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剣聖物語  作者: ははんぽ
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第6話 闘獣階

白舟流派道場を出た誠は、まっすぐ宿には戻らなかった。


 手には、白舟剣術学校の受験案内。


 入学試験は四日後。

 それまでにやることは決まっている。


 情報収集だ。


 この世界は、誠の知る『剣聖物語』に似ている。

 だが、同じではない。


 白舟剣術学校。

 闘獣階。

 反響剣。

 松平義久。


 ゲームにない要素が、すでにいくつも出てきている。


 ならば、ゲーム知識だけを頼りに動くのは危険だ。


 未知のゲームを攻略する時、最初にやるべきことはいつも同じ。


 世界のルールを知ること。


「まずは、学校と闘獣階だな」


 誠は白舟の大通りを歩きながら、周囲を見回した。


 商店、食堂、道具屋、鍛冶屋。

 そして通りの端にある掲示板。


 そこには依頼や告知、道場の募集、剣術大会の結果などが貼られている。


 ゲームにも依頼掲示板はあった。


 だが、今目の前にある掲示板は、情報量がまるで違う。


 誠は一枚ずつ目を通した。


 白舟流派道場、春季入門試験。

 白舟剣術学校、入学試験実施。

 剣術用品の割引。

 警備隊の臨時募集。

 近隣村の魔獣被害報告。


 そして、その中に目当ての文字を見つけた。


 ――白舟剣術学校、闘獣階入れ替え戦結果。


「お」


 誠はその紙の前で足を止めた。


 紙には、過去の入れ替え戦の結果が書かれていた。


 挑戦者。

 対象順位。

 勝敗。

 試合時間。

 使用流派。


 誠は目を細める。


 思っていたより、本格的な制度だ。


 闘獣階は単なる噂や称号ではない。

 正式なランキングとして管理されている。


 しかも、挑戦には手順があるらしい。


 無制限に挑めるわけではない。

 期間、条件、教師の承認が必要になる。


「なるほど。ランキング戦というより、公式戦か」


 誠は情報を頭に入れていく。


 闘獣階。


 白舟剣術学校の上位十名。


 ただの強者ではなく、学園内で特別な権限を持つ存在。


 佐伯が言っていた通り、特別訓練場、禁書庫、教師への挑戦権、大会推薦枠などが与えられる。


 だが、掲示板の情報だけでは足りない。


 誠は掲示板から離れ、近くの茶屋に入った。


 店内には、剣術学校の生徒らしき若者が何人かいる。


 制服ではないが、腰の木刀や話の内容でわかる。


 誠は茶を頼み、離れた席に座った。


 そして、自然に耳を澄ませる。


「今年の入学試験、五百人超えるらしいぞ」


「多すぎだろ。去年でも三百ちょっとだったのに」


「今年は闘獣階が荒れてるからな」


「十位の黒羽か?」


「それもあるけど、一位だよ。一位」


 一位。


 誠の意識が、そこで止まった。


「白神先輩だろ? あれは別格すぎる」


「あの人、本当に人間か? 去年の総会で二位が挑んで、三十秒もたなかったって聞いたぞ」


「しかも、何されたかわからなかったらしい」


「能力分析も通らないって噂、本当なのか?」


「さあな。でも、闘獣階で一位だけは別物ってのは本当だろ」


 誠は茶を口に運びながら、その会話を記憶した。


 白神。


 闘獣階一位。


 能力分析が通らない可能性。


 松平が近づいているものが闘獣階なら、この一位が鍵になるかもしれない。


 別の席では、別の生徒たちが話していた。


「十位の黒羽は今年も残るだろうな」


「あいつ、地味だけど強いよな。攻めたら全部返される」


「反響剣の上位使いだろ? 挑みたくねえ」


「でも五月の入れ替え戦、三年が挑むらしいぞ」


「マジか。見に行くわ」


 黒羽。


 十位。


 反響剣の上位使い。


 誠の中で、情報がつながる。


 白舟流派道場で見た反響剣。

 その上位を使う闘獣階十位。


 これは見ておく価値がある。


 いや、見るだけでは足りない。


 戦ってみたい。


 誠は自分でも早いと思うほど、その結論にたどり着いていた。


 闘獣階に入れば、特権が手に入る。

 松平の情報にも近づける。

 未知のスキルを見る機会も増える。


 そして何より、強い相手と戦える。


 入らない理由がない。


 茶屋を出る頃には、誠の中で目標はほとんど決まっていた。


 白舟剣術学校に入学する。

 闘獣階に入る。

 松平義久の謎を追う。

 この世界の未知スキルを集める。


 そして、もう一度剣聖になる。


 ただし、今回はゲームのエンディングをなぞるだけではない。


 この世界そのものを攻略する。


「となると、まずは入学試験か」


 誠は受験案内を開いた。


 試験会場は白舟剣術学校の中央闘技場。

 集合は朝。

