PM16:22(3)
憂鬱を振り払うように目を開けて、夕日の差し込む部屋を見渡した。
窓の外は静かだ。消えかけの太陽が燃え尽きる音すらしない。
あの頃のような、爆音や銃声は、響かない。
全部、終わったはずだった。
全部、終わった、はずだったのだ。
それなのに、グースはまだ隠れている。
今も、あの頃のように。あたたかくて、絶対に何からも守ってくれない、柔らかいだけの毛布の要塞に。
今も、1人きりで隠れている。
「……〝救国の英雄〟」
朱色の残光を映し込んだ、光沢のある黒い受話器をそっと撫でる。
「全部、終わったんだ」
悪夢を払う人がいた。悪夢を払う人が、いたのだ。
あの人がいれば、もう大丈夫なのだ。もうこの国は、あんな時代に戻ったりしない。
その祈りの言葉は、不安を少し遠ざける。
ただ、言い知れないもの寂しさが込み上げていた。それは状況によるものではなくて、どんな日常の瞬間にも不意に感じるような、ただのありふれた発作的な寂しさだ。
ひぐらしの鳴く夏の夕暮れ時、雨の日曜日の早朝、真冬の日に1人きりでストーブの前にいる時。
そんな瞬間にふと感じる、害も根拠もない寂しさの発作。
けれどグースのこの寂しさには出口がなくて、その原因もない寂しさのまま永劫に時間は止まっているのだ。
「それでも……あれは、〝英雄〟が終わらせたから」
たぶん、唯一の出口なのだと思い込んだ、信じ込んだ、縋るべき存在の名前。悪夢を覚ます、祈りの言葉。
その言葉があればもう悪い夢は見ないのだと、思い込んだまま目を閉じた。
「はやく、おわればいいのに」
無意識に出た言葉の先は、会見の事かもしれなかったし、すべて、全て、人生そのもののことかもしれなかった。




