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天才魔術師の私が、異世界から勇者様を召喚するまで  作者: 楚々園 ゆるぎ
最終章 そして私は願い続ける

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Awake:96 剣聖とネルファ

※別視点

 ノルンと勇者パーティーとの戦闘から、少し時間を遡る。


 高く登った太陽の光が、緑の芝生に強く照りつける。

 中庭には二つの影が向かい合っていた。

 その影の一つは、勇者パーティーの『剣聖』・エルザールだ。

 そして、そんな彼の前に立ち塞がったのは、全身に白銀の鎧を纏った騎士だった。


「アイク達を先に行かせて良かったのか? 見たところ、お前はここの門番なんだろ?」


 臨戦態勢を取りながら、エルザールは探りを入れる。

 すると、兜越しに返ってきたのは女性の声だった。


「別に私はここの門番というわけではない。そもそも勇者達を先に行かせたのは、最初からそういう命令を受けていたからだ」


 騎士が発した言葉の内容よりも、エルザールはその声音自体に引っ掛かりを覚えた。

 その声に、とても懐かしさを感じたのだ。


「門番じゃないってんなら、俺も通してくれて構わなかったんじゃないか?」


「それは出来ない」


 エルザールの言葉を騎士は即座に否定した。


「その理由を聞いてもいいか?」


「……」


 しばしの逡巡の後に、騎士はその兜を取った。

 露になったのは、若い女性の顔。そして、彼女の燃えるような赤髪がさらりと肩口に落ちた。


「まさか……」


 兜の中から現れた見知った顔に、エルザールは愕然とする。


「お久し振りです、師匠」


 そう言って、『紅剣』・ネルファはかつての師であったエルザールに目礼を送った。


「お前――」


 思いがけない邂逅。

 それはエルザールにとって、まさに寝耳に水の出来事だった。


「本当に、本当にネルファなのか……?」


「はい。私が立ち塞がった理由は、久し振りに師匠と二人きりで話したかった。それだけですよ」


 そう言って、ネルファは笑みを浮かべた。

 そんな自然体の彼女と対称的に、エルザールの動揺は凄まじかった。

 しかし、彼は激しい感情の揺らぎを抑え、必死に言葉を絞り出した。


「生きて、いたのか……。てっきり俺は、お前はあの戦争で死んだものとばかり……」


「そうですね。最後にお会いしたのがあの戦争へ向かう前でしたから、もう六年以上も前になりますか……。師匠が驚かれるのも無理はありませんね」


 ネルファは懐かしむような目をする。

 六年という歳月は、人を大きく変化させるのに十分な時間だ。

 外見も、人との関係性も、価値観も――。


「師匠、六年の間に随分と老けましたね」


「そう言うお前は、見ない内に随分と大人になったな……」


 彼らが互いに交わした言葉には、あらゆる感情が込められていた。

 弟子と師。

 その過去は変わらない。

 けれど六年という埋められない時間によって、何かが決定的に変わってしまった。

 それをネルファとエルザールは互いに感じ取っていた。


「――ネルファ、生きていたのなら何故六年間も姿を見せなかった? どうして俺に生きていると伝えず、ずっと行方を眩ませていたんだ?」


「……」


 エルザールの問い掛けに、ネルファは黙った。

 そして、彼女は瞼を閉じる。


 六年前、帝国における戦争。

 そこで窮地に陥った軍を逃がすため、ネルファは自分の率いていた部隊と共に殿となり、その戦場で死んだと思われていた。


 けれど、ネルファは生きていた。

 師であるエルザールにすら安否を伝えず、それもあの世界の敵である【終わりの魔女】の麾下に加わっていたのだ。


「――六年前の戦いのあらましを、師匠は何と伝え聞きましたか?」


 そう言って、ネルファは鋭さを持った瞳をエルザールに向けた。


「俺が聞いたのは――」


 エルザールは手短に語った。


 ネルファは自分の部隊を率い、戦場の最前線に駆り出されていた。戦況は優勢だったが、そこに万を越える敵の増援が現れたことで、軍は突如劣勢となった。

 しかしネルファが自ら志願して、部隊と共に殿(しんがり)を務めたことで、帝国軍本隊は壊滅を免れた。

 そして、ネルファとその部隊は戦場で犠牲になった――と。


「ははっ、私が自ら志願した……か。どうやら帝国の将校どもの性根は、本当に腐りきっているようだな……」


 彼女は素の口調で、皮肉げに笑った。

 そして、再び言葉遣いを直し、エルザールに告げた。


「師匠、貴方が聞かされた話は全くのデタラメです。何故なら、私は殿(しんがり)になど自ら志願した覚えは無いからです」


「……何だと?」


 怪訝な表情を浮かべたエルザール。

 そんな彼に、ネルファは告げた。


「分かりませんか? 私はあの戦いで、帝国に裏切られたのですよ」


「なっ……!」


 エルザールは驚き、目を見開いた。

 彼は呆然とする。

 そんなエルザールを置き去りに、ネルファは言葉を続けていく。


「おそらく小娘の出世を気に食わない者がいたのでしょう。私と私の率いた部隊は、わざと敵陣の真っ只中に孤立させられたのです。それも、信じていた味方から」


「……!」


「私を信じて付いてきてくれた部隊の兵達が次々死んでいく。それを悲しむ暇も無いまま、私は襲いくる敵兵を殺し続けるしかなかった。その気持ちが師匠には分かりますか?」


 信じていた味方から裏切られ、仲間達が次々と戦場に散っていく。

 その光景を前にしながらも、ネルファは必死に敵と戦い続けた。

 最早戦う理由すら失いながらも、彼女はひたすらに剣を振り続けたのだ。


「ネルファ、お前が裏切られたのは分かった。だから帝国を離れたということも分かる。だが、それでも解せねえことがある。どうしてお前は、魔女(そっち)側に付いているんだ?」


「――ああ、そうでした。師匠はノルン様を倒しにやって来たんでしたね」


 つい忘れてしまっていた。ネルファはそんな顔をする。

 それから一拍を入れ、ネルファは懐かしげに口を開いた。


「最初は私も師匠と同じ目的でしたよ。以前、私も【終わりの魔女】を殺す為に、わざわざこの城までやってきたんですから」


「お前が魔女を殺そうとしていただと?」


 ネルファはコクリと頷く。


「あの戦いから生き延びた私は、帝国に戻る気など到底起きませんでした。裏切られた私には、あの国に居場所があるとは思えませんでしたから。それから私は、冒険者として食い扶持を稼ぎながら、ずっと死に場所を探していました」


 味方から裏切られ、戦う意味を失った。

 それからのネルファは、まるで脱け殻のように剣を振るうだけの存在になっていた。

 心は戦場に置いてきた。

 ネルファは何度も、あの戦いの中で自分も仲間達と一緒に死ぬべきだったと後悔した。

 そんな躁鬱に苛まれ、ネルファは次第に死に場所を求めるようになっていた。


「だから、私は冒険者ギルドによる【終わりの魔女】の調査に参加したんです」


 ネルファが冒険者となってからしばらくして、【終わりの魔女】が現れた。

 予言されていた魔女の出現に、世界中が混乱した。そんな中で、一番初めに行動したのが冒険者ギルドだった。

 結界を張って閉じ籠った魔女に対し、冒険者達による調査隊を送ったのだ。

 それにネルファは自ら望んで参加した。

 理由は単純だ。

 世界を滅ぼすとされる魔女との戦いは、自分の死に場所として相応しいと感じたからだ。


「――そして私は、ノルン様に出会ったんです」

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