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リベンジ魔王  作者: 蚊家津
43/50

ウッドレス拠点防衛戦 その1

短めですが本編となりました。


脳内設定では10魔族全員に得意武器を設定しているのですが……それが有効活用されるかは解りません。

そんな行き当たりばったりに近い話ですが楽しんでいただければ幸いです。


 「思ったよりも早いな……皆の招集が間に合ってよかったと言うべきか。」


 既にランプの灯は落とされ、月明りと夜闇になれた瞳だけが頼りの寝室で、リジィー・スロードは一人呟く。

 彼は、浅い眠りを無理やり覚醒させた事で重くなったその身を起こし、連絡の魔法をこの屋敷にいる10魔族全員に放る。

 全員が既に侵入者の気配を察していたのだろう。すぐに全員と連絡が繋がった事を確認し、リジィー・スロードは気だるげに呟く。


 「侵入者は一人残らず殺せ。誰一人生かして帰すな。」


 「「「「「はっ!!」」」」」


 彼の指示に対し躊躇い無く、間を置かずに返された了承と共に全員との繋がりが途絶える。


 「……活気があるのは良い事なんだけど……寝起きの今では少し耳に響くな……」


 一人しかいない空間の中、リジィー・スロードは急ぎ衣服を整え始めた。

 その動きは速い物ではあるが、それに反して彼の瞼は重そうである……無理も無いだろう。昔の体ならいざ知らず、今の彼にとって睡眠という行為は必要不可欠の物であったからだ。

 彼もそれを理解しているからこそ、視界に入ったであろう窓の外……既に傾き始めた月をその瞳に写しながらぼやいてしまう。


 「……訪問するならするでいいから。もっと時間帯を選んでほしいな……結果は変わら無いんだし。」


 独り言を呟きながらでも、男性の着替えなど直ぐに終わるものだ。

 それこそ、リジィーにとって身だしなみなど、さほど重要視される様な物では無い為尚更だ。

 薄手の衣服を身に纏ったリジィー・スロードは寝室を後にする。

 彼の歩む廊下は薄暗い物であったが、夜闇になれた彼の目には障害とはなり得なかった。


◇◆◇◆◇◆◇


 マクジ共和国……この国も他3国と変わらず、法が順守されている国である……

 しかしそんな法が順守される国であっても、国に潜む闇、と呼ばれる様な者は存在する。

 彼らは一様に高い地位に着き、あるものは法の隙間を縫いながら私腹を肥やし、又あるものは自身の欲望を貪欲に満たしている。

 言葉にすると暗部と総称されるその者らは、一見国の沽券を侵害する様で、その実は違う……いやこの表現も正しくは無いかもしれない。

 ……情けない話だが、一日の内に太陽が昇り、落ちる様に……栄えがあれば衰退がある様に……法が支配する中でそれを無視し、或いはすり抜けながら、自身の利益を追求する者が現れるのは当たり前の事なのだ。

 そして彼らは総じてずる賢い、一人捕まえるのに長い時間と労力が必要なのに、一人捕まえても又次が現れる……それこそ、世襲制でも導入しているのではないかと疑うほどに迅速に現れるのだ。

 結果、一種諦めに近い物があるが、この国の代表を務めて来た多くの者達は暗部を認識しながらも、彼らを捕らえる事をいつしか止めていたのである。

 勿論、審議が必要とあればその限りでは無いが……それでも決して自身から率先して取り組む事は無かった。

 だからこそ、彼らが集められたとも言えるのかもしれない。


 マクジ共和国対暗部特別部隊……この国の行く先を憂いた強硬派により、招集され、結成された部隊の名がそれだ。 


 マクジ共和国の名を冠してはいるが、その実彼らは非正規の部隊である。

 一応強硬派の庇護下の元、部隊の全員が下っ端とはいえ国の役員となってはいるが、もし何かがあった場合、躊躇い無く切り捨てられる事は解り切っていた。

 それでも彼らはそれを受け入れ、国を良くすると言う信念の元に、人知れず行われている血反吐を吐く様な訓練をこなし、有事の際はその力を振るっていた。

 だからこそ、人を一人誘拐する事など造作も無い事だと部隊の全員が思っていたのだ……


 「やはりシュリの魔法は適確ですね。訪問前にご一報くだされば、お茶の一つでも用意したのですがね……」


 月明りのみが照らす廊下の中、突如として前方に立ち塞がった人影に驚き、その場にいた部隊の全員が足を止める。

 彼らの目には一様に混乱が浮かんでいる……というのも、その者の風体が異様であったからだ。

 少し異形ではあるが執事服と思われる漆黒の衣服を身に纏い、手には純白の手袋を嵌めたその者は、一見するとその見た目通り、この屋敷で雇われている執事の様に思える……

 しかしその頭が異常である……何故なら、その青年然とした若い男性の声が発せられているその頭は、牡牛の様な頭であったからだ。

 その頭頂部に近い部分には二本の立派な巻角が存在し、彼らの……いやこの世界の人間の知識と照らし合わせるとしたら、悪魔と言う種族が一番当てはまった。

 そんな頭を持った人間がこの世界にいるはずが無いのだ。ならば魔族かとも考えたが、人間の敵とも言える魔族が……それこそエルフ族ですら無い者がこの国の、それも首都にいるとは思えなかった。


