地獄まで案内しますね
違和感はあった。気づけば台所にいた母はいなくなっていて、出来上がった料理が机に大量に置いてあった。後ろから足音が聞こえてきて振り返ると目の前にいたのは母ではなく少女だった。
中学生くらいの女の子だった。金髪のストレート。珍しいなと思ったが、頭にある帽子のほうが異質だった。昭和の学生帽のようで、令和の中学生が被る可愛いものではなかった。黒で統一された帽子に不気味さすら感じた。服のせいもあるだろうか。服は確かに現代でもありそうなものだった。俺も持っている。いや、俺は持っているといったほうが正しいか。
男子の学ランに黒い学生帽の彼女は笑いかけるように俺を見る。普通らしさに俺が安心したのも束の間だった。
「それでは死者様、あなたの地獄まで案内します」
「は...あ?」
意味の分からない展開に俺が思ったことはただ一つ。
「俺はいつ死んだんだ?」
これだけだった。
俺の問いに、彼女はため息をついた。仕草が妙に色っぽくて、服装とのギャップがおかしく思えた。
「何で笑ってんの?」
「いや、別に?」
ニヤついているのがバレたみたいで、俺は表情筋を固くして平静を装った。そして背筋を伸ばして、再度彼女と向き合う。
「君は誰で、俺はいつ死んだのか教えてほしい」
腰からゆっくりお辞儀をして頼み込んで見せると、彼女は綺麗なお辞儀だ、と俺を称賛してくれた。
「死因は私も知らん。状況がおかしくなる直前に死んだんだ。それなら分かるか?」
「うーん」
俺はしばらく考え込んだが全く分からないので、潔く諦めることにした。彼女もそれを察したようで、もう一つの質問に答えてくれた。
「私は案内人だ」
「...死神じゃなくて?」
まあ、地獄への案内人なら似たようなものか、とも思ったが彼女の考えは少し違うようだった。
「死神は魂を奪い取るものだろ?君はもう死んでいるのだから魂など...いや待てよ、君の肉体は死んでいるはずだから君が魂ということになるのか?」
「俺に聞かれても分かんねーよ」
案内人と言う割には知らなすぎだと思う。だが、中学生という見た目からして見習いといったところだろうか。
「それじゃ、地獄まで案内してもらえますか?」
「はい、喜んで」
頼りない案内人との地獄への旅が始まった。




