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天才魔術師の私が、異世界から勇者様を召喚するまで  作者: 楚々園 ゆるぎ
最終章 そして私は願い続ける

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Awake:95 戦いの行方

「さあ、戦いを始めましょうか」


 淑やかに片手を差し出し、私は彼らをダンスに誘う。

 けれど、彼らはまだ心の準備が出来ていないようだった。


「何だ? その魔術は……?」


 アイクが愕然と呟く。

 子供でも分かるだろう。

 この魔術が一体どれほどの力を持っているのか。

 震えた声でティアナが言った。


「アイク……無理です。逃げましょう……」


「ティアナ、あの魔術が凄まじい力を持っているのは俺だって分かる。だが、ここまできてそんなことを言わないでくれ……!」


「でも、私には分かるんです。あれは、あの魔術は……」


 全身をガタガタと震わせ、顔面を蒼白にしたティアナ。

 そんな彼女の二つの瞳は、私の魔術に向けられている

 目にした術式を解析する能力。

 それがあの子の『固有魔術』のようだ。


「ティアナ、一体どうしたんだ……!?」


「とにかく今すぐここから逃げましょう……。あれは『超越魔術(オーバーマジック)』です!」


「『超越魔術(オーバーマジック)』……!」


「マ、マジかよ……!」


 ティアナの言葉に、勇者パーティー全体は驚きを見せた。


「ふーん、貴方いい目を持っているわね」


 理解出来ない術式を目にした時、「分からない」というのは簡単だ。

 けれど、彼女はそれを『超越魔術(オーバーマジック)』だと断言した。

 そのことに、私は素直に感心した。


「ティアナ、あれがどんな魔術なのかも分からないのか?」


「すいません、アイク。私の力でも、あれが何なのか理解出来ません……」


「そうか……」


 アイクに対して謝った彼女に、私は横から告げた。


「別に悲観することはないわ。理解出来ないのは当然よ」


「……どういう意味だ?」


 怪訝な表情を浮かべたアイク。


「そのままの意味よ。――だって私の使う魔術の大半は、貴方達の知る技術とはおよそ()()()ほどの開きがあるもの」


「なっ……」


 勇者の顔から一瞬にして表情が失われた。

 三百年という月日。その技術レベルの違いは、途方もなく絶望的だ。

 つまり私の扱う魔術は全て、彼らにとっては『超越魔術』ということになる。


「これが【終わりの魔女】の力……!」


 今更不利を悟ったアイク達。

 だが、この程度で驚いていては話にならない。


「あら? さっきまでの威勢はどうしたのかしら? 私を殺して、世界を救うんでしょ?」


 嗜虐的に私が微笑むと、アイクは悔しそうに歯噛みした。

 そして、


「……やるしかないんだ。『超越魔術』がどうした! あの魔女を殺せるのは、俺達しかいないんだ!」


 アイクは決然とした表情で、大きな声を上げた。

 それは自分自身にも言い聞かせているようだった。

 そして彼は、先程まで動揺していたティアナに目を向けた。


「どうだ? いけるか、ティアナ!?」


「……ええ、もう大丈夫です。アイクがそう決断したのなら、私も一緒に戦うだけです!」


 ティアナの言葉に、アイクは満足げに頷いた。


「よし! ティアナ、ラッシュ、アミィ! 力を合わせてアイツを倒すぞ!」


「「おう!」」


 彼の発破に、絶望しかけていた仲間達が呼応する。

 いい仲間達だ。

 きっとここに来るまでに、何度も絶望的な状況を共に乗り越えてきたのだろう。

 けど、無意味。全くの無意味ね。


 アイク達は一糸乱れぬ連携で、私に向かって迫ってくる。

 私はそれをただ見届ける。

 何もしない。呪文も唱えない。

 とっくに私は『起動』させている。


 私の周囲に現れている星々が、その姿を変化させた。それぞれの星が崩壊し、無数の文字になって拡散する。

 それらの文字は整然とした配置に並び、瞬時に複数の魔法陣を組み上げる。


 初撃を担当した相手は、ラッシュだった。彼は手にした双剣で、連続して私に斬り付ける。

 だが、その攻撃は即座に霧散した。

 私の周囲に発動した魔法陣が障壁となって、全ての攻撃を盾のように防ぎ切った。


 次に、ティアナと呼ばれた少女が魔術を放った。

 紅蓮が轟音を上げた。そして、炎の矢が私の頭上に降り注ぐ。

 しかし、私は逃げも隠れもしない。それに何もしない。

 全ては自動。『起動』させてある私の魔術が、勝手に防御を実行した。

