決戦(3)
轟音をあげて隕石が落下してくる。
だが目標は俺ではなく、ミィナ、エレン、セラフィーナが槍使いマルクトと戦っている戦場のド真ん中だ。
あそこに落下したら、当然ながらうちの嫁たちは無事では済まないだろう。
俺は十分の一秒単位の感覚の中で、思考を回す。
俺が今から慌てて突進にブレーキをかけて切り返しても、グールどもが重りになった今の状態では、落下地点に滑り込むのは到底間に合いそうにない。
【神速】を使えばあるいは間に合うかもしれないが、それもかなり怪しい。
しかもせっかく杖使いコクマーとの距離をここまで詰め、やつの元までもう少しというところなのに、また距離が離れてしまうのも腹立たしい。
だとすれば──
『わが主よ! スキルを組み合わせるのじゃ!』
「分かってる!」
俺はロンバルディアに返事をしつつ、斧を水平に、ブーメランを投げるように構える。
その間に、いろんな人物の声が聞こえてくる。
「ふざけんなよコクマー! 僕ごと巻き込む気かよ!」
「ほっほっ、お前は死にゃあせんじゃろ。じゃがあの娘っ子たちはどうかの?」
「ダメだ、逃げられない──!」
「ど、どうしたらいいにゃ!?」
「打つ手がない……!? ダグラス様──!」
それらの声を聞きながら、俺は二つのスキルを同時に発動する。
「──【魔断の斧】【トマホーク】!」
そしてタイミングを見切って、聖斧ロンバルディアを投擲した。
輝きを帯びたロンバルディアは、高速回転しながら飛んでいって──
落下してきた隕石に、見事に命中した。
ロンバルディアの命中を受けた隕石は閃光を発し、次の瞬間には光の粒となってあっさりと消え去った。
「「なっ……!?」」
杖使いコクマーと槍使いマルクトが驚きの声を上げる一方で──
「お、おおおお……さ、さすがダグラス……びっくりしたぁ……」
「す、すごいにゃ! やっぱりうちの旦那は最強にゃ!」
「さすがダグラス様です! 愛しています!」
うちの嫁たちからは、喝采の声が上がる。
よしよし、もっと褒めてくれてもいいぞ。
あとセラフィーナ、今日も情熱的だな。
俺は自分にへばりついているグールを、力ずくで引きはがしたりぶん殴ったりして自分の身から取り払うと、ブーメランのように戻ってきたロンバルディアをキャッチする。
その一方で、竜人族の二人はというと──
「嘘だろ……!? あんなことまでできんのかよ、あのおっさん……!?」
「バ、バカな……!? ぐっ……だが予想できるだけの材料はあった……! わしの驕りだというのか……!?」
二人とも明らかに狼狽していた。
そして、これで条件が揃った。
チェックメイトだ。
それは、コクマーに逃げられないようにと「劣勢を装う」必要が、もはやなくなったということ。
俺は出し惜しみしていたスキルを、片っ端から発動させていく。
まずは、うちの嫁たちを苦戦させていた槍使いマルクトを見て──
「──【重圧】!」
「なっ……!?」
槍使いの少女マルクトの体に、闇色の力がまとわりついた。
強大な重力に縛られ、動きを鈍らせる槍使いマルクト。
これで、半ば単身で無双するかのごとく嫁たちと渡り合っていた竜人族の少女は、わずかの時間だけだが大幅に弱体化した。
そこに──
「弱い者いじめみたいで悪いけどさ!」
「ダグラスが作ってくれた好機、逃がさないにゃ!」
「天雷よ、今こそダグラス様の敵を撃ちなさい──サンダーボルト!」
うちの嫁たちが、一斉攻撃を仕掛けた。
エレンの剣が、ミィナの短剣がマルクトを切り裂き、セラフィーナの魔法がトドメとばかりに槍使いの少女の体を撃ちすえる。
「──うわぁああああああっ!」
たて続けにダメージを受け、槍使いの少女が叫びをあげる。
よし、向こうはあとは、三人に任せておけば大丈夫そうだな。
俺自身は【重圧】のスキルを使った直後、杖使いコクマーのほうへと注意を向ける。
もはや俺とコクマーの間に立ちふさがるグールの数は、ろくにない。
これがチェックメイトの条件だった。
「さあ爺さん、終わりにしようぜ──【神速】!」
俺は次のスキルを発動。
