(9)宮廷舞踏会と絶世の王妃様(全力で推せます!!)
舞踏会場の重厚な大扉の前で、儀典官様が杖を「コン」と床に鳴らし、よく通る美声を張り上げた。
「ハイマン伯爵、並びに、ご令嬢コレット嬢、ご入場――!」
ギィと開く扉の先には、まばゆいシャンデリアと、びっしり詰めかけた貴族たちの鋭い視線。
うわああああ、全員こっち見てる!! 視線の圧だけで胃に穴が開きそうなんですけど!!
今日は年に一度の建国記念祝賀舞踏会。
見知らぬ新顔の突然の登場に、会場のあちこちからヒソヒソとざわめきが広がっていく。
『あの方はいったい……? 社交界で見慣れぬお顔立ちだが』
『コレット嬢とお呼びだったわね。ハイマン伯爵家に、ロザリア様以外の令嬢などいらしたかしら?』
『それにしても見事な美貌ね……今までどこにお隠しになっていたのかしら』
そりゃあざわつくのも無理はない。ついこの間まで泥まみれでジャガイモを掘っていた田舎男爵の娘なのだから、王都の煌びやかな上流貴族の皆様が見たこともないのは当たり前である。
ガッチガチに固まる私を、義父となったハイマン伯爵が優しくエスコートしながら、赤絨毯の上をゆっくりと進んでいく。
その時、人混みの前方にひときわ目を引く銀髪の姿を見つけた。
(あ、ジュリアン様……!)
――と、思ったのも束の間。
なぜか彼のすぐ隣には、ばっちり着飾ったロザリア様がぴったりと陣取っていた。
(……んん? あなた、自分の婚約者様はどうしたの!?)
ふと、ロザリア様とバチッと目が合った。
扇を掲げた彼女の細められた瞳が、「ふん、田舎者が」と嘲笑っているのが丸わかりだった。
すると彼女はわざとらしく扇を少しずらし、私に向けて唇を動かした。
――い・も・お・ん・な。
キィーーーーッ!!
またやりやがったわね、あの女ぁぁぁ!!
前回は感謝して流してあげたけど、二度目はさすがにムカつく!
白から鮮やかなグリーンへと変わるグラデーションのドレスを着こなす彼女を、私は内心でギリギリと睨みつけた。
決めたわ。
私が「イモ女」なら、今日からあなたのあだ名は「ネギ女」よ!
見事な白と緑のグラデーション、どこからどう見ても立派な一本ネギじゃないの!
今日から心の中でずーーーーっと「ネギ女」って呼んでやるんだから!!心の中でだけね……!
バチバチと無言の火花を散らしていると、隣を歩くハイマン伯爵が足を止めた。
はっと我に返ると――。
(……やばっ)
ネギ女と視線で喧嘩している間に、私たちはいつの間にか、一段高い玉座の真ん前――国王陛下と王妃陛下の御前まで到達してしまっていた。
ハイマン伯爵が優雅に、うやうやしく国王陛下へと一礼する。
「国王陛下ならびに王妃陛下、御前へ罷り越します栄誉を賜り、心より感謝申し上げます。この度、我がハイマン家に迎え入れました娘、コレットにございます」
私も慌ててネギ女への怒りを引っ込め、特訓の成果を総動員して、深々とカーテシーを捧げた。
「――面を上げよ、ハイマン伯爵。そしてコレット嬢も」
玉座から響いたのは、若々しくも落ち着きのある、どこか温もりを含んだお声だった。
促されるまま、恐る恐る顔を上げる。
(……あら、お優しそう)
玉座に腰掛ける若き国王陛下は、穏やかな笑みをたたえて私を見つめていた。
いやいや! お父様みたいに「優しそう(他に褒める語彙がない)」っていう無害な印象じゃなくて! 国を背負う器としての、深い慈悲と知性を感じるお優しさというか!
そして、ふと視線をその隣へと移した瞬間――。
(はっ……め、目がーーーーーーッ!!!)
直視した瞬間、強烈な閃光でも食らったかのような衝撃が視界を直撃した。
と、んでもない絶世の美女がここに鎮座していらっしゃる……っ!?
透き通るような白い肌に、ため息が出るほど整った横顔。同じ人間とは思えない神々しさに、完全に目を奪われてしまった。
さらに、こちらを冷徹に見下ろす涼やかな眼差し。一切の表情を崩さない、氷のような美しさ……たまらん!!
(いいわ……! 冷徹クール系な王妃様……!! これは推せる、全力で推せるわ……!!)
目の前の人間国宝級の美貌に、私のテンションは天井を突き破っていたのだった。