 「コメス・ドールを発見。これより捕獲に入る。」


 だからこそ部隊の中、誰も声を上げない彼らを統括する様に上げられた声に、その場の全員は異論を挟まなかった。

 当然だ。魔族では無く、そんな奇妙な頭をした人間がいないのなら、それは被り物だという事……何故かは解らないが、奇妙な趣味なのだと判断を下す事にしたのだ。


 「コメス・ドール? ……ああ、そういう事ですか。その上で捕獲ですか。出来ると良いですね~」


 牡牛頭の彼は一人納得したように、自身の山羊の様な立派な巻角を片手で撫でながら、笑みを模るには適さないであろうその口角を上げて笑う。

 その嘲笑と一種威圧とも取れる気迫を受け、部隊の全員が驚愕に目を見開く……何故なら、彼のその仕草はあり得ない物だったからだ。

 当然だ……彼の頭が被り物である以上、その口角は上がるはずが無いのだ……魔法を用いれば可能かもしれないが、わざわざそれをやるメリットは何も無い……

 つまりそれは……


 「勘違いしている様なのでお教えしますが……私の名はアグリウス。察しがついている方もいる様なので開示しますが。想像通りの悪魔種の魔族でございます。」


 まるで歌う様に自身の正体を明かすアグリウスは、その腰に付けた細身の長剣を鞘から抜き放つ。

 部隊の大半が混乱していた……しかし、それでも尚アグリウスの殺気を受けてまでそれを続ける程愚かでは無かった。

 慌てて自身の武器を……大半の物が短剣ではあったが……抜き放つ。

 彼らの目的はあくまでコメス・ドールの誘拐、もしくは殺害ではあったが、今この場ではアグリウスを処理すべきなのだと言う判断が上回ったのだ。


 「懐かしいですね~、羽虫程度の存在が群がってくるこの感覚。しかも皆一様に私に勝てると確信している。」


 いくら相手が魔族であろうと、数で勝る自身達が有利のはずだ……口には出さなかったが、部隊の全員が思っていた事である。そんな根拠も何も無い空虚な自信を見抜いたかのように、アグリウスは笑う。

 そしてアグリウスのその嘲笑通り、彼らの数に対する根拠なき自信は、酷く虚しい幻想に過ぎないのを全員が直ぐに理解する事になる。

 依然余裕を崩さずに器用に口角を上げたまま、アグリウスは昔を懐かしむ。


 「殺し文句?っていうのでしょうか。昔は、我が剣の錆にしてくれる!!……って言う人が多かったのですが。それを聞く度、常々思っていたのですよね。錆が出来る程手入れを怠るなよ……と。」


 なんとも楽し気に一歩一歩、ゆっくりと部隊に歩を進めてくるアグリウス。

 今から命を賭けた戦いが始まるであろうそんな時に、異様とも取れる行動と感情を持ち合わせている彼に気圧されたのか、詰まった分だけ部隊の全員が後ろへ下がる。

 無意識の行動であるのだろうが……部隊の全員の気持ちが負けていると解ったこの時点で、勝敗は決していたと言える。


 「だから私はそんな事は言いません。まぁ、精々言うとするのなら……弱者は弱者らしく、地べたに伏せるがいい……位でしょうか。」


 その気負いない言葉と共に一つの命が絶たれる。

 一体いつ間合いを詰めたのか……10メートル程はあったであろうその距離は瞬時に詰められ、アグリウスに一番近い所にいた一人の胸に、音も無く剣が突き入れられた。

 すぐそばにいた人間は勿論、剣を突き入れられた当人も、今起きた事が理解できない様に、目の前に突如としたアグリウスに焦点を結ぶと共に、自身の胸にゆっくりと視線を落とす。

