防衛準備
閑話に近い話です。
どうしても設定が小出しになってしまっているが故、解り辛い部分が多々あると思いますが……どうすれば改善できるか試行錯誤中。
この状況が改善出来る時が来るのかどうか……はっきり言って解りません。
それでも少しでも楽しんでいただければ幸いです。
マクジ共和国首都ウッドレス、その一角に存在するとある屋敷にて、リジィー・スロードは目の前に集った忠臣達に感謝を示していた。
「10魔族の諸君、突然の招集に答えてくれてありがとう。いささか不本意ではあったが、私のみの力で対処できる事には限りがあるのでな……諸君らの手を借りたいのだ。」
アレイストの訪問から既に三日が過ぎている。既に今後打ってくるであろうアレイストの手は考えてはいるが、そのどれもが今の俺が単身で捌ける物であるとは思えなかったため、急ぎ魔王城に控えていた者の一部を集めたのだ。
俺の鷹揚で尊大な言葉を受け、目の前に集った10魔族……サロス、アグリウス、シュリ、ルウワーフ、スロノドールは静かに頭を垂れる。
誰一人文句を言うことも無く、乱れる事無く表された忠誠に喜ばしい気持ちが胸に灯るが、今は自身の感情などどうでも良い事だ、すぐに本題に入る事にする。
「諸君らにはこれより、この拠点の防衛に努めて貰う事になる……というのも、私の考えが正しければ、近々何かしらの奇襲を仕掛けてくる可能性があるからだ。女子奴隷と店の商品とその在庫を魔王城に移動させるまでの間、君達にはそれらの護衛についてもらいたい。……そうだな、今後の事を考えて、ルウワーフとスロノドール以外は、その存在を出来る限り周りに悟られぬ様にしても欲しい。」
俺の指示に答えるのはサロス、アグリウス、シュリの三名、その返事を聞き、彼らにはこの屋敷内の防衛を任せる事にもする。
これで現状魔王城以上の防衛力が此処に集った事になるだろう、大抵の事なら俺の期待した以上の成果を上げてくれるはずだ。
「そしてスロノドールとルウワーフ……君達には私の護衛を任ず。二人の役は一時的に無視し、問題があると判断したら各自で行動してくれて構わん。勿論、サロス、アグリウス、シュリの三名も同様だ。各自が各々の判断でこの屋敷を守ってくれ。」
全員の快諾の声が耳に気持ちいい。
それを受け、当面の間に想定できる問題、その対処は完了したと言える。
後はついでに考えていた用を足すだけだろう。
「私の指示はこれまでだ……ただ、ついでと言っては何なんだが。この都市で手に入れた、私の配下に加わるかもしれない者を紹介しようと思う。……名無しよ、入れ。」
「ひゃい!!」
俺の言葉と共に、部屋の扉を開けはいってきたのはダークエルフの少女。
この都市で彼女の危機と出会い、何となく彼女を救った俺は、ついでに彼女の生活を改善してやる事にした。
もちろん彼女がそれを望み、10魔族の皆も了承してくれればの話だが……既に彼女の意思は確認を終え、10魔族の内の一人であるルウワーフの支持を得ているが故、どうせ問題なく事が進むのなら、早い内に皆には紹介した方が良いという判断だった。
そんな俺の内心を知らないであろう彼女は、今この瞬間にでも自身の運命が決まると思っているのだろう。緊張で裏返った返事をそのままに、右手と右足を同時に、その次は左手と左足を同時に出す、という奇妙な歩き方で俺の傍まで近寄ってくる。
この場にいる全員がその奇妙な歩き方をする少女を見つめ、その視線に尚緊張を増加させたかのように、関節が固まったかの様な動きも追加されていく。
全員が全員、呆然と言っても良い様な弛緩した空気を発する中。少女はやっとの事で俺の前に辿り着き、依然ぎこちない動きを続けながらも、10魔族の方へ向き直り大声を張り上げた。
「10魔族の皆さん初めまして!! リジィー様からご紹介にあずかりました名無しです。今はまだ名無しですが、いつか皆さんと一緒にリジィー様のお役に立てる様に頑張りますので、どうかよろしくお願いしまひゅ!!」
最後の最後で噛んだ舌をそのままに深く頭を下げる。
……そこまで緊張する物なのかと疑問に思うが……気の弱そうな彼女なら仕方の無い事なのかもしれない。
深く頭を下げたまま上げる事がない彼女に近づき、その肩を軽く叩いてやり、起こさせる。
依然不安げな視線で10魔族の皆を見つめる少女をそのままに、俺は彼女の後を引き継ぎ確認作業に移る事にした。
「諸君らには悪いが、既に私の事はこの者に伝えてある。その上でこの者は私の配下に加わりたいと申し出ている。そしてルウワーフとはもう対面し、配下に加える事も賛同してくれている……その事実を踏まえた上で諸君らに問おう。何か異論はあるか?」
