表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神には届かない  作者: 空野
神には届かない
43/93

once upon a time.(3)


 ピチャン、と、水滴がどこからか滴り落ちる空間で。


『どういうことだ!』


 叫んだ自分の声は、あの日、反響して撓んで揺れて、粉々に砕けていた。


『説明しろ!この土壇場で、作成を変更しろだって……?』


 あの日、議事堂へと、最後の攻撃をかけるはずだった、あの日。

 薄暗い地下水道の中、ピチャン、ピチャン、と、どこからか水音が聞こえていた。あるいは、流れる水の微かな呻きが、耳に刺さる中。


『ごめんよ、サンダース。でも、優秀な君なら、分かってるだろう?』


 彼は、困ったように、いつも通りに、眉を八の字に下げていた。


『今のままの作戦じゃ、僕達は、全滅するだけだよ』


『ああ、そうだ!だが、その為の作戦だろう!これは、これからするのは、勝つための戦いじゃない!死ぬ為の戦いだったはずだ!』


 苔で滑る足元を、けれど気にする余裕もなく、乱暴に、蹴るように、一歩、サンダースは詰め寄って叫んだ。


『一矢でも報いれば良いと、そう、皆、決めたんじゃなかったのか!』


『うん、そうだよ』


 彼は、慌てることもなく、やはりいつもの表情を浮かべて頷いていた。


『そうだよ。皆が、そう言ったから、君は頷いてくれた。作戦だって、皆が望むように、せめて最後に華々しくって、有能な君の持てる限りの考えを尽くしてくれた』


 そこで彼は、彼や、周りにいる仲間達は、微笑んだ。


『でもね、それは間違いだったんだと、僕等、思ったんだ』


 トン、と、彼が左手で叩いた彼自身の右肩。その軍服は、黒とも茶ともつかない色に変色していた。破れた隙間から見える肉の部分は、既に腐って、蛆が沸いている。


『僕のこの腕で、何ができると思う?いや、僕は、たぶん、もうどの道、助からないよ』


『ああ、そうだ!もう助からんだろうよ、お前も、ここにいる、殆ど全員、もう死ぬのは時間の問題だ!』


 思わず更に声を荒げた。

 見回した先、負傷していない仲間はいない。しかも不衛生で、かつ満足に治療どころか応急の処置もできない環境。もう部隊の殆どがまともに戦闘できるような状態ではない。

 それどころか、破傷風やその他の感染症に蝕まれていて、近い未来に死が確定していると思しき者が大半だった。

 だからこそ、最後に、派手に、散ってやろうというのではないか。

 睨むように見詰めた先で、彼は、また頷いた。


『ねぇ、サンダース、その通りだ、殆ど、助からない人ばっかりだよ』


 穏やかに微笑んで、彼は無事な左手を、サンダースの肩に置いて。


『……そう、殆ど、だ。全員、じゃない』


 黒い瞳は、迷うことなく、こちらを見ていた。


『サンダース、君は優秀だ。そんな君や、何人かは、まだ、致命的な状態じゃない』


 本当は、わかっているんだろう、と、優しく、厳しく。


『今の作戦なら、確かに派手にやれる。少しは敵の度肝を抜いてやれるかもしれない。でも、この作戦じゃ、議事堂は、落とせない。この国の状況は、なにひとつとして、変わらない』


 反論を許さない語りだった。

 穏やかに、けれど、決して口を挟ませない、強い視線で、話し続けた。


『君は優し過ぎる、サンダース。君は、最後には全員、死ぬと分かっているのに、誰ひとりとして、〝殺そう〟とは、していないんだよ。……君の作戦には、〝捨て駒〟がいない』


 反論せねば、と、思う。

 何か、言わねば、言わねば、きっと、きっと、きっと、決定的な言葉がくると、予感していたのに。

 黒い瞳は、まっすぐで、強すぎた。


『サンダース、僕は凡人だけどね、凡人なりに、凡人としては、優秀なんだよ、知ってた?だから、わかるよ』


 茶化すように微笑んで、暴れ出しそうなサンダースの肩を、左手で抑えつけて。



『僕達を殺せば、君は生き残れる』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