AM11:03(4)
「後は、ご存知の通り」
「……決死の攻撃は、奇跡を起こしたというわけですね」
記者は神妙な表情でメモ帳に筆を走らせる。
「死を覚悟した、最後の反撃、それが奇跡の始まりだった、と」
考え深げに記者は呟いて、愛おしげに、メモ帳に並べた文字を指先でなぞる。
「やはり、貴方は〝英雄〟ですわ。貴方の誇りが、死よりも尊厳を尊んだ、その高潔な行動が、奇跡を手繰り寄せたのでしょうね」
感嘆する記者。
サンダースは、目を逸らした。
(誇りなんて、あったわけがない)
そんな綺麗なものではなかったのだと、サンダースの頭の奥の方、真白に凍えきった場所が、声をあげる。断末魔のような怒鳴り声で、そんなに綺麗なものではなかったのだ、と。
(私は、ただの自棄だったんだ)
死しか待たない未来に押し潰されかけた人間が、その恐怖から逃れる為に、虚勢を張っただけなのだ。
死は怖い。けれど、それが怖いと認めてしまえば、いよいよ、恐怖は増す。だから、恐怖から逃れる為に、あえて恐怖へと駆けだしたのだ。
そんなもの怖くなんかないと、自己暗示するために虚勢を張っただけだ。
それだけなのだ、それだけの事だったのだ、サンダースにとっては。
高潔な誇りなんかじゃない。
高尚な精神なんかじゃない。
そこには国家を想う気持ちもなければ、誰かを救おうだなんて余裕もない。
ただ、自分の為に、戦って死ぬと決めただけなのだ。
けれど。
(結局、私は、生きている)
吹き込む風に、急に肌寒さを覚えた。シャツの襟を少し閉じようと、無意識に右手を挙げかけて。
ハッと、動きを止めた。
「……失礼、少し手洗いに立っても?」
何気ない仕草で右手を記者の死角に戻し、そう言った。
「ええ、お構いなく」
記者は予想通り快く、何を不思議に思う事もなく了承する。それに軽く頷いて、ついでにカメラマンにも断りを入れると、サンダースは席を立った。




