異常気象の、非合理な選択
第二話です!一話もぜひ見てください。コメントも募集中です!
あと二時間で、滅びる。その言葉が、頭の中で何度も反芻されていた。祖母も住んでいる、この街が。当たり前みたいに続いてきた日常が、残り二時間で終わるかもしれない。思考が絡まり合って、何一つ掴めない。冷静でいられるほど、俺はまだ大人じゃなかった。
「……やはり、思い違いでした」
彼女の声で、意識が強引に現実へ引き戻される。雨は相変わらず降り続いていて、むしろさっきよりも激しさを増している。
「あなたは、今の情報を処理しきれていない」
「その状態で、私が求めている課題の解決策を提示できると、本気で考えていますか?」
責めるでもなく、慰めるでもない。ただ事実を並べているだけの声。
「まもなくこの街は、不可逆的な段階へ移行します。——原因は、私です」
何も言い返せなかった。思考の海に、また足を取られる。そんな俺を見て、彼女はいつもと変わらない目をしていた。けれど、評価を下げた、というより——「期待値を修正した」ような目をしているように見えた。彼女は空を見上げる。
「……もう、限界ですね」
そう呟いてから、彼女はポケットに手を入れた。取り出したのは、小さな端末のような装置だった。まるで演算結果を読み上げるみたいに、淡々と。
「私の機能を停止させれば、この現象は収束します」
そう呟いた次の瞬間、体が勝手に動いていた。俺はその端末を彼女の手から奪い取る。
「ふざけるな」
声が荒くなるのも構わず、問い詰める。
「なんで、そんな結論になるんだよ」
彼女は一瞬だけ目を細めた。そこには確かに警戒の色があったが、感情の熱はない。
「先ほど、説明しましたよね」
冷え切った声で、彼女は言う。
「この雨、この異常現象。そのすべての発生源は、私です」
「であれば、私が稼働を続ける限り、事態は悪化します」
これは当たり前の結論だとでもいうように。
「だとしても——」
喉の奥が、熱くなる。
「お前がやろうとしてるのは、死ぬのと変わらないだろ」
視界が滲む。それでも、言葉を止めなかった。
「死のうとなんて、するなよ」
「……確認します」
彼女は一拍置いてから言った。
「あなたは、非合理な選択を宣言していますか?」
まるでエラーを検出したみたいな声だった。
「……ああそうだよ。それが人ってもんだろ」
「……その感情は、やはり理解できません」
彼女はそう答えた。雨音だけが、二人の間を埋めていた。
「……時間の無駄でした。——いい加減返してください」
そういって彼女が腕を振り上げたそのとき——再び俺の手に力が入った。今度は、なんとなくじゃない。自分の意思で彼女の腕をギュッと握った。俺は、あの日、父を失った。こうして雨に打たれて体が冷え切っていても、あの日の熱は、今も胸の奥で消えずに燻っている。逃げることだけは、もう二度としないと誓った熱だ。俺は彼女が何かを言い返す前に、重くなっていた口を開いた。
「受け止められないよ。この街が滅びるかもなんて」
「でも——もう迷わない」
「お前が今も動いてるってことは、消える以外の答えがあるってことだろ」
決意を込めて彼女のサファイアのような瞳に訴えた。
「……探す」
短くそう言って、もう一度だけ強く腕に力を込めた。
「この街も、お前も。両方救う方法をだ」
なんの犠牲も出さない。もう二度と。それこそがあの日父が言っていた——
「それが、俺が選ぶハッピーエンドだ」
「やはり、あなたの言っていることは理解しかねます。ですが——」
雨が降り続ける中、彼女は言葉を継いだ。
「あなたの言う“すべてを救う方法”は、存在します」
その一言に、思わず身を乗り出す。
「ただし、成功率は極めて低く、推奨はできません。加えて、私がそれを実行する明確なメリットもない」
淡々と、事実だけを並べる声。
「ですから、条件を提示します」
一拍置いて、彼女は続けた。
「この豪雨を、あなたが二時間以内に解決できなかった場合——私は即座に自身を消去します」
「それが、あなたに協力を求めるための条件です」
静かな問いかけだった。
「……どうしますか?」
その問いを聞くより前から、答えは決まっていた。
「もちろん、やる」
現在、カクヨムをメインに焼きそばにきという名前で行なっています。ぜひそちらの方も見てください。一章は毎日投稿予定です。




