AM07:32(3)
「ほい、そこまで」
ドン、と、ギャスパーが、倒れた。
「本当なら、人質に手荒な真似はしたくねぇんだけど。こいつ、止まらなそうだしなぁ」
ギャスパーに当て身を食らわせた男はぼやいて、ガスマスクを外す。
かなりの長身、燃えるような赤毛、海のようなライトブルーの隻眼の、軍人だった。
「……ごめんな、気持ちわかるぜ。でも、あとは、大人に任せろよ」
目を回してうつぶせに倒れ込んだギャスパーを仰向けにしてやりながら漏れた言葉は、真摯で。
それを見ながら、ルイは数瞬、茫然としていた。
なにもかも、さっきから目まぐるしく起こり過ぎている。
「で、兄ちゃんは、大丈夫か?」
やがて、男が振り向いて笑った。
「なんとか……」
反射で頷くと、おう、と、頷く。眼帯が凄みを足してしまっている顔は、けれど穏やかな表情で。頼もしく落ち着いたバリトンに、ふと、体の力が抜けそうになった。
「お疲れな。もう、大丈夫だぜ」
「どうも……」
男は立ち上がって、いよいよ落ち着き始めた室内を見回す。
ルイも、今度こそ、本当にやっと、息を吐いた。怒涛の数分が、どうやらようやく、収束に向かうらしい。
「お前さんの同期、良い奴だな」
男は、ギャスパーを見て言った。
「こういう同期は、一生もんの親友になるぜ」
「……そうっすね」
ルイは、とうとう座り込みながら頷いた。思った以上に、疲弊していたらしい。ようやく終わると確信すると、もう、足が役目を放棄する。
「……ほんと、さっき、はじめて、そいつ、イイヤツかもって、思いました」
ヒヤリと冷えた秋の朝、ずぶ濡れの体を、ふるりと揺らして。
(これ終ったら)
ルイは、西棟の方を向いた。
(ギャスパーの馬鹿誘って、また映画でも行くか、グース)
寝不足気味の目を閉じる。
そして、祈る様に、呟いた。
「だから、生きてろよ、グースハウザー」




