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(6)イケメンの求婚理由(※顔採用でした)

「……ふふ、もちろんコレット嬢に言っているんだよ。他に誰がいるんだい?」


 困惑してキョロキョロと生垣を見つめる私に、ジュリアン様は肩を揺らして優しく微笑んだ。

 いやいやいや、笑っている場合じゃない。田舎のジャガイモ男爵の娘に、王都のトップエリートが突然の求婚なんて天変地異の前触れに決まっている。


 テンパる私を落ち着かせるように、ジュリアン様は静かに言葉を続けた。


「急で驚かせてしまったね。……実は、我が家にも少し事情があってね」


 ジュリアン様が明かしてくれたのは、大貴族ならではの少し複雑な事情だった。

 もともと彼にはハイマン伯爵令嬢という許嫁がおり、彼女が成人するのを待っていたのだという。だが最近になって、その彼女に別の想い人ができてしまい、両家の話し合いのもと婚約は白紙になったらしい。


「けれど、我が家としてもハイマン伯爵家との結びつきは維持したかった。困っていた父上に、伯爵がこう持ちかけてくれたんだ。『隣領でよく知るボヌフォワ男爵家に、ちょうど年頃の素晴らしい令嬢がいる。一度会ってみてはどうだろうか』とね」


 爵位の差はあるが、もし双方が気に入るなら伯爵家としても全面的に協力・後押しをする――そう言われ設けられたのが、今日のお茶会という名の顔合わせだったのだ。


「そういう大人の都合があったのは本当だよ。けれど……実際に会ってみて、私は心から君を気に入ったんだ。だから、婚約してほしい」


 真剣そのものの国宝級フェイスでそう告げられ、私のキャパシティをとっくに超えた頭の中は、無数の疑問符で埋め尽くされていた。


「あ、あ、あの……! も、滅相もないことをお伺いしますが……私の……一体ぜんたい、どこを気に入られたのでしょうか……!?」


 震える声で恐る恐る尋ねてみる。

 すると、王都きっての眉目秀麗な貴公子は、一点の曇りもない極上の笑顔で爽やかに言い切った。


「顔かな」


「……か、顔ォ!?」


 あまりのド直球に、貴族令嬢にあるまじき裏返った汚い声が出た。

顔採用!? まさかのド直球顔採用ですか!?


「そんなに意外かい? でもね、ハイマン伯爵も驚いていたんだよ。先日の園遊会で君を見かけた時、『若き日のアメリー殿の再来だ』とね。君のお母上は、かつて王都の社交界で誰もが振り返るほどの美少女だった。私の父上も、その美貌の噂はよく知っていたそうだよ」


 そう言って、ジュリアン様は悪戯っぽく瞳を細めた。


「もちろん、実際に話してみて君の飾らない人となりが分かったからこそ、妻に迎えたいと思ったんだよ」


(イモよ!? 私、さっきからイモのことしか語ってないのよ!? どこに妻にしたい要素があったのよ、土か!? 泥臭い実用性に惚れたってことなの!??)


 内心で盛大に荒れ狂うツッコミの嵐。

 だが――それと同時に、急速に顔がカッと熱くなるのを止められなかった。


 これまで田舎で暮らしていて、自分の容姿なんて気にしたこともなかったけれど……生まれて初めて、お母様似のこの顔立ちに産まれて心底よかったと思ってしまったのだ。


 すっかり舞い上がり、天にも昇るような心地の私。

 ――まさかこの後、この自分の容姿を心の底から恨む羽目になるとは、この時の私は夢にも思っていなかった。


◇


 テラスを後にし、ジュリアン様にエスコートされてサロンへと戻ると、そこにはグラナート侯爵夫妻と、見覚えのあるハイマン伯爵、そして緊張で小さくなっているお父様が待っていた。


 扉が開くのと同時に、ジュリアン様は全員の視線が集まる中で、お父様に向かって堂々と告げたのである。


「ボヌフォワ男爵。先ほど、私からコレット嬢に求婚させていただきました」


「……は、はいぃぃぃぃっ!?」


 お父様の眼鏡が、今日一番の派手さで宙を舞った。

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