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リトルヒーローズ  作者: 貫井べる
1章 : BRAVE STORIES
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13/14

ROUND 13 : 願いの果て

ROUND 13 : 願いの果て




選手控え室にいたチーム・ブラックウイングのメンバーの元へ、試合に敗けたばかりのケンイチがやってきた。

「犬飼さん、俺と戦っていない貴方の意見が聞きたい」

ケンイチは問う。

「俺に足りないもの、何だと思いますか?」

「ご指名か……じゃあ、あくまでも個人的な意見だ」

犬飼は素直に答えた。

「機体スペックを使いこなす技術もあるし相手を見る観察眼も十分すぎる。

でもな、ビビったら負けなんだよ」

「……ありがとうございます」

ケンイチは犬飼に頭を下げ、立ち去った。

「火向さん、あいつ……」

「ああ、やっと火がついたな」

火向は満足そうにケンイチの背中を見送った。




「準決勝第1試合!

赤コーナー、金山アキト選手!

使用機体はアイゼン!」

ステージに上がったアキトは巨大なアイゼンをリングに置いた。

「青コーナー、桜木ボタン選手!

使用機体、BLAZE GEAR 紅蓮!」

反対側からステージに上がったボタンも紅蓮をリングに置く。

そして2人は迷わずコントローラーを手にした。

『3、2、1、FIGHT!』

試合開始の直後、両者はリング中央で激突した。

拳と拳のぶつかり合いは重心の高いアイゼンを一方的にふらつかせる。

即座に紅蓮は追撃の拳を打ち込むが、アイゼンも低い位置からの一撃を衝突させその反動で姿勢を立て直す。

そして3発目の攻撃はアイゼンが僅かに早く、しかしそれでも紅蓮のパワーに押し込まれアイゼンが弾き飛ばされた。

「さあ、試合開始から怒濤の連打が──」

すかさず紅蓮がアイゼンとの距離を詰めようとするが、アイゼンは完全に停止するのすら待たず紅蓮を迎撃する。

そのアイゼンの腕を紅蓮は旋回しながら腕を振り回して弾き、更に追撃の拳と拳が真正面から衝突した。

またしてもアイゼンが弾かれ、リング際で減速する。

そしてとうとう紅蓮がアイゼンの懐に潜り込み、痛烈なアッパーでアイゼンの巨体を浮かせた。

「アイゼン、リングアウトだ!

ダメージポイント3点にリングアウト・ペナルティ、合計6点!」

紅蓮が青コーナー側のリング際まで後退し、アキトはアイゼンをリング内に戻す。

そして両者は間髪入れずに飛び出し、再びリング中央で拳を衝突させた。

今度はアイゼンの腕がのびきったタイミングで一瞬遅れた紅蓮の拳とぶつかる形になったが、アイゼンの腕は先のアルゼル戦のような脱力をせず逆に紅蓮の拳が紅蓮自身の力で弾かれてしまった。

