第7話 その選択の、対価
第7話です!他話もぜひ見てください。コメントも募集中です!
「……あまり、ここに長居はできません。場所を変えましょう」
そう言って彼女は、公園の出口へと歩き出す。俺はその背中から目を離さないまま、ぴったりと後ろについていった。
「で? その“すべてを救う方法”って、どんなのだ?」
歩きながら、横目で彼女を窺う。
「私の頭の上にある、これが分かりますか?」
「これ? 触ると指がなくなるとか言ってた、天使の輪っかだろ」
彼女の頭上では、相変わらず淡く光る円環が浮かんでいる。
「輪っかではありません」
即座に訂正が入った。
「あなたに分かりやすく言うなら——CDのようなものです」
「……CD?」
言われて、改めて観察する。発光していると思っていた部分は、どうやら光を反射しているだけらしい。
「この“CD”は少し特殊でして」
彼女は淡々と続ける。
「怨念の力を封じ込めた媒体です。私たちはそれを《メモリア》と呼んでいます」
怨念。力。メモリア。聞き慣れない言葉ばかりが、頭の中で浮いては沈む。正直、理解できている気はしなかった。けれど——少なくとも、これが“普通じゃないもの”だということだけは、嫌というほど伝わってくる。
「この力を使用すると、本来の能力とは別に、必ずデメリットが発生します」
「……それが、この雨か」
「ええ」
彼女は説明を続けながら、歩みを止めない。水たまりを踏み越えるたび、靴の中に冷たさが染み込んでくる。理解しきれない言葉の合間に、その感覚だけがやけに現実だった。
「本来であれば、メモリアを取り外せば、この現象は停止します」
その言葉に、胸の奥がわずかに軽くなった。——止められる。そう思った、その直後。
「ですが、このメモリアは不完全でした」
足元の水たまりに、波紋が広がる。嫌な予感が、遅れて追いついてきた。
「……不完全?」
「この力を持っていた怨念の意思がのこっていたんです。その意思が能力の解除を妨害しています」
ほんの少しずつ、理解してきた。今までの彼女の言動が点と点が繋がっていく。
「つまりその意思ってのを浄化するなりして無くせば助けられる、と。——もしかして歌ってたのって」
「怨念を解放してメモリアにする儀式、それこそが歌うことなんです」
そうして、話を聞いていると、前から人が走ってきている。彼女は、人混みを避けるように、わざと俺の影に沿って歩き始める。よく見ると、その中に祖母の姿があった。なぜだか、嫌な予感が、雨より冷たく背中を撫でた。
「おばあちゃん。俺だよ」
そう言うと祖母はこちらに駆け足で向かってくる。
「タツキ。無事だったのかい?よかった」
そうして駆け寄ってきた祖母は俺の肩を掴んだ。かなり心配をかけたようだ。そうして祖母は、辺りを見渡して言った。
「あんたこんなとこで“一人”で何してたの?」
一人。その言葉が、胸の辺りで引っかかった。
「一人?いや、俺は今、二人で——」
そう言うと祖母は驚いた顔をして辺りを見渡してから言った。
「何言ってるんだい?どこからどう見ても一人じゃないか」
——その言葉を聞いた瞬間、あのときの言葉が脳裏に蘇った。
「なぜ、私が“見えている”んですか?」
どうやら彼女は、俺以外には、誰一人として見えていないようだった。彼女は俺の横で、口を閉ざしたまま、ただじっとこちらを見ていた。早くいくぞ、とでも言いたげだ。
「おばあちゃんごめん。おれ行かなきゃだから——」
「どこにいく気だい」
祖母の声があたりに響き、周りから視線が集まる。そんな中気にせんとばかりに祖母は言葉を続ける。
「川が氾濫してきてる。早く避難所に行くよ」
そう言って祖母は俺の手を掴もうとする。俺は彼女に視線を送る。だが少女はただ首を振って、街とは反対方向を指差す。——その手を、掴むわけにはいかなかった。
「……おばあちゃん。一緒には行けないよ」
「タツキ?」
祖母の悲痛な声が耳に突き刺さる。それでも俺は行くしかなかった。
「約束したんだ。ハッピーエンドを掴むって。だから——ごめん」
俺はそう言って、少女の腕を掴み走り去った。その時、祖母は何を言っていたんだろう。雨の音で、祖母の声はほとんどかき消されていた。ただ、一つだけ。はっきりと聞こえた言葉があった。
「……あんたまで、いなくならないで」
後ろを振り返ることはできなかった。
現在、カクヨムをメインに焼きそばにきという名前で行なっています。ぜひそちらの方も見てください。一章は毎日投稿予定です。




