ROUND 14 : 宣戦布告
ROUND 14 : 宣戦布告
「いや、今回も逸材揃いの大会でしたね」
優勝者インタビューでハヤトはそう語った。
「いずれ僕も引きずり落とされる日が来る、それを実感できる大会でした。
しかし、それなのに世界大会の出場権は上位3名にしか与えられないのはもったいないですね」
「そういう事なら話がある!」
客席からの声に会場内の視線が集まった。
「世界大会の出場枠は各都市の決勝大会の上位3名……そして審査員または出場選手の推薦で決まる!」
客席の階段を降りてくるその男の事は、その場にいた全員が知っていた。
「世界大会2連覇、元チャンピオンのジャック・ブラッドリー選手だ!」
司会がそう紹介するまでも無い。
審査員の1人が手元のマイクをジャックに渡す。
「ご紹介、感謝する。
そう、私はジャック・ブラッドリー……ロンドン大会で優勝し、推薦権を得ている。
そして注目している若手が2人いる」
カメラがジャックを捉え、ステージ後方のスクリーンにジャックの顔が映し出された。
「まず、工藤ケンイチ選手。
アルゼルのスピードを操る操縦テクニックもそうだが、何より相手の動きをよく見ている。
経験不足だが、伸び代がある。
そして烏丸ツバサ選手。
よく仕上げられた機体に攻撃的な試合運び。
そして何より、勝てなかったとはいえあのブリューナクの首に爪が届いていた。
悩ましいところだが、私は烏丸ツバサ選手を推薦したい」
「何と、今日この場で早速の指名だ!
控え室、烏丸ツバサ選手はいますか!」
スクリーンに控え室の様子か映し出され、そのカメラの前にツバサが出てきた。
「貴方のご指名なら応えましょう。
敗北者に機会を与えてくださり感謝します」
「これは決まりだ!
堂本ハヤト選手、金山アキト選手、MIO選手に続き烏丸ツバサ選手も世界大会出場権を──」
司会の言葉を遮るように、ステージ上でアキトが手を上げた。
「おっと、金山アキト選手からも何かあるようです」
アキトにもマイクが渡される。
「ジャック選手も挙げた工藤ケンイチ選手、彼には自分も可能性を感じています。
正直、あの勝利には納得できない……次は負ける、そのように感じました。
だからこそ自分は推薦権を行使すると同時に、1回戦での果たし合いを申し込みたい」
「おっと、これはまさかの提案だ!
推薦権の行使と共に果たし合いを宣言!
これは前例もある正当な権利、しかし自らが下した相手となると許可されるのか!?」
「良いではないか!許可したまえ!」
突然、会場内に司会でも審査員でもステージ上の誰でもない声が響いた。
そしてスクリーンの映像が切り替わる。
「にゃっはっは、諸君、久しぶりだな!」
映像の真ん中にいるのは子供に見えるがれっきとした成人女性、それもかつて確かな地位にいた人物だ。
「はじめましての皆様には自己紹介をしよう!
私はネロ・クロノワール・ブラック!
前回の世界大会までは大会運営のメンバーだった者だ!」
映像の人物──ネロはそう名乗る。
その一方でネロの後方に立っている人物は何も口にしない。
「さてさてさて、今日は諸君に宣戦布告をしに来た!
といっても、あくまでも君達のルールに則った宣戦布告だ!」
スクリーンの上から1台のロボットが飛び出し、数メートル下のリングに綺麗に着地した。
「ワタクシの会社で開発した機体と勝負してもらいたい!
安心したまえ、レギュレーションは守っている!」
「冗談ではない!」
そう声を上げたのはテオ・ストラトス監督だ。
彼はリングにいるロボットの同型機による襲撃事件の現場にいた1人だ。
「にゃっはっは、テオ氏はご存知だったな!
ならば、断ればどうなるかもご存知だろう!」
その言葉に観客がざわつき始めるがネロは構わず続ける。
「本来ならばここでランキング上位陣や世界大会出場者と戦うべきだろう!
しかし、うちの操縦者がどうしても戦いたい相手がいると言っている!」
ネロはニヤニヤと笑いながらその名を口にした。
「工藤ケンイチ君、出てきたまえ」
その言葉に拒否権が無い事はケンイチも知っていた。
客席にいたケンイチは立ち上がり、ステージに上がる。
「これは、1試合やれば終わる事ですか?」
アルゼルを手にケンイチは問う。
「なるほど、良いね君……うちの操縦者が気に入る訳だ。
ならば約束しよう!今日はこの1試合が終わればそれだけで引き下がると!
勝敗は問わない!それで良いだろう!」
「そうはさせるかよ!」
ステージ下から犬飼がリングにアヌビスを投げ込んだ。
そのアヌビスの刃をリングのロボットは3枚の長い爪で防御する。
「にゃっはっは、犬飼君、ちょうど良かった!
機体紹介の相手には相応しい!」
ネロは上機嫌に笑う。
「ブラックローズ社の新商品、ゴースト!
その競技用カスタムだ!」
透明のバイザーの奥で赤い単眼を輝かせ、そのロボット──ゴーストはアヌビスを弾き飛ばす。
「このパワー、君では勝てない事くらい理解できるだろう!
さあ、君の役割は終わりだ!」
「お前──」
尚も戦闘を続けようとする犬飼の肩をマイカが叩いた。
「恐らく観客全員が人質……今は落ち着いて」
「……すまない」
小声で状況を伝えられ、犬飼は素直に引き下がった。
そしてケンイチは再び質問する。
「それで、もうひとつ……念のために。
競技用カスタムとの事ですが、本当にレギュレーションは完全にクリアしていますか?」
「君は本当によく頭が回るねぇ……素晴らしいよ。
そんな君との戦いに違反機を持ち込む筈が無いだろう?
