第34話 密会酒場
※ちょっと今回長め+詰め込み気味です
ーーあの後俺たちはハルの部屋に転送され、すぐさま父さんと母さんに事情を話すこととなった。
全てを話したわけではないが、キリエの様子を見て察してくれたようだ。
今では母さんがキリエの世話を見てくれている。
当のキリエは茫然自失の状態で部屋にこもりっきりだ。
やはり真実に耐えきれなかったのか食事も喉を通らないらしい。
俺としては彼女の抱える事情がどうであれ、俺の飯を美味いと言ってくれた人をこのままにするのは忍びなかった。
色々と工夫を凝らして料理を作ってみたのだが…結果は惨敗。
流石の俺も手詰まりで頭を悩ませてしまったのだが、あまり根を詰めないように諭されたので、キリエは母さんに任せて今日は気分転換に屋台で夜の営業中だ。
…なのだが今日は客がやかましくてそれどころではない。
「なんか随分と旦那は浮かない様子だねぇ、なんか知ってんのかいハルヴェニーさんよ。」
「あー、気にするでないのじゃ、嘘つきの悪女に騙されとるだけじゃ。」
「それってだいぶ宜しくないんじゃないかい…?」
また勝手なことばっか言いやがって…。
ちゃんと聞こえてるんだからな。
「はいよ、タンとハツ、レバーお待ち。」
「お、きたきた。」
「待ってたのじゃ!」
今日は珍しくハルとシーラがセットで飲んでいる。
開店前から勝手に飲み始めてたハルに途中からシーラが混ざった感じだ。
「んへ、ほんなおんはなんはい?」(んで、どんな女なんだい?)
「んふー、むへはへはい。」(んぅー、胸がでかい。)
「お前ら飲み込んでから喋れよ…。」
その後はしこたまハルがキリエをディスる酷い酒の席だった。
俺としてもキリエがあの状態になったのはハルの発言が原因なので思う所がないわけではないが、実際何も知らないまま国に帰ってもロクな事が無かっただろうと考えると、何が正解なのか解らない。
(ハルもハルなりに考えてるっぽいしなぁ…。)
こんな見た目をしているが彼女は300歳オーバーの知恵袋だ。
その経験を経て今回の行動があるのだとするとなかなか口をはさみずらい。
俺の苦悩も他所に姦しい女性陣の話が盛り上がったところでシーラが思い出したように話を切り出した。
「そういや旦那、小耳に入れたいことがあったんだわ。ハルさんもついでに聞いとくれ。」
いつのまにか呼び方がハルになってる…!
シーラのコミュ力すげーな。
「どした?」
「なんじゃ?」
シーラがゴソゴソと鞄を漁ると紙の束が出てきた。
「実は旦那がダンジョン潜ってる間に気がかりな事が有ってね、ちょいと見てくれよ。」
渡された紙の束にざっと目を通したが…
紙に書かれていたのは近隣貴族の食材発注履歴と鍛冶屋の納品履歴だ。
どちらも通常よりも多い発注がかかっている、冬を前にこういった動き方をするとなると…
「北方部族か。」
父さんとの会話の中で北方部族の動きについてはなんとなく把握していたが、
本格的な冬を迎える前に一つ大きな動きがあることを皆察知し始めたらしい。
「なんだい、旦那にはお見通しだったって訳かい。」
シーラは俺を出し抜けず残念そうだが、そんな事は無い。
動きとして予想はしていたが、いつ動くかは把握していなかったからお手柄だ。
「いや、動いた人物を見て確信に至っただけさ。」
ルージュ伯は多数の騎士をこの街に派遣しているし、オーベルヌ伯は数は少ないが独自の情報網を持つ抜け目ない人物だ。
この2人が動いたということは一波乱あることが確定した事を意味する。
(キリエの事も有るし何やら色々と立て込んできたな…。)
書類を手に物思いにふけっていると暖簾が揺れた。
「何やら面白そうな話をしておるのう。」
そう呟きながら暖簾を掻き分けて男が現れた。
(何だコイツ…全然気配を感じなかったぞ…?!)
突然の来訪者に俄かに緊張が走る。
男は目深にフードを被った長身の老紳士、屋台を見回した後ハル達の横に腰掛けた。
「お隣、失礼しますぞ。」
腰掛けるまでの一連の動きに全く隙がない…。
この爺さん相当デキるぞ。
「な、何故…。」
あのハルですら気付かなかったようで目を剥いているが、どうやらハルはこの人物を知っているようだ。
「知り合いか?ハル。」
「知り合いも何も…ワシをこの街に呼び寄せた張本人じゃ。」
「というと…。」
俺が目線を戻すと老紳士はフードを取り、名乗りを上げた。
「お初にお目にかかる、儂の名はゼオン。この城塞都市の領主をやらせてもらっておる。」
まさかの来訪者の正体はこの街の領主、城塞伯ゼオンだった。
ーーーーーー
「それで、領主様自らワシを糾弾しに来られたかの?」
ハルも珍しく緊張しているようだ。
確かハルは城塞伯の部下を丸裸ににした挙句不能にしたんだっけか。
後日絡んできたその騎士を地平線の彼方まで吹っ飛ばしていたが…その件か?