アイゼンは次の一撃を繰り出したが、紅蓮は倒れながら引いた腕でリングを殴り、その反動で起き上がりながらの反撃でアイゼンの追撃に拳を間に合わせた。

「へぇ……攻撃後の脱力、切ったんですか……」

ボタンはアイゼンの変化に気付いていた。

アイゼンと紅蓮は拳と拳で押し合う形になり、足裏のローラーがリング上で空回りする。

「バッテリー、3分もたないんと違いますか?」

「そちらも今、そうやっていますよね」

アキトもまた、紅蓮が押し合いに付き合っている意味に気付いている。

「戦い方は、貴女達から学びました」

「ハッ、面白ぇなぁ!」

紅蓮は先に押し合っていた腕を脱力して弾かれ、反対の腕でアイゼンの腕を払い除けた。

更に攻撃の勢いのまま回転しながらの裏拳をアイゼンに打ち込むが、アイゼンも空いていた腕で防御する。

しかし最後まで脱力しないで振り切った裏拳は、防衛したアイゼンを弾き体勢を崩した。

だがアイゼンは腕のフレームの隙間に紅蓮の腕を引っかけ、紅蓮を引き倒してしまった。

紅蓮はすぐに立ち上がるが、先に体勢を立て直したアイゼンが拳を打ち込む。

紅蓮はその一撃をまともに受け、リング際まで弾き飛ばされた。

「紅蓮、ダメージポイント3点!」

リングフェンスにぶつかった紅蓮に向かってアイゼンは突っ込むが、そのアイゼンの拳を紅蓮が殴り付けアイゼンを一方的に弾き返してしまう。

バランスを崩しそうになりながらも踏み留まったアイゼンに対して紅蓮は大きく踏み込みながらの一撃を浴びせ、それを防衛したアイゼンは弾かれながらも反撃の拳を打ち込む。

拳と拳とがぶつかり合い、互いを弾き転倒させた。


「いや、凄いですね……」

審査員席でナナミは隣の四条社長に語りかけた。

「一時は『高すぎて売れない』とまで言われた市販機、ブレイズギア……そのノーマル機とフルカスタム機が日本大会の準決勝で戦っている。

おまけに一方は当社のハイエンドモデルの試作機に勝利している」

「それは彼等の努力の結果……スペックだけ考えれば勝てない相手でしたよ」

四条社長はあくまでも謙虚だ。

「しかしアイゼン……あの巨体とスピードをよく両立しているな……」

「全く、どこまで切り詰めたのやら……」



アイゼンも紅蓮も転倒から即座に立ち上がり、互いに相手が構えるのを待って同時に踏み出した。

「駆け引きなど不要!

意地と意地の真っ向勝負だ!」

またしても両者は弾かれるが、アイゼンは踏み留まりながら強引に踏み出して次の一撃を放つ。

対する紅蓮も後方へと滑りながらもアイゼンの拳に自身の拳を打ち込む。

今度はアイゼンの腕が脱力して弾かれ、すぐに反対の拳が紅蓮を襲う。

だが紅蓮は突き出していた腕を引かずに踏み込み、脚力だけの突きでアイゼンの一撃を受けた。

アイゼンの一撃の威力と踏み込みの勢いとで回転した紅蓮はアイゼンへと裏拳を打ち込むが、アイゼンも突き出していた腕を振り回してぶつける。

またしても重心の高いアイゼンだけがふらつくが、アイゼンは機体の傾きを利用してほぼ真下からの抉るようなアッパーで紅蓮をその防御ごと宙に浮かせた。

紅蓮の落下点はリング内だが、身動きが取れず落下するだけの紅蓮に向かってアイゼンは拳を打ち込む。

しかし紅蓮はアイゼンの拳に腕を掠めて胴体への直撃を僅かに避け、逆にアイゼンの胴体にまともに拳を叩き込んだ。

「アイゼン、ダウンだ!」

転倒するアイゼン。

対する紅蓮もリングに落ちる。

「これでカウントは9-4!