バッテリーは大会指定の品、それに合わせてモーター出力も調整済みだよ。
ダメージポイントのカウント機能も実装してある」
ネロはとても嬉しそうだ。
彼女もまたケンイチを気に入ったのだろう。
「さあ、準備したまえ!」
「準備なら、もう終わってますよ」
ケンイチはアルゼルをリングに置き、コントローラーを手にした。
「いつでも大丈夫です」
「審判!いつも通り公平なジャッジを行いたまえ!」
「それでは、通常通り審判を務めさせていただく」
審判のミックがそう言うと、ケンイチは試合準備完了のボタンを押した。
『3、2、1──』
会場の全ての視線が向くリングで、アルゼルとゴーストは身構える。
『FIGHT!』
その瞬間、真っ先に飛び出したアルゼルをゴーストはその場から動かずに迎え撃った。
アルゼルの十分すぎる助走で加速した鉄拳をゴーストは片腕の爪で受け流す。
そのままリングフェンスに激突するアルゼルだったが回転しながらフェンスを蹴って急停止し、拳の勢いを全く殺さずにゴーストを横から殴り付ける。
ゴーストはそれを防御するが、受け流す事は間に合わず弾き飛ばされてしまった。
「にゃっはっは、やるじゃないか!」
アルゼルはゴーストが止まるのも待たずに突っ込み、その拳をゴーストの左右の爪が真正面から受け止める。
そのままゴーストはアルゼルの突進の勢いまで受けきって停止し、アルゼルの足裏のローラーが空回りした。
「アルゼルの突進が止まった!?」
観客がざわつく中、ゴーストは防御から左腕を引き抜きその爪を振り上げ、そして叩き付ける。
アルゼルはゴーストを突き放すようにその爪の届かない範囲まで後退し、拳を構えて停止した。
「以前より防御が上手いですね」
ケンイチはそう口にし、火向と犬飼の言葉を思い出す。
『合理的だが、"熱さ"が足りない』
『ビビったら負けなんだよ』
そして以前の公開収録時の僅かな交戦も思い出す。
あの時はアルゼルの攻撃を弾き返したり受け流したりはしたが、真正面から受け止めはしていない。
防御が上手くなり自信がつき、受けに回っている。
一瞬のうちに考えを巡らせ、ケンイチはアルゼルを前進させた。
アルゼルの拳をゴーストは力ずくで弾き返すが、アルゼルは弾かれた勢いで回転し裏拳を叩き込む。
その裏拳をゴーストは受け流し、即座に反対側の爪で反撃した。
しかしアルゼルはその反撃より早くゴーストの間合いから外へと飛び退く。
ゴーストの爪が空を切った瞬間、アルゼルは左の拳でゴーストの爪を弾き上げる。
姿勢を崩す為の一撃だが、脱力した腕だけが跳ね上げられ姿勢を崩すことは出来ない。
隙を突こうとしていたアルゼルは既に右腕のフライホイールを回転させていたが迷わず後退し、その頭部をゴーストの爪が掠めた。
更にゴーストは踏み込みながら反対側の爪を叩き付ける。
回避の間に合わないアルゼルは右腕で防御したが、大きく弾き飛ばされてしまった。
「アルゼル!ダメージポイント1点取られた!」
アルゼルはリング際で止まった。
「防御の上からダメージを通した!
何というパワーだ!」
司会が驚愕するが、ネロの反応は違った。
「凄いじゃないか!
今の衝撃をそこまで防ぐとは!」
ネロの言う通り、ゴーストの渾身の一撃は凄まじい衝撃だ。
パワーとスピードとウェイトを無駄無く乗せた攻撃モーション、そしてそれを一瞬で成立させるレスポンスの早さ、その全てが脅威だ。
ケンイチはアルゼルを停止させたままゴーストの様子を見た。
ゴーストは両腕を低く広げて身構えている。
アルゼルが前進し、その右の拳が突き出されるのに合わせてゴーストが左の爪を振るった。
アルゼルは急停止して間合いを合わせるとゴーストの爪を向かって左側へ──ゴーストから見て右側へと殴り付ける。
カウンターの勢いにアルゼルの攻撃の衝撃が乗り、ゴーストは回転する。
そこにアルゼルは殴り付けた勢いのまま一回転し、その場で加速をつけた拳を打ち込む。
だがゴーストは強引に回転を止めており、左の爪の向きを返して思いきり振り抜いた。
アルゼルの拳はゴーストの左腕を打つが、同時にゴーストの爪がアルゼルの頭部に直撃する。
アルゼルの頭部が割れて吹き飛び、その破片がリングに散った。
「アルゼル、クラッシュアウトだ!」
「にゃっはっは、対戦感謝するよ工藤ケンイチ君!」
静まり返った会場に司会とネロの声が響く。
「さてさてさて、それでは我々はこれにて失礼させてもらおう!
またいつか会おうではないか!」
スクリーンの映像が消えた瞬間、ステージの上から更に4台のゴーストが飛び降りてきた。
4台は全て2本爪で、背中のバッテリーパックはリング上の3本爪のゴーストより大きい。
3本爪のゴーストは2本爪のゴーストのうち1台の肩に飛び乗り、その周りを残り3台が取り囲むと会場の出口に向かって走り出した。
会場から逃げ出したゴースト5台は警察にも見つけ出せなかった。
会場近くの排水溝の蓋が空いており、その中にネロの名刺が落ちているだけだった。
登場機体紹介
ゴースト・カスタム
操縦者 : 不明
ベース機体 : オリジナル
クラス : ハイエンドクラス+
パワー : 30
スピード : 19
レスポンス : 27
モーション : 20
ウェイト : 11
リーチ : 3
バランス : 6
備考 : 凶器使用あり




