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人造戦記 -穢れた奇蹟のスプレンデンスー  作者: 乙川せつ
-序章-

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01 勇気の代償

 ――――――ここは何処なんだろう。


 その疑問に答える者はいない。彼は今、手術台のような物の上で横になっていた。

 少年の前にあるのは、自分を照らすライト。

 そして、白衣の研究者たち。


 ――――――また、痛いのかな。


 少年の身体が僅かに硬直する。

 すると、彼に繋がれた計器が震えた。それを見て、白衣の一人―――黒髪の女性が少年に駆け寄った。


「――――――■□◆◇¥◇<▽△。◇*@◆?」


 ――――――わからないよ。わかるように言ってよ。


 声が出ない口の行う呼吸は天井知らずに加速していく。

 麻酔によって全身の動きが阻害されている今、少年に出来ることは何もない。ただ、見ていることだけ。


 自分の体が変わっていくことを。


 恐らく、女性は励ましているのだと思う。

 しかし少年にそれが伝わることはない。少年はその言語を知らないのだから。


 ――――――もう、やめてよ。


「…かぇ………ぃ……ぁ……ぃ」


 帰りたい、そんな希望が叶うことはない。

 暗い手術室の中で一際光を見せるライトに照らされて、少年は声にならない絶叫を上げ続けた。


 彼に打たれた麻酔は身体を動けなくするための物で、痛みを消すものではなかった。


 これが始まったのは、二週間前のことだった。


 ◇◇◇



「ただいまー」


 少年―――雄馬新は地球の、日本で暮らす12歳。

 つまり、小学六年生である。社会の辛さや、受験も経験したことのない子供。いつも笑顔を絶やさず、学校でもムードメーカー的立ち位置にいる。

運動は一度見ただけで何でも出来てしまうような、いわゆる天才児。そのため彼に惚れた女子は多く、彼のファンクラブまであるという。


 彼自身は恋愛を経験したことがないため、あまり気にしていないようだが。


「おかえりなさい、おやつ置いてあるわよ」


「うん、ありがと!」


「あ、手は洗いなさいよ」


「はーい」


 母は誰にでも優しく接する太陽な人だ。ご近所付き合いもよく、その美貌があるため未だにナンパが絶えないらしい。それでも、怒ったときは誰よりも怖い迫力を見せる。

 一度シンが彼女を怒らせてしまったとき、地獄を見たそうだ。


「母さん、今日父さんは?」


「帰ってくると思うわよ。今日は三人で夕飯ね」


「やった!」


 父は会社のお偉いさんで、普段はあまり家に帰れていない。顔も怖く、その内面も厳しいが愛のある人で、厳つい顔でありながらもその内面に優しさが光っている。

 妻に手を出す人を許さない男であり、妻がナンパされている場面を目撃した際には雷が落ちたように激怒したという。

 相手がどうなったかは不明だ。


「ふぁあ……何だか今日は疲れちゃったな」


「夕食まで昼寝してたら?」


「うん、そうする」


 シンは二階にある自室に向かい、ベッドにダイブする。

 

「よっと……ふーっ」


 ふかふかの毛布に包まれて、シンの意識はぽかぽかの身体とともに沈んでいった。

 揺らり揺らめく意識の流れは、瞼が閉じきると同時に消え去っていく。



 ◇◇◇



 そこでは、白衣の研究者たちが魔法陣の前に立っていた。

 その陣は異世界の物体・生物を召喚する魔法。


「人工勇者開発計画被験体第四号、召喚儀式を開始する。術式起動」


「術式、起動します。詠唱開始」


「「「「「遥か遠き星々の祝福のもと、我らが悲願を叶え給え。揺らめく白光、奔る雷鳴、羽ばたく鷹。孤独を呼べ、孤独を押し付ける永劫なり。願いをここに、祝福をここに」」」」」


「詠唱完了。最上位極大転移魔法、『オメガ・テルラ』発動」


 五人の魔導士の魔力が魔法陣へと注がれていく。

 世界と世界を別ける境界線、その障壁を破壊し目的のものを引き寄せる魔法。

 逆に異世界に行くことも可能である。


「ゲート、開きます」


 パープル色に発光する空間の歪み、それが世界の穴だ。

 そして、そこから落ちて来る人影。


「対象、召喚成功」


「人工勇者四号候補者、シン・ユーマ」


 ◇◇◇


「…………」


 目が覚めると、そこは知らない天井だった。

 ここはどこだろう、それを確かめるために身体を動かす―――失敗した。


 今の状況を確かめるために頭を動かそうとした―――失敗した。


 指先を動かそうとした―――失敗した。


(身体が、動かない……?)


 何が何だか分からない状況が続いている中、視界に見覚えのない女性が入ってきた。

 黒い髪、同色の瞳。長髪で、優しそうな表情を見せている。


(だれ……?)


 疑問が次々に湧いてくる。でも、それを聞くことは出来ない。口すらも、動かないのだから。


「◆$%#!##◇#$▲□▽△?」


(なに、何を言っているの……? ここ、どこ……?)


 知らない言語。父さんの影響で色々な言語を勉強していたけど、聞き覚えはなかった。

 というより、地球の言語とは絶対的に違うように聞こえる。


 まるで、別の世界みたいに。


「ぁ……」


 僅かに漏れた声で、自分が生きているのだと実感できる。

 ただ、それ以上は何も出来なかった。

 しばらくすると、部屋に何人もの白衣を着た研究者―――医者かもしれない―――が入ってきた。顔も表情もよく見えない。

 何かを話し合っているようだ。


「#’”$(”#$”(””#$(’?{‘{>‘{」


 その中で一番偉いように見える男が、こちらに向けて言葉を発した。

 すると、顔の目の前にあったライトが点く。本当に手術でもするのだろうか。そう思っていると、横から様々な道具が出てきた。

 でも、それは手術の道具なんかじゃなかった。


「ぃ……」


 禍々しい、拷問器具にも見えるナニカ。

 その後ろには、様々な薬物。

 どう見ても、医療用のものではない。違法薬物。毒のような色だ。


 男は一本の注射を手に取り、迷わずそれを刺してきた。

 腕がいいのか、痛みはそれほどでもない。


 でも。


「~~~~~~~ぁっ!!!!?」


 苦しい。息が出来ない。

 何だ、何を打たれた。


 別の男が、器具を手に取る。


(やめて……やめて……やめて―――やめ)


 ぐしゃっ。


「――――――!!!!!!!!!!!!!!!」


(うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――――っっっ!!!!!)


 声を挙げることすら許されないまま、身体が弄られていくのを見ているしかなかった。

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