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(5)バラ庭園とまさかの告白(それ、私で合ってます!?)

 ……一体、私は何を喋っていたのだろう。


 美しいバラが咲き誇る温室をジュリアン様と歩きながら、私の記憶はすでに半分ほど吹き飛んでいた。

 あまりの緊張に脳の処理が追いつかず、質問されるたびに脊髄反射で口走ってしまった数々の大失態が、次々と脳裏をよぎる。


――普段は領地でどんなことを? と聞かれて。

「領内のジャガイモ畑の視察を……」と答えてしまったような気がする。


――ご趣味は? と聞かれて。

「ジャガイモを使ったお菓子作りで……」と答えてしまったような気がする。


――お好きな食べ物は? と聞かれて。

「ジャガイモがごろごろ入ったポトフです……」と答えてしまったような気がする。


極めつけに、どんなお花がお好きですか? と優しく微笑みかけられて――。

「ジャガイモの花です! 初夏に咲く白や薄紫の可憐な姿も素敵ですが、何より花が咲く時期は地下でイモが順調に肥大しているサインなんです! つまり開花時期を見れば収穫までのスケジュールが正確に割り出せるという、農業管理における実用性が本当に素晴らしくて……!」と、頼まれもしないのに熱弁を振るってしまったような気がする。


いや、気がするんじゃない。確実に語った。絶対に言った。


「ははっ、コレット嬢は本当に愉快な方だ」


 ジュリアン様は声を上げて笑っていたけれど、その笑顔すら眩しすぎて直視できない。

 穴があったら今すぐ飛び込みたい。飛び込んだ後に、お父様を呼んで上から重い岩で厳重に蓋を閉めてもらいたいレベルの黒歴史である。


 その後、話題はジュリアン様のお仕事――国王陛下の話へと移った。

 ジュリアン様は国王陛下の最側近を務めており、幼少期から学友として共に育ってきたのだという。


 現在の国王陛下は弱冠二十五歳で、ジュリアン様と同い年。

 前王の急な崩御によって十九歳という若さで即位され、国を背負って奮闘されているらしい。


 ジュリアン様が語る宮廷の話は、田舎育ちの私にはどれも遠い雲の上の出来事だった。

 立派な話を聞けば聞くほど、さっきのイモ語りが猛烈に恥ずかしくなってきて、相槌を打つ声もしぼんでいく。


(……情けない。私、本当にただの芋娘じゃないの……)


 申し訳なさと居たたまれなさで、私は自然と俯いてしまっていた。

 すると、ふとジュリアン様の足音が止まった。


「……私の話、退屈でしたか?」

「い、いいえ! そんなことありません! 私の知らないことばかりで、すごく勉強になりました!」


 慌てて顔を上げて両手を振ると、ジュリアン様はほっとしたように目を細めた。


「よかった」


 温室を抜けた先のテラス。

 木漏れ日が揺れる中、ふっと静かな間が落ちる。

 ジュリアン様は静かに私を見つめると、真剣な眼差しで一歩、間合いを詰めてきた。


「今日、こうして貴女とお話しできて……私は、コレット嬢に心惹かれてしまいました」

「……へ?」

「どうか私と、婚約していただけませんか?」


 ぽかんと口が開いた。


 こんやく?

 婚約って、あの、結婚の約束の婚約?


(えっ……誰と?)

 慌てて首を巡らせ、自分の背後や左右の生垣を見回してみる。

 だが、見渡す限り、バラの咲くテラスには私とジュリアン様の二人しかいない。


 恐る恐る正面に向き直り、私は自分の鼻先を指差しながら叫んでいた。


「あ、あの……もしかしてそれ、私に言ってます……!?」

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