AM11:03(3)
敵軍陣地に潜入し、諜報活動を行うこと。
それが、サンダースが所属していた特殊部隊の、本来の任務だった。地下水路から敵陣地に潜入、一定期間の後、あらかじめ敵軍が警戒していないと分かっていた所定のポイントに、自軍のヘリが迎えに来るという作戦である。
ところが、敵も無能ではない。
所定ポイントの情報が流出し、迎えのヘリは撃墜された。残された部隊は、潜入に使った地下ルートで戻ろうと試みたが、こちらも塞がれている。
地上を、地下を。とにかく逃げ回る、地獄の日々が始まった。
地上ではどこからか飛んでくる狙撃手の銃弾に怯え、地下では、角を曲がった先の暗がりから敵の銃口が現れる妄想に捕らわれ。血と泥の積み重なる路地を這い摺り周って逃げて、死体の浮いた水路で眠り、溝鼠に齧られる痛みで目が覚める。
そんな日々だった。
やがて食糧が尽き、弾薬が減り、ナイフが刃こぼれして。
足を撃たれた仲間は、暗黙の内に誰もが見捨てて逃げた。
精神的に耐えられなくなった仲間が、己の頭を銃で撃ち抜く音に跳び上がって起きた日もある。
その内に、生き残っている者達の目から、理性が消えて行くことに気付いた。泣き叫びながら急に自分の頭を撃ち抜いた仲間は、あるいは、前触れだったのか。誰もが肉体的に、そして、それ以上に精神的に追い詰められていった。
だから、ある時、誰からともなく言い出したのだ。
『どうせ、このまま狂って自分から死ぬか、無念に射殺されるかなら、いっそ派手に一矢報いて死んで逝きたい』
日に日に理性の消えて行く瞳の奥に、それでも、まだ、人間としての尊厳が残っているのなら。その人間としての尊厳は、人として死ぬ前に、まだ人としての誇りがある内に、この命を終えたいと叫んでいた。
だから、残った部隊は、今まで切望していた敵陣の外側、帰還するべき場所に、背を向けた。
敵陣の中央、議事堂へ。
二度と帰らぬつもりで、出口の方向へ背を向けて、死に場所に、進む事にしたのである。




