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神には届かない  作者: 空野
神には届かない
55/93

AM 08:12(2)


「いち」


 手の中の閃光弾を投げると同時に耳と目を庇う。

 続けざま、一般教室付近から悲鳴が上がった。


「今だ、動け!」


 離脱班とトーラスに合図して廊下に飛び出す。離脱班がそのまま玄関に向けて進むのを確認しながら、サンダースはトマスに合図して後方階段へと飛び込んだ。


 僅かの間を置いて、銃声。

 振り向けば一般教室のテロリスト達が回復して発砲してきたらしいが、生物室に残った監視班がすぐさまやり返して牽制している。


「上手くバラけられましたね」


 トマスがホッと呟くのに、ああ、と頷きかけて。


「……リンドマン、奥だ!」


 一般教室の後方、階段へ向けて走り寄る人影を捉え、咄嗟に叫んだ。

 どうやら閃光弾の一撃を回避した者がいたらしい。こちらの攻略班や離脱班が飛び出したのよりも、やや遅いタイミングで一般教室から飛び出したと思しきテロリストが一人、一般教室側の階段に駆け込むところだった。


 サンダースの声に反応したリンドマンが、すぐさまそちらへ向けて発砲したが、当たらない。距離がある事に加え、あまり廊下側に身を乗り出せば、一般教室から逆に的にされるという悪条件だった。


「止められないか」


 瞬時に判断し、サンダースは階段を駆け上がった。


「少将!」


「トマス、そこの物置で待機してくれ!」


 すぐについて来るトマスに、振り向かないまま指示を出す。

 駆け上がった先、2階の廊下、階段の向かい側には、物置があった。


(テロリスト達は無線で連絡を取り合っている可能性が高い。ならば、生物室の部隊を挟撃するため、見回り組のテロリストは、必ずこの階段を使う)


 そうであるならば、この物置は待ち伏せのポイントとして最上だった。室内窓もなく、扉もパッと見て鉄製。更に内部にはバリケード変わりになりそうな掃除用具などもそれなりに揃っていると予想される。


「少将はどうなさるんです?」


 サンダースと同じ事を思って瞬時に物置に駆け寄ったトマスは、しかし振り向いて微かに首を傾げた。


「さっき、一般教室側の階段を駆け上がった奴を、誰かがどうにかしないといけないだろ?」


 サンダースは、視線を2階の廊下の先に向けた。


「アイツと見回り組に挟み撃ちされては、物置で待ち伏せする意味も、せっかく一階からバラけて登って来た意味もないからな」


 まだ登りきって来ていないのか。それとも、こちらと鉢合わせる事を警戒し、見えないギリギリの位置に潜んでいるのか。

 今のところ人影の見えない反対側の階段を睨み、微かに眉を寄せる。手の中のM1911A1が、ズシリと不意に重くなる錯覚。


「危険です!」


 トマスは瞬時に声を低くした。


「あちら側の階段に辿り着くまでに、複数の教室の前を通らねばなりません。見回り組のテロリスト達が、既にそのどれかに潜んで待ち伏せしているかもしれません」


 移動は即ち、堂々と的になるに等しいかもしれない、と。警告する声に、サンダースは首を左右に振った。


「いいや、それはないな」


 それだけは確信がある。


「2階の、それもこの廊下にいたなら、我々がここに来る前、生物室にいた時点で、とっくに挟撃していたはずだ。もしくは、この立ち話の間に撃って来てるよ」


 今に至るまで挟撃されていないことが、見回り組が生物室から遠くにいた事の証。


「見回り組は、まだ、3階にいる」


 確信を持ってそう言って、内心でヒヤリとした。


(……よりにもよって、西棟の3階か)


 電話越しに会話していた少年の事が頭を過ぎる。

 西棟3階の仮眠室。どうか、せめて、そこだけは何も起きていないようにと瞬間的に強く願った。


「……物置で籠城戦に備えてくれ。なるべく早く一騎打ちはケリを着けて戻る」


 胸騒ぎを振り払って再びトマスの方を向けば、眉間に皺を寄せた部下は、はぁ、と溜息を吐いた。


「見回り組の待ち伏せがなくたって、前方物陰に敵がいるの確定の上で遮蔽物の無い一本道の移動って……。本来、そういうリスクのデカい一騎打ちとかって部下がやるもんだと思うんですけどね……」


「そうか?一騎打ちといえば大将戦だろ」


「いつの時代の感覚ですか、それ」


「それに、見回り組は3人だ。つまり、もし降りて来たら3対1になるわけだ。リスクはどっちも同じだと思うぞ」


 ニッと笑って見せると、そりゃそうかもしれませんけど、と苦笑いが返ってくる。


「……一応言っておきますが、死なないで下さいよ」


「お互いにな」


「了解です」


 それで、トマスも分担を了承したらしかった。今度こそ物置に向かう姿を背に、サンダースは廊下の先、反対側の階段の方に視線を向けた。


(……距離は50メートル程度)


 小さく息を吐いてから、ゆっくりと、歩き出す。


 左手には等間隔で教室の入り口となる扉、そして教室内の様子を見せる室内窓が並んでいた。対して右手には、秋の朝の高く青い空を映す窓が並んでいる。


 何かあれば、すぐに教室に転がり込める用に。一定間隔で並ぶ扉を意識し、左手に寄りながら。しかし視線の中央は、階段に向けて。


 1歩1歩、慎重に進む。


 経過時間を鑑みれば、相手も既に2階に到達しているはずだ。となれば、階段の影から、こちらを撃つタイミングを計っているのだろう。


(階段に一番近い教室に転がり込めれば、少なくともこちらにも遮蔽物がある形で睨み合う状況に持ち込める)


 そこまで、あと少し。


 ところが。


 カンッ、と背後で鋭い銃声が聞こえた。

 

 同時に、睨み続けている階段の端で影が揺れたのを確認する。


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