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神には届かない  作者: 空野
神には届かない
59/93

AM 08:31(2)


(……銃声)


 すぐ、近くだった。

 ビクリと心臓は跳ね上がり、顔を上げてその物音の方向を咄嗟に睨む。


 すると、そちらの方角に近い位置に、光が下から差し込んでいた。

 どうやらそこは鉄格子になっていて、下の様子が伺えるらしい。


(……なにが、起きてるんだ?)


 暫く動けなかった。バクバクと心臓が早鐘を打っている。


 すぐ下、流れ弾が天井を突き破れば、自分にも突き刺さるかもしれない位置で、銃声がした。


 下からは何か人声が聞こえた気がしたけれど、その瞬間、焦燥と恐怖と驚きで真っ白な頭は、それを言語として認識しなかった。

 ただ何となく、音が流れて行ったような感覚。 


 けれど丸々数分以上あって、ようやく、その金縛りは融ける。


(……音を、立てないように)


 何かして危険に突っ込む恐怖より、見えない恐怖の方が勝った。結局、慎重に、慎重に、グースは這い進んで、その光を見下ろした。


「10秒以内に、そこから廊下に出て来い」


 グースが覗き込んだ鉄格子の隙間より後方、匍匐姿勢のグースの足がある方から、声がした。

 そうして、グースが頭を向けている方向、鉄格子越しに見えている、廊下に。


「せめて身支度に1分はくれても良いんじゃないか?」


 教室の中から、静かに出て来たのは、サンダースだった。


(少将……!?)


 サンダースの肩越しに、銃を構えるテロリストの男が1人見える。更に奥の方の階段では、他に2人、テロリストが物置の方を向いて構えているのも確認できた。


「貴様は少し慌てる事を覚えた方が良いな」


 グースの足元のあたり、こちら側の階段と推測される位置で、声がする。


(こいつも、きっと独裁軍だ)


 挟み撃ちにあっているのだ、と状況を悟る。悟って、ビクリと肩を揺らした。


(どう、しよう……?)


 しかし、青くなるグースと裏腹に、サンダースは平然と腕組みして顎を上げる。


「余裕の無い男もモテないぞ?」


「減らず口か。こんな時に焦る様な人間性は、とっくに悪魔に売り払ったようだな、〝英雄〟」


 ゾッとするほど、憎悪のこもった嗤い声がした。


「あの炎の中で。仲間を焼き殺した時に、自分の命と名誉のため、魂を悪魔に売ったんだろうよ」


 その憎悪と侮蔑を向けられている対象ではないはずのグースが、思わず怯むような。肺を冷たい手で握り締められたような気分になるような、煮詰めに煮詰めた暗い感情のこもった声。


 けれど眼下、その暗いもの全部を真っ直ぐに浴びているはずのサンダースは、怯んでいない。


 ただ、微かに眉間に皺を寄せる。


「私は人として、誰にも、何にも、魂は売っていない」


「それは許されないぞ、サンダース・クレイガン!」


 暗い嗤いが廊下に響いた。

 その煮詰めに煮詰めて、ドロドロになった何かの感情の強さとおぞましさに、グースは知らず鳥肌が浮かぶ。


(……こいつは、何なんだ……?)


 息を詰める、その間に。


「お前に〝人として〟の生など許されるものか。お前が何にも魂を売らぬなど、欺瞞も良いところだ」


 吐き捨てるように、姿の見えない男は唸る。


「ああ、そうだろう?お前は、焼き払った仲間の為にも、永劫、魂も人生も捧げねばならない。〝英雄〟としての存在しか、許されはしない」


 血を吐くような、怒りの唸りだった。


「ただの人間であることなど、許されない」


 それに、数秒沈黙してから。


「カーン・ハーウェン」


 サンダースは、静かに問い掛けた。


「お前、あの日、議事堂で、どうやって、生き残った?


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