 持ち物は木刀、防具、身分証代わりの受験札。


 試験内容は、教師との模擬戦。


 勝敗ではなく、状況判断、技の選択、精神の安定、戦闘中の修正能力を見る。


 佐伯から聞いた内容と同じだ。


 ただし、問題が一つある。


 どこまで実力を見せるか。


 限界突破を持っていることは、絶対に隠した方がいい。


 全流派のスキル習得資格。

 そんなものが知られれば、間違いなく面倒なことになる。


 能力分析系のスキルがこの世界に存在するなら、なおさら危険だ。


 誠は宿へ戻り、机に紙を広げた。


 今日得た情報を書き出す。


 一、白舟剣術学校には闘獣階という上位十名がいる。

 二、闘獣階は学内で特別な権限を持つ。

 三、十位は黒羽宗一郎。反響剣の上位使い。

 四、五月に十位への入れ替え戦がある。

 五、一位は白神という人物。能力分析が通らない噂あり。

 六、松平義久は学校、もしくは闘獣階に関係している可能性が高い。


 誠は筆を置いた。


「情報量が増えてきたな」


 悪くない。


 だが、まだ足りない。


 特に気になるのは、白神という一位。

 能力分析が通らないという噂。


 ゲームにも能力分析を防ぐスキルはあった。

 ただし、それはかなり高位のスキルだ。


 序盤の学園ランキング一位が持っているようなものではない。


 やはりこの世界は、誠の知る剣聖物語よりもかなり複雑だ。


 誠はステータスを開いた。


 装備スキル枠は五。


 今後、入学試験に向けて構成を考える必要がある。


 試験は教師との模擬戦。

 勝つ必要はない。

 むしろ、勝ちにいく必要はない。


 見せるべきなのは、合格に十分な対応力。

 隠すべきなのは、限界突破と本当の底。


「強すぎず、弱すぎず。面倒くさい調整だな」


 誠は候補を書き出した。


 明鏡止水。

 観察眼。

 直感。

 偽装。

 一閃。


 明鏡止水は、精神を安定させる。

 観察眼は、相手の癖を見る。

 直感は、危険を察知する。

 偽装は、自分の情報を隠す。

 一閃は、最低限の攻撃手段。


 これなら、派手すぎない。


 だが、対応力は見せられる。


 入学試験にはちょうどいい。


 誠はその構成を選んだ。


 視界の端に、装備完了の表示が浮かぶ。


 身体の感覚が、わずかに変わった。


 呼吸が落ち着く。

 周囲の音が少しだけ整理される。

 自分の身体の位置が、はっきりとわかる。


「なるほど。これが現実でスキルを装備する感覚か」


 ゲームでは、メニュー画面で選択するだけだった。

 だが現実では、身体そのものの感覚が変わる。


 これは便利だ。


 同時に、危険でもある。


 強力なスキルに頼りすぎれば、自分の感覚が鈍る可能性がある。


 誠はそのことも記録した。


 スキルは武器。

 だが、自分自身ではない。


 十年かけて学んだことだ。


 強いスキルを積めば勝てるほど、『剣聖物語』は甘くなかった。


 大事なのは、どのスキルを選ぶか。

 いつ使うか。

 何を捨てるか。


 そして、負けた時に何を学ぶか。


 誠は紙に大きく書いた。


 ――目標。


 一、白舟剣術学校に合格する。

 二、闘獣階に入る。

 三、松平義久の謎を調べる。

 四、未知スキルを確認する。

 五、この世界のルールを攻略する。

 六、もう一度、剣聖になる。


 書き終えた瞬間、胸の奥が熱くなった。


 ゲームをしていた頃と同じ感覚。


 新しい攻略を始める前の高揚。


 だが今回は、画面の向こうではない。


 自分自身が、この世界で戦う。


 死ねば、終わりかもしれない。


 それでも、不思議と怖さより楽しさが勝っていた。


「さて」


 誠は窓の外を見た。


 遠くに、白舟剣術学校の屋根が見える。


 ゲームにはなかった場所。

 松平が知っていた場所。

 佐伯が危険だと忠告した場所。

 そして、闘獣階という化け物たちがいる場所。


 そこへ入るための試験が、四日後にある。


 誠は笑った。


「まずは入学試験を攻略するか」


 その夜。


 白舟の街に、静かに灯りがともっていく。


 誠は机に向かったまま、入学試験の想定を書き続けていた。


 教師のタイプ。

 模擬戦の時間。

 能力分析への対策。

 実力を隠すための負け方。

 合格するための見せ方。


 普通の受験者なら、どう勝つかを考える。


 だが誠は違う。


 どう勝たずに、合格するかを考えていた。


 強さを隠しながら、合格圏内に入る。


 それが、今回の攻略条件。


 誠は筆を止め、最後に一行書き足した。


 ――目立ちすぎないこと。


 その文字を見て、誠は苦笑した。


「一番難しいかもな」


 四日後。


 白舟剣術学校の入学試験が始まる。

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