俺の問いかけに手を上げたのはシュリ……彼女はダークエルフの少女を鋭く見つめながら口を開いた。
「リジィー様……この者は見た所、エルフの近親種であるにも関わらず、ろくな魔法も使えないのだと思われます。ブラウの件は理解できますが、その者には彼女ほどの求心力がある様にも思えません。何故今現状で必要としない者を……それも今後成長が見込めるかどうかも解らない者を抱えるのでしょうか?……魔法に関しても、リジィー様の横に並ぶ事が出来る者がこの世界にいないであろう中、其方の戦力補強も必要ない様に思います。」
……失敗した。そこまで深く考えなかったのだが、シュリにとっては自身の存在意義を疑われた気分なのかもしれない。
何故なら、種の持つ潜在能力……言ってしまえば魔法に対する素質としては、ダークエルフの方が純粋種であるエルフ族より若干とは言え優れているのだ。
それに加えてロロス以外の10魔族は、得手不得手があれど中級魔法までなら自在に行使できる。故にその一端であれど上級魔法の境地まで辿り着き、尚且つ不完全であろうとは言え、無魔法を一度放った彼女にとって、まだまともに魔法を扱えない名無しの少女を配下に加えるのは、自身の実力や今後の成長性を疑われたのだと感じたのだろう……そんな事は一切なく、むしろシュリには特大の期待を寄せているが為に、慌ててシュリに言葉を掛ける。
「すまないシュリ。私の軽率な考えで君を不安にさせてしまった様だな。君の言う通り、この者には現状優れていると言える部分は無い……そして今後の成長という点でも、はっきり言って解らないというのが現状だ。しかしそれでも尚、私はこの者を配下として迎え入れようと考えたのだ。まぁ、絶対に必要ないと言い切れず、絶対に欲しいとも言い切れないのなら、今後が見える内は抱えてもいいだろうと言う判断だ。何か問題はあるか?」
「……問題はありません。しかし納得は出来ません、リジィー様は何故その者を配下として迎えようというのでしょうか? それこそ、抱えるだけであれば、奴隷から始めてもいいではありませんか。」
シュリの反論に思考が一瞬止まる……確かにその通りである。わざわざ配下として迎え入れずとも、奴隷にすればいい話だ。……何故かは解らないがそんな事思いつきもしなかった。思えばこの者も、奴隷でも何でもいいから働きたいと言っていた……その事実もあったが故に、シュリの正論は俺の思考に突き刺さり、停止した思考を再び動かそうとするのを阻害する。
少女は不安そうに俺とシュリを交互に見比べ、10魔族の皆は事の成り行きを見守っている。その現実に、此処で下手な返しをしたら、皆の忠誠が薄れてしまうのではないかという恐怖が首を擡げてくる。
……解らなかった……どう答えるべきなのか、どの答えが正解なのか……全員の視線が突き刺さる中、俺は何も答えられずに立ちつくしてしまう。
「リジィー様……別に貴方様のお考えを否定しようという訳では無いのです。ただ、私は貴方の本心を聞かせてほしいのです。それがどういった物であれ、私は受け入れる覚悟がありますので。」
俺の無様な姿を見かねたのだろう、シュリは悲しそうに笑いながら問いかける。
……何故そんな悲しそうな顔をするのだろうか……新たに降って沸いた疑問が俺の脳裏に浮かぶが、正解を出せない現状では、その疑問を無視して、シュリの言葉に甘える事しかできなかった。
「……実を言うとな、そこまで深く考えてはいなかったのだ。それこそ気まぐれに近い物が大きい……というよりもそれ以外に理由が存在しないのだ。」
恥ずかしい話だがそれが現実だった。普段なら私怨を除き、何かしらの利益を見出してから行動に移るのだが……この少女にはそれが無い。
おおよそ自分らしくない行動であるために、自分でもどうしてこんな事をし、尚且つ良い境遇に置いてやりたいと思うのかが理解できなかった。
「つまり、その者を好いているという訳では無いのですか?」
俺の自身でも理解し難い内心を他所に、シュリは少し困惑したように問いかける、それに肯定を返しつつ、仮面を外しながら彼女に笑いかける。
「当然だ。……ただ何といえばいいのか……どうにも放っておけなくてな。ブラウを含め、10魔族の皆も快く思ってくれるのならこの者を助けてやりたいのだ。勿論自身の幸運に現を抜かす様なら切り捨てるが、それはこれからの話になる……それまでは私の意を汲んでくれないだろうか?」
どうにも様にならないが俺の意思は伝わってくれたらしい、シュリは元より、この場にいる10魔族の全員が首を縦に振り答えてくれる。
そしてアグリウスが軽く呆れたように口を開く。
