第36話 北部抗争
「がぁっ…!」
糸の切れた操り人形のように兵士が崩れ落ちた。
「これで全部か?」
「そうみたいじゃのう。」
屋台の周りで俺達に殺気を向けていた奴達は粗方無力化した。
思いのほか簡単に終わったのは屋台の提灯に使われている「魔払いの灯」の功績も大きい。
襲撃犯は「魔払いの灯」の力で屋台に近づけず、まごついているところをサックリ狩らせてもらった。
「で、どうみるよハル。」
捕縛した襲撃犯は騎士・衛兵・町民と身分はすべて異なる。
共通していることといえば全員男だという事ぐらいだ。
「魅了を使われたとみて間違いないの。」
「やっぱりか。」
こいつらは集団で動いていながら、連携を全くとる気配がなかった。
それどころか接敵した奴らは支離滅裂な言葉を口走りながら襲い掛かってきたので、精神干渉系の魔法を使われたと推測するに容易かった。
「いやぁ見事なものよのう。」
「本当にあっという間だったねぇ。」
丸腰のシーラとゼオンは屋台で酒を飲みつつ俺達の戦いを観戦していた。
屋台の力があるからその実屋台は最も安全なシェルターなのだ。
「ゼオン伯よ、主犯は例の女じゃ。こ奴らの記憶にすべて同じ女が写っておったぞ。」
「むぅ、やはりか。」
片っ端から襲撃者をハルに視てもらったが、ビンゴだった。
一人でこれだけの数の男を魅了するとは随分と手慣れた輩に違いない。
「それじゃあそいつをしょっぴけば安泰ってことかね。」
シーラが酒を煽りつつ呑気な事を口走ると、神妙な面持ちでハルが呟いた。
「…残念ながらそう簡単にはいかんようじゃぞ。」
ーードドォンッ!
ハルがそう呟くや否や、轟音が街中に響き渡った。
「何事だっ!?」
音のした方角を見やると燃え上がる炎が空を紅く染めている。
「やはりのぅ、襲撃犯の記憶の中に怪しげな積み荷を運び入れている記憶があったのじゃ。」
爆発物か荷物にまぎれた工作員による破壊活動か。
その積み荷が何だったのかは推測の域を出ないが、この街の中に敵が入り込んでいる事は確かだな。
「しかもタイミングが良すぎるな。」
「そうじゃの、どうやらワシらを見ている奴がおったようじゃな。」
となると、城塞伯の殺害失敗を察知してこのまま騒ぎに乗じて逃げる算段か。
同じ推論を浮かべた俺とハルは目を閉じて魔力探知の網を広げる
脳内に浮かぶ魔力の点
その中で周りと違う動きをする点を洗い出す
「「居た。」」
微小ながら高速で城壁の方へ移動する反応が一つ
恐らくこいつが今回の主犯だ。
「ハル、爆発の方は任せていいか?俺はコイツを追う。」
「む、良いがなんでじゃ?」
「ここで力を見せつけておけば騎士団の奴等も突っかかってこないんじゃないかと思ってさ。」
「あんま目立つのは嫌じゃが…仕方あるまい。」
今回はゲリラ的な戦闘だが、今後大規模な戦闘が発生する可能性がある。
そうなるとハルの力が必要になるのは必定だが、その時に騎士団に足を引っ張られてしまっては敵わないだろう。
だから今ここで派手に力を示してぐうの音も出ないようにしてやると良いと思ったのだ。
「では行くとしようかのゼオン伯。」
「おぉぉおぉぉ!?儂飛んどるぞぉぉ!?」
そう言うとハルはゼオンを浮かび上がらせ城の方へ飛んで行った。
ご老体に乱暴な事するなよー…。
「んじゃ、アタシは商業区の避難誘導に回ろうかねぇ。」
「あぁ、頼む。無理するなよ。」
「大丈夫、ヤバくなったら逃げるさね。」
シーラもそう言い残し商業区へ駆けて行った。
「さて…俺も行くか。」
城壁に向けて移動を続ける反応に向けて地を蹴った。
ーーーー
(なんやのアイツら…!?)
離脱地点に向けて走る黒装束の人物は想定外の事態に歯噛みしていた。
城塞都市の中に紛れ込んで半年、何人も男を誘惑の魔法で手篭めにしてそのチャンスを待っていたのだ。
急に城塞伯が一人でお忍びで出掛けたので好機と思い仕掛けたのだが…。
(まさかあの魔術師がおったなんてほんまツイてないわ…!)
以前宴の席で仲違いをしてから烏羽の魔術師は城塞伯と協力関係には無かったはずなのだ。
それがまさか屋台にいて城塞伯を助けるなんてどんな確率の不運だろう。
(しかしあの屋台の店主はノーマークやったなぁ…。)
烏羽の魔術師と共に手篭めにした男達を打ちのめした金髪の子供。
かなり腕利きの男達を用意していたにも関わらず一太刀も浴びせられなかった。
想定外だらけの事で今回の襲撃は失敗だ。
そのせいで別の作戦に変更せざるを得なくなった。
今並行で動いているこの街の武器が備蓄されている場所の爆破とある人物の暗殺。
自分は混乱に乗じて離脱するので結果は解らないが、爆破の方は上手くいったようだ。
(今回の仕事は40点ぐらいやな―――ッ‼)
作戦の反芻をしていると、突如として悪寒が身体を駆け巡った。
「ッ!影潜航!」
寸でのところで魔術を発動させ陰に潜る
影の中から上を見上げると水面のように揺れる影の上を高速で鎖が通り過ぎていった
「まさか…ウチが尾けられた…!?」
今の魔法は間違いなく自分に狙いを定めて飛んできた。
部族内でも一・二を争う潜伏・暗殺技術を持つ自分が察知された事に衝撃を禁じ得ない。
「一体何者や…?」
影の中を泳ぐように動き、潜った影とは別の場所から顔を出す。
(アイツは屋台の…)
月に照らされて佇むのはまだ幼さの残る金髪頭の少年、先程目にした屋台の店主だ。
気が緩んでいたとは言え自分に気付くとは勘が良い。
だが。
見れば1人のようだ、しかもあっちはこちらを見失っているらしくキョロキョロと辺りを見回している。
(…チャンス到来ってやつやね。)
今は先程よりも魔力を抑えているからこちらの位置はバレようがない。
そしてここは城壁近くの集荷場、今の時間は人が通る事はまずない。
相手も気付いていない今、相手が一人なら…殺れる。
陰に潜り少年の背後に有る石壁に身を隠す。
丁度ここは死角になっていて背中が狙える。
(これも仕事やからなぁ、堪忍え)
スリットに隠した短剣を抜き取り構えた。
まだターゲットの少年は辺りを見回しているものの背中がガラ空きだ。
子供を手に掛けるのは気が進まないがこれも大願成就のため。
今更手を汚す事に躊躇いはない。
(遮蔽物に囲まれた場所で棒立ちは0点やでっ!)
内心勝利を確信し、短剣を投げるべく壁から飛び出した、
―――その瞬間
「あいたぁ!?」
盛大に後頭部を壁に打ち付けた。
(な、なんでや!?動けへん!?)
頭も身体もピッタリと壁にくっついて離れなくなってしまっている。
予想外の状況に処理が追い付かない頭に少年の呑気な声が響いた。
「お、やっとかかったか。」
お読み頂き有難う御座いました。
急いで書いているのでちょいちょい誤字が出てるようです、報告いただいた方ありがとうございます!
2章の最後「北部抗争」編スタートです。
また新キャラもちらほら出てきます。
新料理が出せるかどうか…
まだ未定ですがお楽しみに!




