(15)田舎娘の即落ち契約(拒否権なんかあるかーーーーーっ!!)
――おっぱいのことですかーーーーーっ!?!?
絶叫が喉元まで出かかったけれど、両手で必死に口を塞いだ。王前で「おっぱい」なんて叫んだら即刻打ち首だ。
代わりに両腕でぎゅっと胸元を隠す。
山盛りのイモを食べて育ったせいか、無駄に育ってドレスがきついとは思っていた。伯爵家のお義母様にも「昔のアメリー様そっくり」と呆れ半分に笑われていたけれど……国家の決定に、私のおっぱいが関わるなんてある!?
「お、おいジュリアン! お前、何を言い出すのだ!!」
陛下が耳まで真っ赤にして怒鳴る。けれど、ジュリアン様は涼やかな顔で肩をすくめた。
「事実でしょう。フェリクスは昔から豊満な女性が好みだ。コレットの容姿は、まさに君の理想そのもの。違いますか?」
「だ、だからといって、本人の前で言う奴があるか!」
さっきまで威厳たっぷりだったのに、幼馴染の前だと年相応の青年に戻るらしい。ちょっと可愛いと思ってしまった自分を慌てて殴り倒す。
陛下はコホンと咳払いをし、真面目な顔で向き直った。
「……すまぬ、コレット。あいつの無礼は詫びる。だが、そなたの人柄やボヌフォワへの恩を思えば……余としても、迎え入れることは決して不本意ではないのだ」
「へ、陛下……」
さらにジュリアン様が、屈み込んで私の目をじっと見つめてくる。
「コレット、どうか受けてやってくれませんか。陛下を救い、ボヌフォワ家を救い、国を正しく導けるのはあなたしかいないのです」
追い討ちをかけるように、陛下が一歩踏み出してくる。
何か言いかけたように口元を結び直し、絞り出すように言った。
「……余を、助けてはくれぬか」
「あっ、はい。コクコク」
考えるより先に、首が勝手に縦に揺れていた。効果音まで漏れ出る渾身のヘドバン。
(うわあああああああっ!? なんで頷いてんのよこのポンコツ首ぃぃぃぃっ!?)
完全にとち狂ったとしか思えない。
でも、目の前に国王様と侯爵令息よ!? 「嫌です、イモ掘りに帰ります」なんて言ったら、実家の畑ごと処刑台送り確定じゃない!
だからって、「はい側妃になります」に反射でハンコ捺す奴があるかーーーーっ!!
「……ほ、本当にいいのか!? そなたに拒否権はあるのだぞ……!」
(拒否権なんかあるかーーーーーっっ!!)
国王様と侯爵令息に退路を塞がれた田舎娘に、拒否権なんてあるわけないでしょ!
心の中で絶叫しつつも、本気で心配してくれる陛下の顔を見て、頭がようやく落ち着きを取り戻してきた。
「……ふふ、陛下。彼女は納得してくれたのですよ。ねえ、コレット?」
ジュリアン様が満足そうにふっと身を起こした。
もう後戻りはできない。私の人生、どうしてこう流されるままなのかしら……。
けれど、こうなってしまったものは仕方がない。冷静になった頭に素朴な疑問が浮かんだ。
「あの……ジュリアン様」
「どうしました、コレット?」
「私との婚約を白紙にして……グラナート侯爵家のお嫁さんは、どうされるのですか……?」
跡継ぎなのだから、お相手がいないと困るはずだ。
心配して見つめると、ジュリアン様は穏やかに微笑んだ。
「ああ、心配いりませんよ。実は、ロザリア嬢の例の『想い人』との話が立ち消えになってしまってね。来年彼女が成人した後の身の振り方に、伯爵も父上も頭を悩ませていたのですが……」
「え……?」
「けれど、あなたが側妃として王家に入るとなれば、両家の結びつきを保つためという名目で、彼女との話を元に戻しても不自然ではなくなったでしょう? 伯爵家にとっても、うちにとっても喜ばしい。……どこにも角は立ちませんよ」
悪びれる様子もなく、どこまでも「家のため、みんなのため」と爽やかに語るジュリアン様。
……。
…………は?
(待って?)
ロザリア様。
ハイマン伯爵家の実の娘。
先ほどすれ違いざまに「い・も・お・ん・な」と煽ってきた女。
そして――さっき舞踏会場で、ジュリアン様の隣にぴったり張り付いて、腕を組んでいたあの女!!
(……あの腕組み、そういうことだったの!?)
(想い人と別れたからって、あいつがジュリアン様とヨリを戻すわけ!? 最初からそれを狙ってベタベタしてたの!??)
別の男にフラフラ乗り換えてたくせに、話が流れたら平然とジュリアン様に出戻るなんて――
そんなの、絶対に許せないんですけどーーーーーっ!?!?
――あのネギ女ぁーーーーーっ!?!?