「いやいや、まさか万象術士殿を相手にそのような事をする訳ありますまい。むしろ糾弾されるべきは儂の方…。」
そう言うとゼオンはハルに向き合って頭を下げた。
「この度は部下が無礼を働き申し訳なかった。」
城塞伯ほどの立場にある人間が神銀級とはいえ一魔術師に頭を下げている。
中々にスキャンダラスな光景だ。
流石のハルも呆気にとられたのか目をパチクリさせている。
「ゼ、ゼオン伯顔を上げてくだされ。ワシのような人間にそう易々と下げて良いご身分ではなかろうて。」
そう声をかけるがゼオンは頑として頭を上げない。
「ハルヴェニー殿に許しを頂くまではこの頭上げる訳にはいきませぬ、腹の虫が収まらぬのであれば素っ首叩き落として頂いても構わん。」
ゼオンの武人然とした雰囲気にこの場が呑まれた。
ただ頭を下げているだけなのに人を圧倒する存在感、やはりこの爺さん只者じゃない。
ーーパチッパチパチッ
一同口を紡ぐ中、串が焼ける音だけが響いていた。
…そして、しばらく沈黙が場を支配した後、根負けしたハルが口を開いた。
「ゼオン伯…ワシとて城塞伯ともあろう方がお一人で下民のもとに訪れ、あまつさえ頭を下げられる事の大事さを分からぬ頭は持ち合わせておらぬ。」
「では…。」
こくりと頷きハルは少し疲れた顔で締めくくった。
「無論、過去の事は水に流しましょうぞ。」
その言葉を待っていたと言わんばかりにガバッと顔を上げ、また深く一礼した。
「かたじけない…!」
気圧されたような形になってはいるが、これでハルは無罪放免ということになる。
何だかんだ今までハルは告発される事にビビって街中で隠匿を使って隠れていたがその必要も無くなった訳だ。
城塞伯の器がでかくて助かったな本当。
そこから先は城塞伯の奢りで無礼講となったので酒も入り緩やかに時間が流れている。
「いやぁこの煮込み、絶品ですな!」
「お、それがお口に合いましたか。」
ゼオンが頬張っているのはモツ煮の一種、ランプレドット。
俺は味噌仕立てが好きなのだが、無いものはないのでイタリアン風にアレンジしたモツ煮だ。
野菜と共に塩と胡椒もどきで味を整えたサッパリした味わいでエールにもあう。
「まさか城塞伯が来られる屋台になるとは、思っても見なかったねぇ、旦那。」
「全くだ。」
先ほどのやりとりを固唾を呑んで見守っていたシーラも調子が戻って来たようだ。
「おぉ、そなたはシーラ商会の会頭殿か!侍女たちから良い品を扱っておると聞いたぞ、是非今度我が城にも食材を卸して欲しいのぅ。」
「良いんですかい!?」
「うむ、先ほどの話といい先を見据えて動けるものとは良い関係を築きたいでな。」
思わずビッグビジネスが転がり込んできたようだ。
シーラは椅子から転げ落ちそうになっている。
街の露天商から城塞伯の御用達とはたまげたサクセスストーリーだな。
「そうじゃ、ゼオン伯。聞かれていたようじゃが先の話は実の所どうなのじゃ?」
先の話、というと北方部族の動きの話か。
「うむ…その実がなり雲行きが怪しい。」
ゼオンの口から語られた情報は俺達の推論を裏付けるものだった。
城塞伯が放っている斥候の情報では散らばっていた各部族が移動を始め、集結しつつあるらしい。
それだけでも脅威なのだが、ゼオン曰くこちら側に内通者が居るらしいのだ。
「最近怪しい動きをする騎士が数人おってな。そ奴等の周りを調べさせたのだが怪しい女の影が見え隠れしておる。」
「獅子身中の虫、という訳か。」
火力を優先して集めた魔術師団ではこういった搦め手の察知は不得手だ。
部下の動きといい、その女の正体を暴くには真理眼を有するハルの力がどうしても必要になった、という辺りか。
「ふむ、そういう事なら力を貸すのも吝かでない、と言いたいところなのじゃが…。」
「どうされた、何か問題でも?」
ハルが言い淀むと辺りに不穏な気配が漂った。
「レオンよ。」
ハルの意味有りげな目配せを察し魔力探知の網を広げた。
「あぁ…囲まれてるな。」
多いな、2.30人は居るか?
「むぅ、尾けられてしもうたか。」
タイミングが良すぎるが…
城塞伯が一人で出歩いている今は絶好のチャンスという訳か。
じりじりと満ち潮のように魔力反応が屋台に迫ってくる。
「いやはや千客万来じゃのうレオンや。」
誰が上手いこと言えと。
でも嬉しくない客だなー、飯も食わなければ金にもならん。
まぁここで城塞伯に貸しを作るのも有りか。
そうと決まればさっさと片付けよう。
「いや、今日はもう満席なんでな、悪いけどあのお客さん達には…。」
「お引き取り願おうか。」
お読み頂きありがとうございました。
もうすぐブクマも150に届きそうです、皆さんありがとう御座います。
さて本編。
ちょっと今回詰め込みすぎました…!
展開的にも2章そろそろ動きます。
あと何話ぐらいで終わるだろうか…多分一章の倍ぐらいになるかもしれないです。
間延びしててすいませーん!
しばらくお付き合い頂けると嬉しいです。
それでは次回もお楽しみに!




