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第一印象が覆るのに、殆ど時間は掛からなかった。
サンダース・クレイガンという人間は、決して楽天家ではなかった。
ただ単純に、あまりに有能だった。
あまりに有能であるが故に、悲観する必要がないから、時に楽天家にまで見えるのだった。
試験の後、教室に成績順が張り出されると、いつも叫び声が上がる。
『またクレイガンだ!』
『おい、またサンダースが全科目トップだぞ!』
そうして叫ぶ同期達に、当人はいつも自信満々に笑って応じていた。
『当然の結果だな』
嫌味にすら聞こえるその発言に、しかし、あるいは誰一人として敵意を見せないことこそ、サンダースの有能さの証であったかもしれない。
『ムカつくなーお前。たまには誰かに譲れよ、一科目くらいさぁ』
『お前、賄賂とか使ってねぇよなぁ、ボンボンー』
口先は恨みがましい事を言っていても、同期の誰一人、本気で彼をやっかむ者はいなかった。
『賄賂なんか使うかよ。見ろ、これ。この地道な努力の証を』
『うっわ、なんだよそれ、気持ち悪っ!』
『教書にそんな書き込む奴はじめて見たんだけど』
『改めて見ると自分でも気持ち悪いな、これ。今回の範囲、本当に、ここまでやってもイマイチ意味がわからなかったから、最後はもう丸暗記したんだぞ、ここ』
『まじかよ。クレイガンがそんだけやって意味わからんとか、俺が三十点なの必然じゃん』
『あのな、俺も実は毎回めちゃくちゃプレッシャー感じて必死に成績キープしてるんだからな?』
『うそだろー、って言おうと思ったけど、その書き込みはマジだな……』
教官の元に通い詰めてメモを書き込んだ教書を広げて苦笑いする姿に、同期の誰もが最後は笑う。
『なークレイガン、俺、追試なんだけど、その教書貸してくれない?』
『いいぞー。何なら追試のヤマ張ってやるから次の掃除当番かわってくれ』
『まじか。良いぜー掃除当番くらいかわってやるわー』
過度の自慢もせず、しかして、過度に謙遜することもない。
自分の努力を隠しも否定もせずに、そして、その成果を他人に分けてやる事も惜しまなくて。
さらに一方で、ほどよく手抜きもするような可愛げのあるズルさや隙もある。
きっと生まれついての指揮官だった。
サンダースという人間は、息をするように自然に、指揮官として立つ者に必要な振る舞いを学び取り、実行出来る人間だった。
『我等がヒーローも、案外影で泥臭い努力してんだなぁ』
教書の書き込みを見て同期達がケラケラと笑う中心。
『泥臭いじゃなく、せめて地道とか言えよ』
ぶぅたれる素振りで、けれど誰かの為の追試のヤマを早速張り始める姿に抱いた第二の印象は。
(なんでも良くできて、人当たりも良くて……びっくりするほど有能な奴)
そんな、感想だった。




