブラック職業じゃないですか?

※前話と同じ時間軸の別視点です。

(私の手ってこんなにゴツゴツしてたっけ…。)



 使命に明け暮れ、戦いだらけの日々だったから全然気づかなかった。

 思えば最近巡礼や救済よりも、魔物を祓う使命を仰せつかる事が多かったかもしれない。



(女の子の手には見えないや…。)



 傷は魔法で治せても何度も剣を振るって厚くなった皮はそのままだ。


 聖女として望まれるまま剣を振るい続けてきて残されたのは一振りの剣とこの歪な手ぐらい。


(どうしてこうなっちゃったんだろう…。)


 あの人が言っていた事が本当だとは信じたくない。

 だけど、私の本名や生い立ち、加護の事まで全て真実を語っていた。


 もし、今回の一件もあの人の言う通りだとしたら…。



(私はいったい何のために…。)



 襲い来る混乱と恐怖が入り混じった感覚に身を焼かれ、思わず膝を抱えた。


 ダンジョン内で不思議な二人組に助けられて約1週間。

 この感覚に襲われ続け憔悴しきっていた。


 多分聖女セイラとしての私を知っている人物が居たらさぞ驚くだろう。

 ローザンヌ教国の聖女として信者の希望として恥ずかしくないように振舞ってきた。


 でも今はその様に振舞える自信はない。

 自分が信じてきたものが揺らいでいる今では。


(ダメだ、何も考えられないや…。)