「シュリ。我らが王は完全無欠の様で時々間が抜けている。それを補佐し、助け、危険があるのならばその身を顧みず庇うのが私達の総意であるはずだ……それに君も我らが王の気まぐれに助けられた身の上ならば。これ以上の追及はただただ我らが王を苦しませるだけである事を理解しているだろう?」
アグリウスの言葉に追従する様に、その左右合わせて八本にもなる腕を器用に組みながら、大口を上げてサロスが笑い声をあげる。
「ははは、違いねぇ。我らが王が、気まぐれで他者に手を差し伸べるのは今に始まった事じゃないだろうよ。それにとやかくいちゃもんを付けるのは何の意味も無いな。なら我らが王の気まぐれに、目を瞑ってやってもいいじゃないか。」
「そうですわね。我らが王にとって人を一人拾ってくることなど、日常茶飯事とまでは行きませんが大体予想できた事……ならばこの程度の事で目くじらを立てていれば、きりがありませんものね。」
「私も皆と同じ意見。確かに見境は無いとは思うけど、それも一種の美徳として取れるし、問題に発展する事は無い。ライバルが増えるのは気がかりではあるけど、今更一人や二人増えた所で変わらないでしょう? それにもう我らが王の意思は固まっている。ならその意思を汲むのは当然ね。」
スロノドールがサロスに追従し、ルウワーフが締めくくる。
彼らの想像以上の忠誠に、内心で感謝を返しながらシュリに最後の確認を問う。
「では再度シュリに問おう……異論はあるか? 勿論どうしても駄目だと言うのなら遠慮なく言ってくれ。私には、君達の意思を遮ってまでこの者を助けようと言う思いは無いのだからな。」
「皆に公まで言われ、そんな事まで言われては、その者とほぼほぼ同じ境遇である私には何も言い返せるはずが無いではありませんか。リジィー様の慈悲深さには、敬服の他はありません。」
彼女はその言葉と共に深く頭を垂れる。そしてシュリの言葉に賛同したのだろう、シュリに続き10魔族の全員が頭を垂れた。
その乱れる事が無い礼に圧倒されたのか、目を見開きながら名無しの少女はその姿を眺め、はっと気が付いた様に慌てて俺に礼をしてくる。
(……本当に自身には勿体ない位の配下だな。出来る事なら、彼らの理想である俺で居続けたいものだ。)
静寂が支配し始めた部屋の中、彼らの揺るぎない忠誠を受けて尚そう思う。
だからこそ人間に勝利する、という目的だけは成し遂げねばならない。それが500年もの間、俺を信じ、待ち続けていてくれた皆に出来る最大限の感謝だと思うから……
既に決定事項となっていた自身の目的、それを絶対に成し遂げるという決意を新たに、俺は顔を上げる事が無い彼らに思わず小さく頭を下げていた。
……そこでふと気が付く……10魔族の皆は自身でも気が付かない内に、俺にとっては掛け替えのない物になっていたらしい。
(不思議な物だ。昔なら、あいつら以外の者に親愛を抱く事など無かったのにな……)
思いは体の内に溶けていく。
魔王と名乗っていた時には感じる事が無かったその思いは、とても大切な物の様に思え、それをわざわざ捨てようと考えることは俺には出来なかった。
◇◆◇◆◇◆◇
「うん? どうしたスロノドール。今は自由時間であるはずだが?」
「リジィー様。あのダークエルフの少女の事なんですが……少しお聞きしてもよろしいでしょうか?」
場所は俺が寝室として利用している部屋の中。既に10魔族の皆は解散し、各個自身の役目を果たしてくれている中、目下危機が迫っていない現状、やってほしい事も無かったために、暇を出していたスロノドールが俺に問いかけてくる。
話の中心となるであろうその少女は、ルウワーフと中庭で稽古中でありこの場にはいない……しかし先の場では無く、わざわざ当人もおらず、他の者にも聞かれる事が無い今を狙ったのは、重大な理由があるのかもしれない……そう判断を下した俺は、神妙な顔を崩す事が無い彼女に先を促す。
「あの者にいつまでリジィー様の御服を貸し与えるつもりですか?」
……それほど重要な事では無かった様だ。
ただ当人にはそうでは無いのだろう、鼻息荒く……彼女が吸血鬼でなければ過呼吸となっていてもおかしくない程に荒げた吐息のまま、深紅の瞳を血走らせながら問いかけてくる。
いつになく狂気めいたその姿に気圧された俺は、若干声を震わせながら答える。
「い、衣服を用意する事が出来なかったのでな。当面の間は貸すつもり……」
「駄目ですわ!! そんなうらやま……可哀想な事で来ませんわ!! リジィー様、あの者は女性ですのよ。その者にリジィー様の体臭が染みついたおたか……もとい、男性の衣服を貸し与えるのは間違っています!!」
「だが当人も気にしてはい無い様だが……」
