第14話 新しい日常と、異変
第二話です!一章もぜひ見てください。コメントも募集中です!
豪雨のあと、被害は思ったほど大きくはなかった。俺たちは程なくして実家に戻り、その日から――アオハとの同居生活が始まった。
まず、アオハは基本何でもできる。祖母が目を丸くするほど、台所も部屋も一瞬で片付いていった。そしてその日のうちに、祖母はアオハを完全に信頼した。夕方には「もうあの子がいないと困るねえ」と言っていたくらいだ。だがアオハは所々変なところがあった。
「部屋はここ使って。布団はそこのを」
「布団はしまっていただいて構いません」
「え?」
「……ならどうやって寝るの?」
「立ちながら寝ればいいではないですか」
どこでそんな睡眠スタイルを学習したんだ、このアンドロイド。しかも実際に立ったまま寝ているのだから、思わず二度見して、しばらく言葉が出なかった。
他にも、アオハと夕食の買い出しに行っていた時の話だった。
「アオハさん?さっきのは冗談だからさ」
「何か問題がありましたか?」
「……降ろしてくれない?」
俺は今、アオハに担がれている。
「確かにさ、足が動かないとは言ったよ?でもあれは疲れたから休もうって意味でね?」
「私は基本的には疲れませんし、タツキの休憩にもなるため合理的です」
「ほら重いでしょ?それで歩く速度が落ちたら非合理的じゃない?」
「いえ、計算上あとタツキを十人は担いでも私の歩行速度は変わりません」
「恥ずかしいんだよ!降ろしてくれえ!」
道ですれ違う人の、あの微妙に言葉を失った顔は、たぶん一生忘れない。
そんなこんなで、あっという間に実家から帰る日がやってきた。その日も相変わらず暑苦しくて、蝉もうんざりなほど鳴いていた。
「この度はおばあさま、私を長い間泊めていただきありがとうございました」
「そんないいのよお礼なんて。家事もいっぱい手伝ってもらったし、またいつでも来てね?」
「じゃあおばあちゃん。俺ら行くよ。また来年も来るよ」
そこで祖母に、腕を引っ張られ耳打ちされる。
「タツキ。おばあちゃん何があったかなんてわからないけどね。大事にするんだよ」
「もちろん。アオハのことは大切にするよ」
「それもだけどね?」
「一番は、自分のことも大切にしてよね?」
その言葉に、一瞬蝉の声が途切れた気がした。俺は、ただ笑顔で答えた。
「……わかってるよ」
「タツキ、何をしているのですか」
見ると、アオハはすでに改札を潜ろうとしている。
「今行くよ。じゃあ、おばあちゃん。またね」
そう言って祖母に手を振ってからアオハの方へ行く。祖母は何も言わず、ただ俺たちが見えなくなるまで、手を振っていた。
——そんなことをぼんやりと思い返していた。
「……タツキ?」
アオハの声で、俺ははっと現実に引き戻された。
気づけば、ここは今の家。つい先ほど旧型と言われた俺の家だ。
「……いや、明後日からもう学校かと思ってな」
アオハは一拍も置かずに言った。
「そうですか。ですが、そんなことはいいです」
ばっさり切り捨てられて、思わず苦笑する。
——本当に、相変わらずだ。
「そんなことって……で?どうした」
「怨念の反応を確認しました。おそらくこの近くです」
「本当か?」
「なので休んでいる暇はありません。行きますよ?それとも担ぎますか」
「もう担がなくていいから!……はあ。よし、すぐに行くぞ」
そうして、家に帰ってきて早々家を飛び出すことになった。空には月が煌々と輝いている。
「で、その怨念はどこにいるんだ?」
「こちらの方向です」
アオハを先頭に、俺たちは夜の街をかけていく。この辺りは家も多く、夜でも多少先は見えるが、それでも暗いものは暗い。アオハを見失わないように、必死についていく。そして十五分ほど走ったあと、アオハは止まる。
「着きました」
アオハはその建物を指差す。
「怨念の反応があったのは、ここです」
息も絶え絶えになりながら、アオハが指をさした場所を見て、目を見開く。
「ここって——ウチの高校じゃねえか」
「タツキ、何をしているのですか。早く行きますよ」
見るとアオハは学校の門をよじ登っている。
「待て待て、それ完全に不法侵入だろ」
次の瞬間——門に伸ばしたアオハの指先で、バチン、と乾いた音が響いた。見えない何かに弾き返されたのだ。
「アオハ!?今の、何だ?」
アオハは弾かれた指をしばし見つめている。
俺も、先ほど弾かれていたあたりを触ってみる。すると、俺の手も弾かれる。それを見ていたアオハがいう。
「これは……結界ですね」
「結界?」
「特定のもの以外を弾く……バリアのようなものです」
そう言われて、俺はさっきの衝撃を思い出す。
「じゃあ怨念のもとには俺たち行けないってこと?」
アオハは、静かに首を横に振った。
「いえ、まだ方法はあります。タツキ、ここはあなたが普段通っている高校なんですね?」
「そうだけど」
「ならば、普段は高校には入ることができているが、現在は入れない。そしてもう一つ違和感があります。」
「違和感?」
「怨念の反応は、日が落ちた瞬間に突然現れました。そこから考えるに恐らく、日が登っている間は結界を張っておらず、日が落ちると同時に結界を張った。とすると」
その言葉に、一つの結論が浮かび上がる。
「昼の間になら入れる」
「そういうことです」
だがそうなると、別の問題が浮上してくる。アオハがどうやって日中に入るかだ。仮にこの学校の生徒でないアオハが学校に侵入した場合、取り押さえられて明日の新聞の一面を飾ることになってしまうだろう。
「どうするんだ?アオハ」
「その点に関しては任せてください。学校側に不審に思われない方法です」
そうアオハは淡々と告げる。俺は詳しく聞こうとするが、その前にアオハは踵を返す。
「まあ、今日できることは特にないので、帰りますよ。タツキ」
結局、何も解決しないまま、俺たちは家路につく。ただ一つ確かなのは――明日から、俺の高校生活が確実におかしくなる、という予感だけは、妙に現実味を帯びていた。
現在、カクヨムをメインに焼きそばにきという名前で行なっています。ぜひそちらの方も見てください。一章は毎日投稿予定です。




