甘いな
「それでは、外に出ましょうか」
そういえば、ここは俺の家だった。俺が死んだことに気づかなかった一番の原因はそこだと思う。今立っている場所は、生きている時と相違なかった。
俺は玄関の扉を開ける。
「え...」
外にはとんでもない夜空が広がっていた。真っ黒な空なのに星が輝かしく光っている。歩いている人達だって普通じゃない。ていうか人じゃない、妖精のような。小さい頃に読んでもらったおとぎ話の世界だった。
「死後の世界ってこんなにも綺麗なんだね」
俺が言うと、案内人は少し驚いた表情をしていた。
「私も、初めて見ました」
「え?そうなの?」
はい、と控えめに少女が頷く。その頬はほんのりと赤く染まっていた。俺はおとぎ話にありそうな噴水に腰掛ける。
出発点でこれなのだから、天国はどのくらい美しいのだろう。地獄も俺の想像よりは美しく設定されているのだろうか。
俺は自分の思う限りの美しい地獄を想像してみた。マグマではなく赤い温水プールで、鬼ではなく妖精が黒い着物を着て舞っている。
...どうしよう、なんか怖い
美しい地獄を想像した俺がバカだった。ファンタジーな現実に意識を戻すと、案内人の姿がなくなっていた。慌てて辺りを見渡すと、両手にアイスクリームを持った彼女が落とさないように必死になりながら、俺の方に歩いてきているのが見えた。
俺が彼女の方に駆けつけると、彼女は笑顔で聞いた。
「バニラかストロベリー、どっちが良いですか?」
「ストロベリーで」
どうやら一つは俺の分だったらしい。俺は桜色のアイスを受け取ると、今度は二人で噴水に座ってアイスを一口舐める。
「うっま!」
思わず叫ぶと、彼女はあははと笑ってバニラのアイスを食べ始める。
「あ、ちょっと...」
「?」
溶けたアイスがコーンをつたって落ちてくる。俺の曖昧な注意が伝わるわけもなく、甘い雫は服の袖に着地した。
「こぼれちゃった」
「ほら、ティッシュあげるから」
俺はポケットに入っていたティッシュを差し出すと、彼女のお礼と共に受け取られる。彼女が制服なのに対して、俺は私服姿だった。ファンタジーな世界観からしても、この服装は全くそぐわない。
アイスは結局、完全には取れないみたいだった。彼女は諦めて残りのアイスを完食する方に専念する。
「バニラ食べる?」
「うん!」
俺達は交換して互いのアイスを食べる。
このバニラの味を俺は一生忘れないだろう。
甘すぎたから。俺は金輪際バニラ味を頼まないことに決めた。