「それは違いますわ!! あの者の立場になって考えて見て下さい。いかにリジィー様がお優しいお言葉を掛けようとも、今はまだ仮初の平穏に過ぎない現状、少しでも貴方様の御心を害さない様に心がけているはずです!! ならば自身の我慢が利く範囲なら、何も文句を言うはずが無いではありませんか!!」
「……確かにその通りだが、男物と女物の衣服の違いなんてそんなにないだろう? あの少女は胸も無いし、身長も少し小さいとはいえ、私と同じぐらいだ。なら私の衣服を貸せば事足りる……」
「あり得ませんわ!! 例え胸が無くても女性である以上、最低限の身だしなみをしたいはずです!! あんなリジィー様に抱きしめられているのと同じ状況……改め、男物の衣服を身に纏わなくてはいけないという可哀想な状況に身を置かせ続けるのはいけません!!」
(……俺の体臭はそんなに匂うのだろうか?)
彼女の言葉の端々から聞こえてくる俺の体臭の話に、ついつい気になって自身の肩回りの匂いを嗅いでみる。
そして少しばかり香ってくる自身の体臭……鼻に突く様な鋭い匂いに少し顔を顰める。
自身では気にならない物だが、彼女が言うのならそうなのかもしれない……湯浴みの回数を増やす事も考えた方が良いかもしれない。
思いがけない所で自身の身だしなみを指摘されたが……対策を考えるのは後に回し、今の問題を片づける事にする。
「ではどうする? 当然だが、私は女物の衣服など持っておらぬぞ。この街で調達するにも、ダークエルフを連れ歩くのはいい顔をされない事は解り切っているし、わざわざそんな事に労力をさく必要も無い……」
「もちろん私が用意いたしますわ!! それ位の労力で、私の心の平穏が保たれるのなら安い物ですし、なにより、進言した私が行動しなくてどうするのですか!! リジィー様さえよろしければ、今から直ぐにご用意させていただきますわ!!」
スロノドールの提案は願っても無い事ではあったが……何故こんなにも興奮しているのだろう?
俺の記憶の中での彼女は、他者に興味を抱く事が少なく、それこそ衣服程度でこんなにも熱を持つとは思えなかった。
……まぁそんな事は今はどうでも良い話だ。せっかく言ってくれているのだし、彼女の言葉に甘えるとしよう。
「確かに、男と女の価値観の違いは大きい物があるかもしれないな。では其方の言葉に甘え、頼む事にしよう。……他に聞きたい事はあるか?」
彼女の言葉は奇妙な物であったが……いずれ用意しなくてはいけないのも事実だったので丁度いい。
利用する様で悪いが、あくまで彼女の体裁の為に許可を出した、という形で指示する。
彼女は自身の意見が通った事に感謝を示し、今後出てくるであろう問題を問いかけてくる。
「そうですね……どういった衣服を用意すればいいでしょうか?」
「それは任せる。ただ出来る限り彼女の意思に沿ったものを用意してやってくれ。」
「解りました。では次です……あの者が着替えた後のリジィー様の衣服何ですが……私が洗ってお持ちしてもいいでしょうか?」
何故だろうか……聞いている事に何も問題は無いはずなのに、殺気に近い何かを彼女から感じた……
それこそ執念……とでも言うべきなのだろうか? 顔の表情自体は動いていないのにも関わらず、威圧に近い様な重圧が彼女から放たれていた。
拒めば殺される……そう思わせる程に強い意思を受け、引き攣り始める顔を何とか押さえつけ、平静をどうにか装う。
「ああ、それも自由にしてくれて構わん。むしろそのまま処分してくれても……」
「ありがとうございます!! 早速行動させて頂きますわ!!」
俺の言葉を最後まで聞く事無く、スロノドールはその整った綺麗な顔に、満面の笑みを浮かべて消える。
……そう、消えると言っても過言では無い速度で部屋を出て行った。
荒々しく開けられ、閉じられた扉は軽くひしゃげており、その光景を呆然と眺める事しか……それこそ瞬き程の時間しか与えられなかった俺は……
「扉の建て付け……悪くなってなければいいな……」
そんなどうでも良い事しか呟くことは出来なかった。
……その結果、少しばかり頭を抱える事態になってしまったのだが。
「……何というか、これまたすごく独特な服を用意したな……」
呆れともつかない言葉が漏れ出てしまうのは仕方の無い事だろう。
何故ならダークエルフの少女に用意され、彼女が今身に着けているそれは、非常に布の面積が少ない物だった。
というのも、胸の周りを覆う様に一枚布があるだけで、腰回りもほとんど何も無く、へそとたおやかな括れはそのまま外に出ている。
そしてスカートというには短すぎる布一枚を腰に身に纏い、露出された太ももは肉付きが薄いとはいえ、まじまじと見るのは躊躇わせる。
スロノドール曰く、天真爛漫を意識したとの事……近くに置く事が多い女性の服装に対し、余計な事をしてくれたと思うのは俺だけなのだろうか?
