(14)迫られる決断とまさかの暴露(おっぱいのことですか!?)
「……へ?」
静まり返った豪奢な私室に、私の間抜けな声だけが響いていた。
そくひ。側妃。側妃って……あの、王様のお嫁さん(二番目)ってことよね?
え、さっきジュリアン様が「婚約者であろうと捧げる」って言っていたの、比喩じゃなくて私のことだったの!?
目の前がクラクラする私へ、ジュリアン様がすっと歩み寄ってきた。
「コレットにとっても悪い話ではないのですよ。褒賞の件も丸く収まりますし、あなたが側妃になれば、お父上の陞爵や街道の整備の話も進むかもしれない」
「はぁ……」
頭の処理が完全に追いつかず、気の抜けた返事しか出てこない。
そんな私を安心させるように、ジュリアン様は穏やかな声で言葉を重ねてくる。
「ボヌフォワの働きに報いるには、本来それくらいあって当然なのです。税の免除だけで済ませてしまっては、『この国は身を粉にして尽くした者に正当な報いを与えない』と、他の貴族たちからも不満が出かねない」
(言われてみれば、その通り……なのかな?)
確かに、命がけで育てたイモを差し出したのに「税金ちょっとまけとくね!」だけで終わったら、周囲からは「冷遇された」と見えてしまうのかもしれない。大貴族のメンツって、田舎娘の私には計り知れないほど複雑そうだ。
ジュリアン様は身を屈め、私の目線に合わせて優しく微笑みかけた。
「コレットは、ボヌフォワのお父上が大事でしょう? あそこに暮らす領民たちだって、かけがえのない存在のはずだ。彼らの誇りと幸せを思えば……受けるべきだと、私は思うのです」
「お父様たちの、幸せ……」
脳裏に、泥まみれで畑を耕す領民たちや、お父様とお母様の笑顔が浮かぶ。
私が側妃になれば、お父様は偉くなって、みんなも胸を張れるんだろうか。
「私だって……コレットとの未来を手放すのは、身を裂かれる思いですよ」
ジュリアン様が胸元をきつく握りしめ、悲痛な表情で眉をひそめた。その切なげな瞳の美しさに、私の胸がきゅっと痛む。
「けれど、私にとっても彼らの幸せが大事なのです。何より……あなたの幸せを願えばこそ、私はこの提案をしているのですよ」
「ジュリアン様……っ」
(なんて高潔な方なの……! 自分の恋心よりも、私の家族や国の未来を優先してくれるなんて……!)
ほろりと涙が出そうになる。
けれど、当の相手である陛下はといえば、居心地が悪そうに眉間を揉んでいた。
「心配なのは分かります。けれどフェリクスはきっと、あなたを生涯大事にすると私が断言しますよ」
「おい、ジュリアン」
「フェリクス。この話を受けてくれれば、今回の件はすべて丸く収まるのです」
「いや……それはそうかも知れんが、な」
歯切れの悪い陛下に対し、ジュリアン様はぐいぐいと言葉を畳みかけていく。
「むしろ、すべてが良い方向へ進むと言っていい。父上も、お二人のことを全面的に支持することでしょう。王室はもう、セレフィーナ様の言いなりにはならない。この国は、正しく変わるのです!」
腕を組んで唸る陛下へ、ジュリアン様がトドメとばかりに爽やかな笑みを向けた。
「悩む必要はどこにもないでしょう、フェリクス。コレットはあなたにピッタリだ。何より――」
「はっ、待て! それ以上言うな、ジュリアン!!」
珍しく取り乱した陛下が制止の声を張り上げる。
だが、ジュリアン様の口から飛び出したのは、国家の未来でも貴族の誇りでもない、あまりにも身も蓋もない一言だった。
「フェリクスは胸の大きい人が好みでしょう?」
パチン、と軽やかにウィンクまで添えて。
……。
…………。
部屋の空気が、ピシッと音を立てて凍りついた。
息の詰まるような静寂の中、私と陛下とジュリアン様の視線が宙で交錯する。
「……は?」
(胸って……え? 胸?)
(胸が大きいって……)
(もしかして……)
――おっぱいのことですかーーーーーっ!?!?




