表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神には届かない  作者: 空野
神には届かない
6/93

AM11:03(4)


「後は、ご存知の通り」


「……決死の攻撃は、奇跡を起こしたというわけですね」


 記者は神妙な表情でメモ帳に筆を走らせる。


「死を覚悟した、最後の反撃、それが奇跡の始まりだった、と」


 考え深げに記者は呟いて、愛おしげに、メモ帳に並べた文字を指先でなぞる。


「やはり、貴方は〝英雄〟ですわ。貴方の誇りが、死よりも尊厳を尊んだ、その高潔な行動が、奇跡を手繰り寄せたのでしょうね」


 感嘆する記者。


 サンダースは、目を逸らした。


(誇りなんて、あったわけがない)


 そんな綺麗なものではなかったのだと、サンダースの頭の奥の方、真白に凍えきった場所が、声をあげる。断末魔のような怒鳴り声で、そんなに綺麗なものではなかったのだ、と。


 (私は、ただの自棄だったんだ)


 死しか待たない未来に押し潰されかけた人間が、その恐怖から逃れる為に、虚勢を張っただけなのだ。

 死は怖い。けれど、それが怖いと認めてしまえば、いよいよ、恐怖は増す。だから、恐怖から逃れる為に、あえて恐怖へと駆けだしたのだ。

 そんなもの怖くなんかないと、自己暗示するために虚勢を張っただけだ。 

 それだけなのだ、それだけの事だったのだ、サンダースにとっては。


 高潔な誇りなんかじゃない。

 高尚な精神なんかじゃない。


 そこには国家を想う気持ちもなければ、誰かを救おうだなんて余裕もない。

 ただ、自分の為に、戦って死ぬと決めただけなのだ。


 けれど。



(結局、私は、生きている)



 吹き込む風に、急に肌寒さを覚えた。シャツの襟を少し閉じようと、無意識に右手を挙げかけて。

 ハッと、動きを止めた。


「……失礼、少し手洗いに立っても?」


 何気ない仕草で右手を記者の死角に戻し、そう言った。


「ええ、お構いなく」


 記者は予想通り快く、何を不思議に思う事もなく了承する。それに軽く頷いて、ついでにカメラマンにも断りを入れると、サンダースは席を立った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