20
過ちに気付いたのは、4年後。
暗い小屋の中。
卓上に転がる瓶の中に詰められた白い錠剤。
痙攣する右手。
苦しみ続けた証が、そこにあった。
ラーグハルトの言葉は、想いは、〝英雄〟であることを支えていた。
支えてしまっていた。
本当にサンダースにとって必要だったのは、〝英雄〟であるための支えなどではなかったのに。
本当に必要だったのは解放だったのだ。
〝英雄〟であり続けるために、支えて、背中を守る戦友よりも。
本当に必要だったのは。
〝英雄〟であることから救われるための、切っ掛けだったのだ。
そして、それは。
〝英雄〟を支え続けた戦友には、決して、与えられないものだった。
世界中の誰より理解している。
世界中の誰より知っているから。
だからこそ、〝英雄〟でなければと、そう強迫観念のように思い続けるサンダースの望むことを、〝英雄〟であるために必要な支援を。
理解して、差し出し続けてしまったのだ。
それは目隠しをされて、手錠を嵌められて、自由を奪われた人に。
美味しい豪華な料理を与え、心地良いベッドを与えて優しく飼い殺すようなエゴだった。
結局、またラーグハルトは叫べなかったのだ。
サンダースは、〝英雄〟なんかじゃない、と。
誰より知っていたのに、誰より知っていたから。
とうとう、叫んでやれなかった。
深夜。
秋の森の小屋の中、ラジオの音を聞き流し、机に伏せて眠るサンダースの頭を、しばらく撫でていた。
結局、サンダースに切っ掛けを与えたのは見知らぬ少年で。
自分は、また、渦中にいながら何もできなかったのだ。
撫でる手を止めて、座っていた机から降りた。
眠る肩に上着を掛けてから、そっと、外へ出る。




