第10話 白い宝石と、家族
第10話です!他話もぜひ見てください。コメントも募集中です!
雨音が、ふっと軽くなった。冷たかったはずの地面が、足が沈む感触もないのに、柔らかい。死んでしまったか。そう思っていたが、どうも違うらしい。
――だがここは、さっきまで立っていた場所じゃない。辺りを見渡してみると、木の下に誰かいる。俺はその木に向かって歩いていく。地面には水たまりがいくつもできていたのに、不思議と泥が跳ねることがなかった。
木の下にいたのは、背の高い、落ち着いた雰囲気の男の人だった。何かを大事そうに抱いている。抱かれていたのは、間違いなく先ほどの女の子だった。
俺の存在はどうやら、見えていないようで、これはこの女の子の記憶なんだなと理解できた。男は、女の子の頭をゆっくり撫でていた。その手つきは不器用で、それでも確かに優しかった。そんな時、女の子が泣きそうな顔をして口を開く。
「落としちゃった、お父さんにもらった、白い宝石の、ブローチ」
男は一瞬だけ、川の方を見た。雨で濁った水が、普段よりずっと高い位置まで来ている。それでも、男は小さく息を吐いて笑った。
「……そうか。わかった、お父さんが取ってこよう」
そう言って、男は女の子を地面に下ろす。女の子は、裾を掴もうとして、指先が空を切った。
「お父さん……?」
雨が強くなり始めていた。遠くで、川の水音が唸るように響いている。
「すぐ戻る。だから、ここで、待ってるんだ」
その後、男の姿は消えてしまった。女の子は何も言わずただそこでじっと立って待っている。だけど、雨足が強くなるにつれ、女の子はその場に屈んでしまう。そうして、ボソボソと独り言を漏らす。
「お父さん、まだかな……」
その声は、雨に吸われて消える。返事はない。いくら待っても、辺りが真っ暗になっても
——お父さんは来なかった。川の方から、低く、長い音が響いた。男の声ではない。
助けを呼ぶ声でもない。ただ、水と何かがぶつかる音だけだった。女の子は、びくっと肩を震わせた。
「……やだ」
それは、泣き声でも叫びでもなかった。ただ、世界そのものを拒む言葉だった。それでも世界は、止まらない。川の水は押し寄せ、そのまま、何もかもを流していく。その川の中で、きらりと光る石が、きらきらと輝いていた。
現在、カクヨムをメインに焼きそばにきという名前で行なっています。ぜひそちらの方も見てください。一章は毎日投稿予定です。




