AM07:03
朝日の中、鳥が鳴いている。
曇った窓から差し込む光は、それでも強烈に、夜が明けたことを主張していた。
「おそらく無理にそちらに行っても、かえって危険に巻き込むことになるだろう」
知らぬ間に、サンダースの声は少し固かった。
朝、人質救助の突入作戦、少し前のこと。
「個人的には君を信頼しているが、我々の動きの全ては明かせない。だが、絶対に、君を見捨てることはない、だから」
全て終わるまで、待機せよ。
それが、グースに対する上官としての指令だった。
突入隊が最優先で向かうのは、200人を超える人質のいる食堂であり、グースのいる西棟へは、そちらが終わってから向かう事になる。
人質が集結しており、なおかつ犯人達の殆どが待機している場所であるから、必然として、そこが最大目標地点になるのは当たり前。更に、下手に西棟に少数の救助を向かわせれば、静かに隠れているグースの方にいらぬ危険を持っていく可能性もあると見た上での判断だった。
ただ、すぐにでも来て欲しいはずの救助隊に後回しにされるというのは、グース本人にとっては、決して精神的にありがたいことではないだろう。
少し固い声で説明するサンダースの言葉を、受話器の向こうの少年は、黙って聞いていた。
けれど、やがて。
『了解しました、少将殿』
きっぱりと、返されたのは、思う以上に、確固とした声だった。
『御武運、御祈り致します』
どこか晴れ晴れとすら聞こえる声に、サンダースは目を瞬いた。
瞬いて、それから、細める。
「君は、良い将校になるぞ」
この少年なら大丈夫だと、思った。
きっと、この少年ならば、大丈夫だと。
この壊れかけた国で、悪夢を抱えた少年は、けれど、それでも生きて来た人間なのだから。
この国は病んでいる。少年は、悪夢を見ている。
それでも、そうだ、そんな状態であろうとも。
この国は、まだ立ち上がっている。少年は、足掻き続けている。
「きっと、大丈夫だ」
本当は、もしかしたら、この国は。
自分が思っていたよりも、ずっと、強いのかもしれない。
「だから、あと少し、踏ん張れ」
信じてみよう。
祖国はきっと大丈夫だと。
この少年ならば、きっと、大丈夫だと。
『任せて下さい』
頼もしい声に、笑う。
そして、静かに、窓の外を見た。
既に、作戦の準備は整っている。あとは、自分が、号令するだけ。
「では、少し、さよならだ」
『お気を付けて、すぐに、また』
丁寧に、受話器を放した。
カチャンと、軽い音を立てて、あっけなく。
けれど、確かな約束を持って。
長い長い、通話は、終わった。
電話の置かれた机から顔を上げる。
すると、ドアがノックされて。
「おう、そろそろ、行くぞ!」
「総員、整いました」
聞きなれた声がして、ああ、と、サンダースは頷いた。
「よし、行こうか」
大丈夫、彼も、自分も。
通話をきっても、ひとりではない。