 今日何度目か解らない負の思考を終えたところでドアがノックされた。




「今大丈夫かしら?」

「あ、はい。どうぞ…」




 ポットを片手に部屋に入ってきたのはネメアさん。

 私を助けてくれたレオンさんのお母さんだ。


 ネメアさんは素性の知れぬ私の面倒を嫌な顔一つせずに見てくれる

 陽だまりのように温かく、安心感を与えてくれる人だ。


「どう?少しは食べられたかしら?」

「あ…すいません…。」


 私は机の上に置かれた料理に目をやると申し訳ない気分になった。

 あの料理はレオンさんが気分の振るわない私に、と色々工夫してくれた料理のうちの一つだ。


 気持ちは有難いけど、今は何も食べる気になれない。


「いいのよ、体が受け付けない時はしょうがないもの。」


 そう言いながらネメアさんは机の上のカップにポットの中身を注いだ。

 なんだか不思議と気持ちが安らぐ香りが部屋に広がった。


「もし飲めそうだったら飲んでみて、少し気持ちが落ち着くわよ。」

「有難うございます…。」


 差し出されたコップを受け取り、一口飲むとほろ甘い香りと味が体に沁み込んでいった。


「美味しい…。」

「よかったわぁ、不思議と何も食べたくない時でも温かい飲み物って飲めるのよね。」


 そう、かもしれない。

 何かを食べなきゃって考えると何も食べたくなくなるんだけど、今の飲み物はすんなりと飲めた。


 ネメアさんはこうやって私の面倒を見てくれるが、私の事情については全く詮索してこない。

 それは有難くもあり、申し訳ない気持ちになる。


 その自責の念からか今日は自分から切り出してしまった。


「ネメアさんは…何も聞かないんですか?」

「急にどうしたの?」


 ネメアさんはベッドに腰かけつつキョトンとした顔でこちらを見てくる。


「素性も知れないこんな人間を息子さんが連れてきて、不審に思わないんですか?」

「そうねぇ、私の場合レオンちゃんのすることに慣れてきちゃったのかしらね。」


 修道院では身元の分からない子供を引き取ることはよくあるけど

 一般の家庭では普通じゃないはずなのにこのリアクション。

 レオンさんは普段から一体何をしているんだろう…。


「そんな適当な…。」

「勿論それだけじゃないわよ、キリエちゃんを見て放っておけなかったのも理由よ。」


 コップを置きながら思い出すようにネメアさんは語る。


「失礼かもしれないけど初めてあなたに会ったときに『かわいそう』って思っちゃったの、私。」

「そんなに私ひどい見た目でしたか…?」

「そうね、捨てられた子犬みたいに寄る辺ない雰囲気を醸し出してたわ」


 捨てられた子犬、だって。

 本当に捨てられたかもしれない身としては笑えない例えだけど、そんな風に見えてたんだ私。



「あとは、手かしらね。」



 自虐気味に俯く私の手に優しくネメアさんが触れた。


「え…手、ですか?」

「えぇ、私知ってるのよ。その手は凄く頑張ってきた人だけがなる手だって。」


 その手はまるで凍えたひな鳥を温めるかのように優しく私の手を包み込んだ。



「だからその若さでその手を持っている子が、こんなにもボロボロになっているのをみて私も悲しくなっちゃって。」



 少し悲しげな表情を浮かべながらギュッと私の手を握ってくれた。



「事情は分からないけどこの子のために何かしてあげたい、そう思ったのよ。」

「…ッ!」



 思わず頬を熱いものが伝った。


 この人は私をちゃんと見てくれている。


 今まで私が頑張ってきた事を分かってくれた。


 誰かの為に傷つきながら頑張ってきた一人の女の子である私を見つけてくれた。



 そう思ったらどこかに押しとどめていた感情が一気に溢れ出た。



「うっ… うぅっ… うわああああぁぁぁぁん!!」



 私は泣いた



 ずっと押し殺してきた感情を吐き出すように泣いた。



 その間ずっとネメアさんは何も言わず、ただ私を抱きしめてくれた。



 ―――――――――



「スッキリしたかしら?」

「はい。でも、私のせいで服がグシャグシャに…。」

「いいのよぉ、こういう時は泣いたほうがスッキリするもの。」

「有難うございます。」


 どれ程泣いたのか解らないけれども長い時間ずっとネメアさんに抱き着いていたから服が鼻水と涙で大変なことになっている。

 ごめんなさいネメアさん。


 心の中で非礼を詫びつつ、私は一つの決心をした。


「ネメアさん、私、自分の事をすべてお話します。聞いていただけますか?」


 私の生い立ち、聖女として生きてきた事。

 それらを全て聞いてもらった上で、ネメアさんがどう思ったか。

 それを知りたい、いや教えてほしい。


「えぇ、勿論。辛くなったらやめてもいいからね。」


 ネメアさんはいつもの笑顔で快く了承してくれた。

 大丈夫、ネメアさんになら全部話せる。


 こうして私はネメアさんに秘密をすべて打ち明けた


 ―――――


 その結果。





「許せないわ!!!!」





 ネメアさんは烈火の如く怒り狂っている。

 あんなにやさしい雰囲気の人だったのに…。


「自分の立場が危うくなったから我が子同然の子供を殺そうとするなんて、親失格、人間失格よ!」

「お、落ち着いてネメアさん…。」


 ネメアさんが怒り過ぎていて思わずこっちが引いてしまう。


「いーえ!怒ってます!私とても怒ってます。」


 風船のように頬を膨らませながらネメアさんは怒っている。

 ダメだ、私には止められない。


 半ば私が諦めているとネメアさんはとんでもないことを言い始めた。


「こんな扱いされるならセイラちゃんも聖女やめちゃえばいいのよ!」

「聖女を、やめる?」

「そうよ!女の子らしい事もさせてもらえずにずっと使命だなんだっていいように使われてるだけじゃない!」

「う”っ。」


 ストレートすぎる、でも聖女とは人のために身を削り命を賭す存在であって…

 それに私人助けするのは嫌いじゃないしその生き方をいきなり辞めるというのは…


「しかしそれは教えに背くことに…。」

「教えが何よ!?子を見捨てる人間が説く教えなんて嘘っぱちよ!」


 そう言われてしまうと立つ瀬がないのですがネメアさん。

 でも言われてみれば思い当たる節が少し…。


 明らかに教皇や僧正にお布施が集中するような仕組みもあるし

 経典の一部が不自然に修正されたこともあったような気がする。


(あれ、実は本当に経典って嘘っぱちなのでは…?)


 自分でも信じられない思考が頭を過ったその時


 またネメアさんから爆弾発言が飛び出した。


「そうだわ!悪い人たちはセイラちゃんが死んじゃったと思っているなら、今日からキリエちゃんとしてて生活すればいいのよ!」

「えぇ!?」


 本名を捨てる?

 そんなこと出来るのだろうか。


「聖女じゃなく、ちょっと正義感の強い一人の女の子として生まれ変わる絶好のチャンスよ?」

「し、しかし…それ、いいんでしょうか。」

「許します!たとえ他の誰が何と言おうと私が許します!」


 …今のネメアさんには神様だって逆らえないんじゃないだろうか。


 しかし、聖女であることを捨てる。

 そんなこと今まで考えてみたこともなかった。


 抵抗が無いと言ったら嘘になるが、ネメアさんのいう通り今まで通り自分が思うままに人助けをしたいのであればそれは聖女ではなく、一人の女の子であっても出来ることだ。


「そう、ですね。そういう生き方をしてもいいんですよね。」

「そうよ!もっと美味しいもの食べて、色んな世界を知って、恋をして…人生ってもっと自由で楽しい物よ?」


 心のどこかで憧れていた普通の人生。

 聖女として生きるために切り捨てた人生の一面だけど、また手にするチャンスが訪れた。


 こんな事を望むのは聖女失格かもしれないけど、もう関係ない。


「ネメアさん、お願いがあります。」

「なぁに?」

「見届けて貰えませんか、セイラ=タウンゼンドの最期を。」


 私は聖女を辞める。

 普通の女の子に戻るんだ。


 浅はかだと言われても構わない

 ただ幸せを振りまいて大人を悦ばせる道具のままでは居たくない。


「えぇ、私で良ければ。」


 私の覚悟を感じ取ってネメアさんは笑顔で大きく頷いてくれた。



「有難うございます。」



 私はベッドから立ち上がり、立てかけてあった長剣を引き抜いた。


 この剣の最期の役目だ、いついかなる時も私と共にあってくれた相棒。


 今までの感謝の念を心で唱えながら首の後ろに剣を当てがった。





「さようなら、聖女の私。」







 そして私は一切の躊躇もなく剣を振りぬいた。




お読み頂きありがとうございます。

いつも評価、アクセス、ブクマありがとうございます。


本編ですが

年頃の女子の気持ちがわからん!(切実)

本当ならもっとこんなに早く開き直れるものじゃ無いと思いますが…。

作者の無い頭ではこれが限界でした。


次話からはサクサクと書けるといいな。


それでは次回もお楽しみに!

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