いっそ本人が嫌がってくれれば、そこから注意という形で別の物を用意させる事も出来たが……
「リジィー様!! どうですか? 似合ってますか!?」
その当人がこうも乗り気ではそれも叶わない。
「ああ、似合っているとも。……正直目のやり場に困るほどにわな。」
決してスロノドールの見立てが悪い訳では無く、褐色の肌に映える様に白を基調とされており、間違いなく似合っている。
所々に付けられたフリルも、彼女の大きな動きに連動する為とても生えているのだが……それでもどうしても肌の面積の方が多く感じる……
(服って……防寒の為の道具だったよな?)
どうにも、自身の見解とは違う目的で作られているであろうその服に疑問が湧いてくる。
ただ今更文句を言っても意味は無い、当人も気に入っているのなら問題は無いのだろうと思う事にしよう。
依然くるくるとその場で回転しながら……その所為で、女性がむやみやたらに見せてはいけないであろう布を晒しながら……少女は笑顔を浮かべている。
「まぁ……気に入ってくれたのなら何よりだ。」
諦めに近い感情と共に、元気よく返事を返す少女を眺め続ける。
彼女に羞恥心は無い様で、俺の視線を受けても尚、その笑顔は陰る事は無かった。
◇◆◇◆◇◆◇
……既に日は落ち切り、月が天高く上り、闇と静寂だ支配する中。一つの屋敷を取り囲む無数の影があった……
彼らは一様に、黒を基調とした裾の長い服を身に纏っており、月明りの中でさえ、彼らの姿を正確に認識するのを阻害している。
そしてその全員が音をたてずに移動する……故に一体となって動いているその無数の影は、誰かがその場を目撃しても認識される事が無いのだと思える物だった。
もちろん、既にこのマクジ共和国の全員が……ともすれば睡眠を必要とする種族の全員が寝静まっているであろう時間帯だ……彼らを認識する者など誰もいない。
「隊長。各部隊配置に着きました。」
彼らの内の一人が声を上げる。その声に隊長と呼ばれた男は頷きを返し、今後の段取りを確認する。
「ではこれより、屋敷の中に潜入しコメス・ドールを誘拐する。……それが不可能であると判断した場合は、各自の判断で撤退、及び可能であるのならコメス・ドールの抹殺に移れ。当人の顔の特徴は解らないが……終始仮面をつけているとの情報から、寝ている間も付けているか、或いは傍に仮面が置いてあると思われる。疑わしきものは全員が対象とする。疑わしいかどうかの判断も各自でする様に……以上だ。」
隊長の確認を受け、彼の近くにいた複数の影が伝令に走る。
……ほどなくして、手信号による了解の意思が伝わってくる。
それを受け、隊長は左腕を天高く上げた……それはこの部隊で使われている突撃準備の手信号だった。
彼のその手信号を受け、事前に決められていた隊員が同じ姿勢を取る。
隊長が見える範囲の隊員の手は上がり、彼らの動きを見た別働隊も同じ姿勢を取り始める。
屋敷を取り囲んだ徒党の中、少数の影が手を高く天に上げている姿は奇妙な事であったが……それもすぐに終わりを告げる。
隊長を始めとし、連鎖するようにその手が勢いよく振り下ろされたのだ。
そしてその合図と共に全員が屋敷に殺到する……しかしそれでも尚音が響く事は無く、ただただ夜風が吹き抜ける音のみが聞こえるだけだった。
次回は閑話を挟むかもしれません。
本編が進む場合は、次回は戦闘回となります。描写が難しいのですごく不安ですが、楽しみにしていただければ嬉しいです。
ではまた次回の機会に