 炎の矢はその障壁に傷一つ付けられない。


 次に私に接近してきたのは、軽装の少女アミィだ。私に向かって、彼女は煙玉を投擲する。

 白い煙幕が私の視界を奪っていく。その刹那、アミィが私に意味ありげな視線を送ってきた。

 ……大丈夫よ。ちゃんと私は分かっているわ。

 心の中でそう呟いた私の前に、煙に紛れていつの間にかアイクの姿が迫っていた。


「はぁぁぁ!」


 裂帛の叫びを上げ、アイクは手にした剣を振りかぶる。

 しかし、


「うるさいわ」


 私がそう言ったと同時に、私の周囲に複数の魔法陣が出現する。

 自動で編み上げられた攻撃の魔術だ。

 そして魔法陣から、勇者に向かって幾つもの紫の光線が放たれた。


「くっ――」


 煙を吹き飛ばし、放たれた魔術。アイクは即座に攻撃を中断し、光線から逃れるべく、大きく後退して距離を取った。

 中々いい判断だ。今、無理に攻撃を通そうとしていたら、彼の身体には無数の風穴が空いていたことだろう。


「クソが! 何なんだあの魔術!」


「余りにも術式の構成が速すぎます……!」


「不用意に近付くことも出来ないか……」


 力の差を痛感するアイク達。

 彼らの口にしたことは、私にとっては褒め言葉同然だ。


「ふふっ、凄いでしょ? この『ヴェルダンディの糸玉』はね、私の意思を反映しつつ、あらゆる状況に即座に対応し、それに合った最適な魔術を自動で組み上げるの」


 私が『起動』させたのは、魔術を自動的に組み上げる魔術だ。

 この『ヴェルダンディの糸玉』は、私が魔力供給さえ止めなければ、一々面倒な術式を構築する必要は無い。


「それがお前の『固有魔術』か……!」


「は? そんなわけないじゃない。私の『固有魔術』がこんなに優しい筈がないでしょう?」


『ヴェルダンディの糸玉』は、昔一人遊びをしていた時に偶々出来てしまった術式を改良したものである。

 私にとってはただそれだけ。遊びの延長程度の魔術である。


「次は私のターンね」


 彼らの攻撃が止まったのを見て、私は片手を真っ直ぐ向けた。

 その動きの意図を組んで、私の背後に浮かぶ術式が動き出す。

 そして、即座に完成した攻撃の魔術。

 私の手のひらに浮かんだ魔法陣から、深紅の魔力が空気を切り裂き放たれた。


「ティアナ、防御を頼む!」


「はい!」


 アイクの指示に従い、ティアナは皆を庇うように青い魔力の盾を展開した。

 即席で発動したその守りの術式は、中々の完成度だった。

 どうやら彼女は私の魔術を火属性だと判断し、水属性の魔力で対抗しようとしたようである。

 ただ残念な事に、私の魔術は火属性ではなかったのだが。


「きゃあっ!」


 水属性の盾では私の攻撃の威力を辛うじて減殺するに留まり、ティアナは爆風に吹き飛ばされた。


「ティアナ!」


 倒れた彼女に、アイクが駆け寄る。


「くっ……何で! あの攻撃は火属性の筈じゃ……!」


「貴方、まさか私の魔術を火属性と勘違いして、水属性の魔力で中和しようとしたの? 全く、呆れるわね……」


「え……?」


「……ガッカリね。折角いい目を持っているってのに、こんなことも分からないなんて」


 ティアナという魔術師。彼女の能力をどうやら私は過大評価してしまっていたようだ。

 まあいい。この際だから天才たる私がレクチャーしてあげよう。

 勿論、どや顔で。


「どうやら勘違いしてるみたいだから教えてあげる。一見火属性の魔力に似ているけど、これは純粋な火属性なんかじゃない。これは赤系統の魔力なの」


「あ、赤……?」


「そう。私が発見した、五属性とは別の魔力性質――」


 かつて勇者様が教えてくれたことがある。

 人の血には型が存在し、A、B、O、AB型があるという。けれど、それとは別の検査方法ではRH方式なるものがあるらしい。

 多分、それと同じ事。

 たとえ同じ炎属性の魔力だろうと、別の基準で観測すれば違った性質を見出だせる。

 それを精査し、体系化し、それらの特性に私は名称を付けた。


「赤、青、黄、緑、白、黒――。この六色こそが、私の見付けた魔力の性質よ」


「六色……それに五属性の魔力! まさか貴方の背に浮かぶ十一の魔法陣は……!」


 ティアナの言葉に、私はクスリと笑った。


「そうよ。貴方の想像通り、私の魔術は、十一種類の純粋な魔力を魔法陣の型に収めたものなの」


『ヴェルダンディの糸玉』の魔法陣は、いわばパレットの上にある絵の具である。

 そして、その十一の絵の具を自在に混ぜ合わせることで、多様な色彩を作り出す。


「さあ、続きをしましょうか?」

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