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神には届かない  作者: 空野
神には届かない
51/93

AM07:32(3)


「ほい、そこまで」


 ドン、と、ギャスパーが、倒れた。


「本当なら、人質に手荒な真似はしたくねぇんだけど。こいつ、止まらなそうだしなぁ」


 ギャスパーに当て身を食らわせた男はぼやいて、ガスマスクを外す。

 かなりの長身、燃えるような赤毛、海のようなライトブルーの隻眼の、軍人だった。


「……ごめんな、気持ちわかるぜ。でも、あとは、大人に任せろよ」


 目を回してうつぶせに倒れ込んだギャスパーを仰向けにしてやりながら漏れた言葉は、真摯で。

 それを見ながら、ルイは数瞬、茫然としていた。

 なにもかも、さっきから目まぐるしく起こり過ぎている。


「で、兄ちゃんは、大丈夫か?」


 やがて、男が振り向いて笑った。


「なんとか……」


 反射で頷くと、おう、と、頷く。眼帯が凄みを足してしまっている顔は、けれど穏やかな表情で。頼もしく落ち着いたバリトンに、ふと、体の力が抜けそうになった。


「お疲れな。もう、大丈夫だぜ」


「どうも……」


 男は立ち上がって、いよいよ落ち着き始めた室内を見回す。

 ルイも、今度こそ、本当にやっと、息を吐いた。怒涛の数分が、どうやらようやく、収束に向かうらしい。


「お前さんの同期、良い奴だな」


 男は、ギャスパーを見て言った。


「こういう同期は、一生もんの親友になるぜ」


「……そうっすね」


 ルイは、とうとう座り込みながら頷いた。思った以上に、疲弊していたらしい。ようやく終わると確信すると、もう、足が役目を放棄する。


「……ほんと、さっき、はじめて、そいつ、イイヤツかもって、思いました」


 ヒヤリと冷えた秋の朝、ずぶ濡れの体を、ふるりと揺らして。


(これ終ったら)


 ルイは、西棟の方を向いた。


(ギャスパーの馬鹿誘って、また映画でも行くか、グース)


 寝不足気味の目を閉じる。

 そして、祈る様に、呟いた。


「だから、生きてろよ、グースハウザー」


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