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神には届かない  作者: 空野
ウェルロッドの憂鬱
86/93

20

 


 過ちに気付いたのは、4年後。


 暗い小屋の中。

 卓上に転がる瓶の中に詰められた白い錠剤。

 痙攣する右手。


 苦しみ続けた証が、そこにあった。


 ラーグハルトの言葉は、想いは、〝英雄〟であることを支えていた。

 支えてしまっていた。


 本当にサンダースにとって必要だったのは、〝英雄〟であるための支えなどではなかったのに。


 本当に必要だったのは解放だったのだ。


 〝英雄〟であり続けるために、支えて、背中を守る戦友よりも。


 本当に必要だったのは。

 〝英雄〟であることから救われるための、切っ掛けだったのだ。


 そして、それは。

 〝英雄〟を支え続けた戦友には、決して、与えられないものだった。


 世界中の誰より理解している。

 世界中の誰より知っているから。


 だからこそ、〝英雄〟でなければと、そう強迫観念のように思い続けるサンダースの望むことを、〝英雄〟であるために必要な支援を。

 理解して、差し出し続けてしまったのだ。


 それは目隠しをされて、手錠を嵌められて、自由を奪われた人に。

 美味しい豪華な料理を与え、心地良いベッドを与えて優しく飼い殺すようなエゴだった。



 結局、またラーグハルトは叫べなかったのだ。

 サンダースは、〝英雄ヒーロー〟なんかじゃない、と。



 誰より知っていたのに、誰より知っていたから。

 とうとう、叫んでやれなかった。


 深夜。

 秋の森の小屋の中、ラジオの音を聞き流し、机に伏せて眠るサンダースの頭を、しばらく撫でていた。


 結局、サンダースに切っ掛けを与えたのは見知らぬ少年で。

 自分は、また、渦中にいながら何もできなかったのだ。


 撫でる手を止めて、座っていた机から降りた。

 眠る肩に上着を掛けてから、そっと、外へ出る。


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