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神には届かない  作者: 空野
神には届かない
22/93

PM16:01(2)


 万全に整えられた会見場。

 満杯に詰め寄せた報道陣の炊くフラッシュやらライトやらで、そろそろ目が痛い、暑い。着崩すこともできずにきっちりと着込んだ上着や手袋を、内心で早く放り出してしまいたいと、サンダースは思う。

 横ではオスカー議長が、老人とは思えない朗々とした声で今回の事件について語っている。どうか、報道は自粛して欲しい、と。こと今回の事件に関しては、報道の自由という大事な権利の他に、200人を超える人質の命を視野に入れて行動してくれ、と。

 その言葉を聞きながら、サンダースは至って真面目な表情を崩さず、さりげなく会場を観察する。


(……大丈夫そうだな)


 見渡した先にいる報道関係者の誰もが、不安そうな顔をしているのを見て、逆に少し安心した。

報道関係者である以前に、この国の住民である彼等なら、心配はないだろう。人が屠殺場の家畜のように簡単に殺される異常な時代を、泣きながら、這いずり回りながら生き延びた住民なのだ、彼等も。ならば、そうやって人を屠殺してきた独裁軍の残党が起こしたこの事件で、スクープの為なら他人の命なんてどうでもいいと言うパパラッチには、まだ、なれないはずだ。そんなものになれるほど、ある意味で人間として完成された奴は、あるいは、人間であろうとすることをやめた奴は、いない。

 加えて、そんなトラウマを抱えて軋みながら立ち上がる彼等だから、その依存対象が……〝指導者〟と〝英雄〟が、やめろと言う事をするはずがない。

 少なくとも国内報道陣による対策情報流出は、大方予防できただろう。


 サンダースが結論するころ、いつの間にか議長は話を終え、司会が会の終了を宣言していた。


(……早く帰らないとな)


 タイミングを見て、椅子から立ち上がる。

 内戦で片足を失い、義足を着けて杖を突いている老齢のオスカー議長に手を差し出した。


「おお、すまないな、サンダース」


 穏やかに、杖を握り直して、老人は手を借りながら腰を上げる。


 灰色の地味なスーツに身を包んだ、老紳士。


 同じ人物が、かつて膝から下の無い足先に、汚れて血の染み出す包帯を巻きつけて、それでも轟轟と唸るような檄を飛ばしていた光景が、なぜか、記憶から蘇る。ボロボロの医療テントの前、吹きすさぶ風の中、ラジオのマイクに向かって、死にかけたような老人は、けれど、あの時も朗々と自由を、未来を呼び込むために人々を鼓舞していた。


 思えば、本当に死にかけていたのは、この老人ではなく、この国だ。

 今も、昔も。


 だからこそ、この国は皆、この〝指導者〟に付いていく。


 病んだ国だと、サンダースは思って、小さく首を左右に振った。


(それでも、ここが〝祖国〟なんだ)


 瓦解させるわけにはいかないのだと、幾億回も繰り返した自覚をした瞬間。


「待て!なんだ、お前は!」


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