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神には届かない  作者: 空野
神には届かない
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Time in(side:s)


 その血を吐くような怒りの唸りに。煮詰めに煮詰めたドロドロの感情に。

 ひどく覚えがあったから、サンダースにはわかったのだ。


「どうやって、生き残った?」


 その問に、数秒、沈黙。

 それから、くつくつと、密やかに、悲痛に、苛立たしげに、笑う。


「……ああ、そうだ」


 カーンが答えた。



「お前と同じ方法だよ、〝英雄〟」



 声に込められた憎悪は、グサリとサンダースの鼓膜に突き刺さる。


 けれど痛みはなかった。

 その憎悪は、サンダースに向けられたものではなくて、カーン自身に向けられているものだったから。


「俺1人を生かす為に、何人もの上官が、同期が、部下が死んだ」


 自分自身に切っ先を向けて、低い低い憎悪の声は放たれる。


「俺は、死に損なった」


 世界全部を嗤うようなその嗤いは、けれど世界でたったひとり、たったひとりだけを呪って蔑んで、嗤っているのだ。


「死に損ないは、〝英雄〟になるしかない。たったひとり……たったひとりの、ただの人間を、死に損なわせる為に死んで逝った、数多のものを無駄にしたくないならば」


 ただの人間は、ただの人間である資格を失うのだ。

 残るものは義務。〝英雄〟であるという、義務。


 低く嗤うカーンを見たまま、ああ、やはり、とサンダースは思う。


 やはり、覚えがあるのだ。

 その煮詰めに煮詰めた憎悪、たったひとりに向けてのみ放たれる憎悪には。

 嗤うことしかでない、その声には。


 覚えがある。

 だってその全部、サンダースにそっくりだ。


(幹部クラスの要人もたくさんいた議事堂で、なぜ、〝中佐〟であるこの男だったかは、わからないが)


 あるいは周りが満場一致で認めるほどに、飛び抜けて優秀だったのだろうか。

 あるいは、重鎮であればこそ中年から老齢が多い中で、単に一番若いものに未来が託されたということだろうか。


 わからない。

 わからないけれど、きっと、その時、〝あちらにはあちらの物語〟が、あったのだ。


 〝こちらにはこちらの物語〟があったように。


 立場が違っただけ。勝ち負けが違っただけ。


 同じ時に、きっと、2つの〝英雄譚〟は、生まれたのだろう。


「なぁ、俺達は、どちらも〝人間〟ではいられない。〝人として〟の生き方など、許されるはずもないだろう、〝英雄〟よ?」


 その背中に託されたものを背負って。

 身動きひとつできないまま、息さえもできないほど不自由なまま。

 贖罪の〝英雄〟が2人、4年越しに、向き合った。


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