表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神には届かない  作者: 空野
ウェルロッドの憂鬱
73/93

7

 

 閉鎖的な全寮制の場所で、数百人単位が生活すれば、必ず起こる事がある。


 対人トラブルだ。


 そして、それが一定の長期化と、特定の人物への標的化を帯びれば、いわゆる〝いじめ〟となる。


 特に上下関係の厳しい軍事機関である士官学校では、それは特に、上級生から下級生へとベクトルが向き易かった。


『こういう時は呼べよ!』


 クリスマスにケーキを大盤振る舞いしたのは、さすがに目立ち過ぎたらしかった。


 元々、金持ちの息子、容姿も良くて街に出れば女の子からは好かれ、成績優秀で教官の覚えも良く、同期にすら慕われている、と、役満だった。


 同期達の中にこそ逆恨みや嫉妬を向ける者はいなかったが、上級生から見れば相当に生意気で、目障りな存在だったのかもしれない。


 あと数日で新年を迎え、それから更に数日で休暇が終わるという頃。

 朝から姿が見えないな、と思っていれば、派手にやらかしていたようだった。


『お前なぁ!呼び出されたなら一言、相談を』


『問題ない。全員返り討ちだ』


 校舎裏の花壇の横。

 頭からホースで水を掛けられた顔を、びしょ濡れの袖で拭い、サンダースはケラケラ笑った。


 上級生3人掛かりで押さえ付けられて、この寒空の下で嫌がらせを受けたようだったけれど。


 それで大人しくされるがまま泣くようなタマではなくて、よくもやったなと、盛大な殴り合いをしたらしかった。


 水浸しに加えて、組み合って転げた地面で付けた砂埃やら、返り血なのか自分の血なのか血痕まで付けて。


 ほうほうの体で逃げ出した上級生を見送りながら得意げな顔に、駆け付けたラーグハルトは頭を抱える。


『お前……、喧嘩騒ぎなんて、教官に滅茶苦茶シバかれんぞ……』


『まさか、大丈夫だろ』


 服までびしょ濡れの相手に、焼け石に水だろうと知りつつハンカチを差し出して呆れると、当人は飄々と肩を竦める。


『俺が黙ってれば教官の耳には入らないさ。まさか3対1で下級生イジメようとして、見事に返り討ちにされたなんて、相手にとっちゃカッコ悪くて誰にも言えんだろうし』


 ざまぁみろ、と楽しそうに笑ったかと思えば、次の瞬間、しかし寒いな、と顔を顰めて腕を擦った。


『……お前なぁ……。そりゃ寒ぃだろうよ……』


 呆れて、ラーグハルトは上着を脱いだ。


『ほら、それ着てろ!さっさと寮に戻って、あっついシャワー浴びろよ!』


 バサッ、と、頭から上着を乱暴に被せて、その腕を引く。


『え、あ……わるい……』


 慌てたように、そこで少しだけ碧眼は瞬いた。


『でも、これ、お前の上着が濡れるから』


『気にするんだったら、次からやらかす前に相談しろ』


 引いていた腕を放して、被せたままの上着越しに頭をガシガシ掻き回すと、今度こそポカンと、学年首席は声を失って大人しくなった。


『ほら、俺もさみぃからとっとと行くぞ!』


 手招いて歩き出して。


『……はは』


 横に並んで漏らされた満足げな笑い声に振り向くと、この国では珍しい黒と青の配色は、心から楽しそうに笑っていた。


『なんだよ?』


 片方の眉を上げて問い掛けると、サンダースは頭に被っていた上着を肩まで下ろして愉快げに笑った。


『頭なんて、撫でられた事なったよ』


 思わずと、一瞬黙り込んだラーグハルトに。


『あれくらい1人で何とでもなるさ』


 軽い調子で、心底、愉快そうに。


『だがラーグがいれば、確かに心強そうだ』


 年の瀬の冷えて澄んだ風が吹いていた。

 その風に取られた前髪を整え直す仕草で一瞬を稼ぐ。


『……そうだよ、頼れよ、相棒』


 どうにか取り戻した声で軽く答えて。


 その瞬間に抱いた例えようもない幸福に似た何かは、やがて友情と一緒に、強く、強くなっていくものだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