プロローグ
勇者とは何か、どういう人間なのか。
それを説明することは簡単だ。答えは――――『女神』に選ばれた人間。
女神とはこの世界を創世し、全ての生物を生み出したとされる存在。本当にそんな超常の神がいたのか、それが実証された記録はない。
物語の話以外に女神が現れたことはないのだから。
女神が最後に現れたとされているのは二百年前、勇者王アレスが魔王を倒した直後であるとされている。彼の女神は偉業を果たした勇者アレスを祝福し、その強さを称えたという。
この国、ティノア王国は勇者の国である。
勇者王アレスが王女シルヴィアと結ばれ、その間に生まれた子がこの国を継いだ。そして二百年、今日までその血が途絶えることなく存続している。
勇者の血族といっても、その力を受け継いでいるわけではない。
むしろ修行を積んでいないという観点から兵団の一般兵にも惨敗してしまうだろう。だから王族に出来るのは国民を見守り、導くことだけ。
その血の名誉の名の下に。
勇者王アレスが魔王を倒し、もう二度と魔王が現れることはない――――筈だった。
魔王の死後、人間と共存していた魔族たちだったが、突如として人間に刃を向けた。
曰く、
『魔王の声が聞こえる』
魔族は人間よりも長い寿命を持っているため、その世代の者も少数だがいたのだろう。しかし、魔族の大部分は英雄大戦以降に生まれた者達だった。
魔王の復活を察知した国の上層部は魔王と対になって生まれてくる『勇者』を捜索した。そして、見つかった勇者は――――――二人。
兄妹だった。
二人の名前はエクスとレーナ。歴史上はじめて二人一組の勇者が現れた瞬間だった。
その勇者たちは今も、魔王軍と戦っている。
「いくぞ、レーナ!」
「うん、兄さん!」
二人の右手の甲には、「彼」と同じ―――勇者の紋章が。
彼の血を受け継いでいない筈の二人がそれを持っていることは本来ならありえない。案内人や女神の導きがない現状なら猶更のこと。
勇者とは、女神が祝福した者。
しかし、あの戦い以降女神は地上へ降臨していない。
「オレたちが勇者として、お前を倒す!」
「覚悟しなさい、魔王!」
『――――――来なさい、迷える仔羊たち』
魔王の城、王の間。
人類軍を率いた勇者たちは、そこまで到達していた。
仮面をつけた魔王は、玉座で静かに座っている。
怒りと覚悟を漲らせる勇者たちとは対照的に、魔王は冷静だった。
そればかりか、勇者たちを諭そうとしている様子。
「くっ……惑わされてたまるかっ!」
「私たちの両親を殺したあなた達を許さない! ここで、全てを終わらせるのよ!」
勇者たちは、真実を知らなかった。
その魔王が、『誰』なのかを。
「貴方たちは私を知っている」
「……なんだって?」
「知っている人? ……いいえ、私たちが知る人にあなたのような極悪人はいない!」
「――――――言い方がおかしかったですね。会ったことはありません」
「益々意味が分からないぞ、魔王! オレたちを混乱させて、何が知りたいんだ!」
「誤解しないで下さい。私はただ、事実を伝えたいだけ」
「なら、その仮面を外したらどうだ!」
「いいでしょう」
魔王は簡単に言い分を飲んだ。
そして、素顔が明らかになる。
「「……?」」
やはり、勇者たちはその顔に見覚えが無かった。
「クソ、嘘だったんだな!」
「往生際の悪い……!」
「勇者たち、名前を教えてください」
「……いいだろう。冥途の土産に教えてやる……勇者エクス!」
「勇者レーナ!」
「ありがとう。お礼に、私の名前を教えてあげます。
――――――私の名は――――――――――――――――――――――――」
「………………は?」
「ウソ、でしょう…………?」
その名を、勇者たちは知っていた。
「そ、そんな…………」
「それじゃあ、私たちのしてきたことは…………」
勇者は、目の前が真っ暗になった。
◇◇◇
勇者たちが敗北して二年。いまだに魔族との戦いは続いている。
「勇者が死んだ以上、人間自身の力で勇者を造るしかない」
「人造勇者計画…………」
「異世界の住人を召喚し、勇者に改造する非人道的行為」
「間違いなく、我らは地獄に落ちるだろうな」
「それでも、やらなければならない」
「人類に平和が訪れんことを」
人造勇者計画、始動。




