PM16:01(2)
万全に整えられた会見場。
満杯に詰め寄せた報道陣の炊くフラッシュやらライトやらで、そろそろ目が痛い、暑い。着崩すこともできずにきっちりと着込んだ上着や手袋を、内心で早く放り出してしまいたいと、サンダースは思う。
横ではオスカー議長が、老人とは思えない朗々とした声で今回の事件について語っている。どうか、報道は自粛して欲しい、と。こと今回の事件に関しては、報道の自由という大事な権利の他に、200人を超える人質の命を視野に入れて行動してくれ、と。
その言葉を聞きながら、サンダースは至って真面目な表情を崩さず、さりげなく会場を観察する。
(……大丈夫そうだな)
見渡した先にいる報道関係者の誰もが、不安そうな顔をしているのを見て、逆に少し安心した。
報道関係者である以前に、この国の住民である彼等なら、心配はないだろう。人が屠殺場の家畜のように簡単に殺される異常な時代を、泣きながら、這いずり回りながら生き延びた住民なのだ、彼等も。ならば、そうやって人を屠殺してきた独裁軍の残党が起こしたこの事件で、スクープの為なら他人の命なんてどうでもいいと言うパパラッチには、まだ、なれないはずだ。そんなものになれるほど、ある意味で人間として完成された奴は、あるいは、人間であろうとすることをやめた奴は、いない。
加えて、そんなトラウマを抱えて軋みながら立ち上がる彼等だから、その依存対象が……〝指導者〟と〝英雄〟が、やめろと言う事をするはずがない。
少なくとも国内報道陣による対策情報流出は、大方予防できただろう。
サンダースが結論するころ、いつの間にか議長は話を終え、司会が会の終了を宣言していた。
(……早く帰らないとな)
タイミングを見て、椅子から立ち上がる。
内戦で片足を失い、義足を着けて杖を突いている老齢のオスカー議長に手を差し出した。
「おお、すまないな、サンダース」
穏やかに、杖を握り直して、老人は手を借りながら腰を上げる。
灰色の地味なスーツに身を包んだ、老紳士。
同じ人物が、かつて膝から下の無い足先に、汚れて血の染み出す包帯を巻きつけて、それでも轟轟と唸るような檄を飛ばしていた光景が、なぜか、記憶から蘇る。ボロボロの医療テントの前、吹きすさぶ風の中、ラジオのマイクに向かって、死にかけたような老人は、けれど、あの時も朗々と自由を、未来を呼び込むために人々を鼓舞していた。
思えば、本当に死にかけていたのは、この老人ではなく、この国だ。
今も、昔も。
だからこそ、この国は皆、この〝指導者〟に付いていく。
病んだ国だと、サンダースは思って、小さく首を左右に振った。
(それでも、ここが〝祖国〟なんだ)
瓦解させるわけにはいかないのだと、幾億回も繰り返した自覚をした瞬間。
「待て!なんだ、お前は!」