アイゼン、後が無くなった!」

会場から紅蓮コールが巻き起こる中、両者は立ち上がった。

「ふふ……ははは、やっとコレが聞けた」

絶望的な展開でアキトは笑った。

「ずっとコレが聞きたかった……この3年間、貴女達へのコールは1度も無かった」

アイゼンは拳を構える。

「この中で戦える日を夢見てきた!」

「……随分、小さい夢ですなぁ」

紅蓮もまた構えた。

そして両者はまた同時に飛び出した。

この試合だけでも何度目かのシチュエーションだったが、今回は紅蓮が一方的に弾き飛ばされてしまう。

「こいつ──」

ボタンは気付いた。

アイゼンの一撃は確かに紅蓮の腕の芯を捉えている。

先程までより狙いが研ぎ澄まされているのだ。

紅蓮はふらつきながらもアイゼンの追撃の拳を横から殴り付けて弾く。

転倒を狙った一撃だったが、アイゼンは攻撃中の腕を脱力させてわざと腕だけを弾かれ本体のバランスを崩さずに反対の腕を構える。

アイゼンの次の拳を紅蓮も反対の拳で受けるが、またしても紅蓮だけが弾かれてしまった。

更にアイゼンは踏み込みながら腕を振り回し、紅蓮は防衛しつつもわざと弾かれてアイゼンと距離を取る。

拳を構えた体勢で停止した紅蓮に対し、アイゼンはあえて追撃せず立ち止まって拳を構えていた。

そして両者は一瞬睨み合い、またしても申し合わせたかのように全く同時に大きく踏み込みながら拳を突き出した。

今度は両者共に打撃の瞬間には腕を脱力しており、ぶつかり合った拳は弾かれながらも反対の拳をすぐにぶつけ合う。

そのまま腕の力を抜かず押し合いながら空いた腕を構え、そして打ち込む。

両者が左右の腕で組み合うような形になり、そして押し合った。

一瞬の拮抗。

しかしすぐに紅蓮がアイゼンの巨体を押し込み始め、そして両腕をかち上げてアイゼンのバランスを崩した。

「弱点だらけやなぁ!」

紅蓮は転倒しそうなアイゼンへと容赦無く拳を叩き込もうとする。

アイゼンは無理な姿勢からも強引に腕を振り回して紅蓮の一撃を受け流した。

更にアイゼンは長い腕をリングに突いて体勢を立て直し、次の紅蓮の突きに真正面から突きを合わせて弾き返す。

だが紅蓮は即座に踏み込んで拳を叩き込み、あまりの反転の速さにアイゼンは防衛を間に合わせるだけで手一杯だった。

アイゼンはリングフェンスにぶつかって止まり、その眼前に紅蓮が迫る。

アイゼンも紅蓮も拳を突き出し、これがぶつかればアイゼンは確実にリングアウトとなる。

しかしアイゼンは攻撃の軌道を逸らし、互いの拳が相手の胴体に叩き込まれ──いや、紅蓮の拳はアイゼンへと僅かに届かず、逆にアイゼンの一撃は紅蓮の胴体中心を捉えた。

まともに攻撃を受けた紅蓮はリングの反対側まで飛んでいき、リングフェンスの上から転がり出してしまった。

会場の歓声が消え、紅蓮がステージに落ちる音が響いた。

「試合終了!カウント10-9でアイゼンの勝利!」

そのアナウンスが沈黙を破った瞬間、拍手喝采と大歓声が客席から溢れ出した。

「……ま、復帰のシーズンでここまでなら上出来やろなぁ」

ボタンは紅蓮を拾い、ステージから降りようとする。

その時、会場の歓声が止んだ。

それに気付いたボタンは振り返る。

アキトはボタンに向かって頭を下げていた。

「貴女達がいたからこの世界に来れた。

貴女達を目指してここまで勝ち上がれた。

こうして戦えた事、感謝します」

「そうですか……」

ボタンはステージを降り、控えていた双子の姉のヤエに告げた。

「あいつ、もうダメですわ。

ウチとの試合で集中が切れてもうたわ」

「夢見とったんがウチらだったとはねぇ……もし順番が逆なら……」

「ああ、最後がウチらだったらMIOはんにもハヤトはんにも勝てたやろなぁ」

「だろうね……彼にはその気迫があった」

口を挟んだのはハヤトだ。

「気迫で負ければ試合の空気感に飲まれる、それは実力の差を容易にひっくり返す。

リングに住む魔物とまで言われるほどの脅威……トーナメントの組合わせに感謝だね」

「よく言いますわ……そう言っておいて無敗やろアンタ」

ヤエに言われ、ハヤトは小さく笑った。

「でもいつかは負けるよ……今日は違うみたいだけど。

いつかは君達とも戦えるといいな」

ハヤトはヤエとボタンの隣を通り過ぎ、準決勝のステージに登った。




登場機体紹介


BLAZE GEAR 絶火/紅蓮

操縦者 : 桜木ヤエ/ボタン

ベース機体 : ブレイズギア

クラス : ハイエンドクラス

パワー : 16

スピード : 8

レスポンス : 20

モーション : 20

ウェイト : 12

リーチ : 3

バランス : 10

備考 : 市販機ノーカスタム

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