残りのわずかなグールどもの間をかいくぐって、コクマーの元へと稲妻のごとく駆けていく。
「ぬぅっ……!? お、おのれぇ……! だが口惜しいが、潮時か──ヘイスト!」
コクマーは魔法を自身に向けて行使した。
敏捷性強化の魔法のようだ。
それから老人は、竜人族本来の姿に一瞬で変化する。
二本のツノや翼、尻尾が生えた姿だ。
そして背に生やした翼を羽ばたかせ、飛び上がろうとする。
「逃がすかよ! ──【ホーリースマッシュ】!」
俺はそこに矢弾のように突っ込んでいって、威力倍増のスキルを発動させ、ロンバルディアを振るう。
通常だったら間に合わなかっただろうが、【神速】の影響下だ。
翼を生やしたコクマーが上空に浮かび上がるよりも早く、その体に聖斧の刃を叩きつけ──
「ちぃっ──【空間転移】!」
──ることはできなかった。
コクマーがスキルを使い、その場から消え去ったのだ。
急いで周囲を見回せば、コクマーは俺の頭上──彼が元居た場所の数メートル上空に現れていた。
竜人族の老人は怒りに顔を歪め、捨て台詞を吐く。
「おのれ、おのれおのれおのれおのれ──覚えておれよ、人間の小童ぁっ!」
コクマーは背の翼を羽ばたかせ、そのまま飛び去っていこうとする。
敏捷性を増す魔法をかけたせいもあってか、その動作は驚くほど速い。
だがここまできて、逃がすつもりはない。
「──【神速】【ホーリースマッシュ】【トマホーク】!」
俺は再び、スキルを組み合わせで発動。
逃げ去っていこうとするコクマーを狙って、豪速でロンバルディアを投げつけた。
「な、なんじゃと、二発目──ぐわぁあああああっ!」
回転して飛んでいった聖斧は、慌てて回避をしようとしたコクマーの、背中から片翼にかけてを激しく抉った。
竜人族の老人は、聖斧の威力によって弾かれるように墜落、森の木々を突き破って地面に激突した。
戻ってきたロンバルディアをキャッチした俺は、墜落地点へと走る。
現地にたどり着くと、そこにはズタボロの姿で杖を支えによろよろと立ち上がる、竜人族の老人の姿があった。
満身創痍のコクマーは、それでもなお、くくくっと笑う。
「よ……よもやわしが、こうまで追い詰められようとはな……。小童、褒めてやろう──わしにこの力を使わせた者は、ここ百年、いや二百年以上はおらなんだわ。誇れ、そして後悔して死ね──【竜化】!」
竜人族の老人の姿が、まばゆく光り輝く。
──それはあたかも、ロンバルディアの変身のようだった。
人の姿をしていた光がぐにゃりと形を変え、巨大に膨れ上がっていく。
そして──
「……おいおい、マジかよ」
俺はその姿を見上げ、苦笑する。
巨大化した光はやがて輝きを失い、現実の生物へと姿を変える。
そいつがそこに現れたことにより、周囲の木々が次々と押しのけられ、めきめきと音を立てて倒れていった。
その巨大生物は俺を見下し、口を開く。
『ほっほっ。見たか小童。これこそが竜神器の真の力、【竜化】じゃよ』
「……ったく。毎度毎度、どうして俺はこう、ドラゴンにばかり好かれるかねぇ」
俺はそいつを見上げ、呆れのため息をついた。
竜人族の老人、杖使いのコクマーが変身した姿は、巨大なドラゴンだった。
黒い鱗を持ったその竜の大きさは、壮竜にも匹敵するほどだ。
『ほっほっ。じゃがこの姿になると、殺戮衝動が止まらなくなるでのぅ。はて今回は何日で収まるか。──まずは小童、おぬしが連れていた女どもの悲鳴を聞きたいぞ? 踏みつぶされて骨を砕かれたとき、わしの牙に嚙み殺されるとき、あの娘っ子たちはどんな声で泣くかのぅ』
そう言って邪悪な笑い声をあげるブラックドラゴン・コクマー。
やれやれ。
どうしてこう、どいつもこいつも悪趣味なのかね。
だがこいつを倒そうにも、こっちには手札がほとんど残っていない。
使い物になるのは【絶対防御】が一枚、それに【アヴェンジ】ぐらいか。
それで無理なら、いつものあれに頼ることになるが──
「──ま、やれるだけやるしかねぇか」
俺はロンバルディアを一振りして、巨大なドラゴンへと立ち向かっていった。





