感情、という名のノイズ 後編
第9話です!他話もぜひ見てください。コメントも募集中です!
一方、彼女には先ほどの女の子の声が聞こえていなかったようで、そのまま話を続ける。
「何をしているのですか。このままでは——」
「いや、いい」
「……何か、別の策が?」
彼女の視線を浴びながらも、俺はうずくまった少女に近づいていく。
「……何度も言いましたよね。あなたのようなただの人間が怨念に触れたら、どうなるか」
「お前は、分かってないんだ」
ほんの一瞬、雨音だけが場を支配した。沈黙を挟んだ後、彼女は口を開く。
「私が……分かっていない?」
「人の心を理解するには、感情が必要だということさ」
「心は不要です。感情は判断精度を下げるノイズにすぎない」
「……それが、私の結論です」
そう言うまでに、ほんのわずかな間があった。
「人の心は、決まった答えが用意されてるもんじゃない」
ゆっくりと、語りかけるように続ける。
「感情がエラーでも、いいだろ。お前の結論に書き加えておけ。そのエラーが、人の心を理解する一番の鍵だって」
そうして俺は、うずくまる女の子を抱える。一瞬意識が飲み込まれそうになるが、足に力を入れ踏ん張る。
「……もう一人じゃない」
「俺も、同じところに立ってたから」
「……ア」
小さく、息を吸う音がした。それと同時に、氾濫した川がすぐそこまで迫ってきている。もう遠くに離れる時間はない。体はフラフラで、立っているのもやっとの中、近くの木に手をかける。水がすぐそこまで迫る中、木の枝になんとか捕まり、氾濫した川が下を流れていく。
「……大丈夫か?」
そう女の子に聞く。女の子の頭が、わずかにだが縦に動く。なんとか助かった。そう胸を撫で下ろした時だった。木の枝がバキバキと音を立てる。氾濫した川は口を大きく飲み込まれる、そう思っていた。だが実際は、水面ギリギリで、止まっている。
「間一髪、と言うやつですね」
上を見ると、彼女が、無言で俺の腕を強く支えていた。そうしてそのまま、木の上へ引っ張り上げる。
「どうして……?」
「少なくとも、私の演算の結果に、あなたを犠牲にするという選択肢はありません」
「あ、りが、と……」
その瞬間、意識が急速に薄れていく。彼女が何かを言っている気がしたが、もう何を言っているかわからない。気を失う直前、視界の端に映ったのは、さっき助けた女の子が、少し、笑っていた気がした。
現在、カクヨムをメインに焼きそばにきという名前で行なっています。ぜひそちらの方も見てください。一章は毎日投稿予定です。




