表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神には届かない  作者: 空野
神には届かない
28/93

PM16:36(2)


 自分達は死に損ないだ、と、男は鏡に映る自分の火傷痕を見て嗤った。

 鏡の前の小さなランプだけを点けた室内は既に薄暗い。外にはまだ辛うじて夕日があるのかもしれないが、それもカーテンに阻まれている。

 隣室である食堂からは物音1つしない。200人以上の人間が集まっているのに、何も、聞こえない。

 どいつもこいつも、息を殺して、助けが来るのを待っている。


 〝英雄〟が来るのを、待っている。


 愚かだと思う。

 この国の住民は気付いていないのか。〝英雄〟に縋り付いて思考を止めた自分達の愚かさに。

 思考を停止しているくせに、なにが民主主義だ。衆愚政治などと可愛いものですらない。そこにあるのは、衆愚ですらない、民意などではないのだ。


 内戦の前と変わらない、誰か1人に全て預けた独裁の続きが、そこにある。


 それなのに、と、男は表情を歪める。

 それなのに、なぜ、我々は負けねばならなかったのか。


 なぜ、同志達は死なねばならなかったのだ。


 火傷ででこぼこと引き攣った顔の半分に爪を立てる。

 今も、そこは焼けている。熱を持っている。癒されなどしない。


 男は、許されない。


 あの日、生き残った意味があるのなら、その理由はただ1つだ。

 だから、己は、タインズ軍の〝司令官〟でなければならない。


「負けるわけには、いかない」


 あの日の真実を、男は知っている。

 〝英雄〟と祭り上げられる青年が下した、人間でしかない決断を、知っている。

 青年が必死に〝英雄〟を演じているのを知っている。


 相手も、自分も結局どこまでいっても作り物だ。

 けれど、だからこそ、負けられないのだ。

 死に損なった者同士、もう二度と、拾った命の意味から逃れられない。

 拾った命の役割を演じ切る為に、どちらも負けることは許されない。


 負ける事は許されないから、負けられない死に損ない同士、殺し合うのだ。


 真っ暗な部屋の中、釣鐘草の形をしたランプの白い笠部分だけが、ぼんやりと光っている。

 その光に照らされて映る鏡の中の自分は、さながら亡霊のようだ。


 男は何もかもに醒めたような笑みを浮かべて首を振った。


「お前は俺と同じだな、ニセモノの〝英雄〟」


 この亡霊を見た時、相手はどんな顔をするか。

 考えて、また少し、男は醒めた笑みを浮かべた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