 そして自身の胸に刺さった剣を認めたのだろう。再度顔を上げ、アグリウスへ向けて首を傾げた。

 まるで今見たその光景が信じられ無いように、いっそ童心に帰ったかのようにあどけない表情のまま、その者はアグリウスを見つめ続ける。

 その視線を無視し、アグリウスは剣を引き抜くと共に後方に間合いを取る。それは血で自身の衣服が汚れるのを嫌ったかの様である。

 対峙している者達からすれば酷く馬鹿にされた行いであるが、それを成し得る程の余裕と実力があるという事がその場の全員には解ってしまった。

 事実彼は未だに本気を出していないのだろう、まだまだ余裕を残していると誇示するかのようにゆっくりと優雅に剣を構えなおしてさえいる。

 そしてアグリウスの退避が終わった時、まるでその瞬間に自身の死を理解したかのように、胸を突かれた者は勢いよく胸の穴から血を吐き出しながら倒れ込んだ。

 断末魔すらも発し無い酷くあっけない事切れに、誰も何の反応も出来ないままに既に魂の抜けた殻を見つめ続けている。


 「素晴らしいですね。私の動きを認めても尚、それほど悠長に構えていられるなんて……もう少し本気を出した方が良いかもしれませんね。」


 部隊全員の呆けた思考の中、アグリウスの賛辞の声は廊下に響き渡る。

 もしこの場に彼の主がいたのならば、その見解は間違っていると声を大にしていったのだろうが……今はアグリウスの間違いを正してくれる者は誰もいなかった。

 ……結果としてその後の惨劇は、部隊の……それもこの国の為に身を犠牲にするという、強い信念を抱えた者達の尊厳を酷く傷つける事になったのだが、それを知る事が出来た者は、誰一人としてこの屋敷から出る事が出来なかった。


 「っ!!撤退戦!!一人でも多く生き残れ!!」


 誰が声を発したのか。部隊の誰かが声を張り上げると共に、それに触発された全員が行動を起こす。

 まず前衛……アグリウスに一番近かった者達が各々の武器を構え、廊下の幅一杯に展開する。

 そして彼らに守られた後衛……彼らは手に持った武器をかなぐり捨てて、アグリウスと前衛に背を向けて来た道を引き返した。

 既に犠牲を抑える事が出来ず、尚且つ誰一人として、アグリウスに勝利する未来が見えなかったからこその判断だ。

 誰か一人でも生き残り、自身達が束になっても対処できないほどの凶悪な魔族が、この何の変哲も無い屋敷に潜んでいる事を伝え無くてはいけなかったのだ。


 だがアグリウスの主の命は一人残らず生きて返すな……であった。故にアグリウスは、やすやすとそれを許してやるつもりは無かった。


 「我が望むは赤き世界。その世界の中では、全ての命は塵に等しく瞬きの間に無に帰る。されど赤き世界を望む我が身に宿るも、無に帰りし命と変わらない。故に求むは赤き世界の一端なり!! エンドレスフレイム」

 

 アグリウスが詠唱し、放ったのは、広範囲に作用する炎の中級魔法。

 本来なら短縮魔法として放つ事も出来るが、そこまでの本気を出していないであろうアグリウスは、呪文の詠唱による無防備な時間をあえて与える事で、相手の出方を伺う狙いを持って詠唱を行ったのだ。

 魔法の力は絶大だ。前衛に残った者達の後方に、一瞬にして現れた火球は、すぐさま視界を埋め尽くさんばかりの炎となり廊下を埋め尽くす。

 前衛の誰もが防御魔法は使わず……いや魔法を習得している者すら誰もいないが故に、前衛に残った者の誰もがアグリウスに視線を固定したままの数瞬……一息の呼吸すらも出来ないであろう間に全てが終わっていた。

 もし、アグリウスの魔法を的確に捌く事が出来たのなら、部隊が手にした情報を得た者達が下す判断も変わったのかもしれない。……しかしそれを考えても既に意味は無いだろう。

 当たり前だ、アグリウスの魔法が力を発揮すると共に、彼に背を向けていた者……その全員がこの世から消えたからだ。

 文字通り消し炭一つ残らず……何が起きたのかも理解できない前衛は、突如として後ろから吹き付けて来た熱気に驚き、アグリウスから目を話す事も厭わずに後ろを振り返ったが……その時には、ただ黒く焦げた廊下だけが残っているだけだった。

 其処には彼らがその身を犠牲にしてでも守ろうとした者は誰もいない。いかに移動が速かったのだとしても、まだ背中が見えるはずだと感じる程の長い廊下であるが故に、目の前に広がる未だ燻った廊下を前に、前衛に残った全員が理解したくも無い現実を理解してしまった。


 「……何故何もしないのでしょうか? 囮なのだとしても、このまま行動しないと皆さん無駄死にですよ。」

 

 そんな彼らに悪魔は問いかける。

 さも疑問そうに、前衛たちの行動が不可解そうに……悪魔は首を傾げている。

 其処には一瞬にして多数の命を葬った事に対する罪悪感などは無く。自身の出した答えと違った結果を目前にし、何故そうなったのかと困惑をあらわにしている生徒が其処にいるだけだった。

 そんな余裕どころか、歯牙にもかけていない雰囲気を受けた残りの者達には、もはや先ほどまでの決死の覚悟など存在はしなかった。

 当然だ。彼らの決意はあくまで他者を守るための覚悟であって、その守る者が一瞬で、成す術も無く葬られた今となっては、それを保つ事の方が難しかった。

 残った全員が一様に武器を放り捨てて、アグリウスに背を向ける。

 ほぼ同時に行われたその行為に、何が起きるのかと一瞬身構えたアグリウスではあったが。その行為の意図する意味が解った時点で直ぐに興味を失った。


 「……逃がす訳が無いでしょう。……そうですね、シュリの情報では他の場所でも同時に攻めてきている様ですから、手が空けられるなら早いに越した事は無いでしょう。」


 剣を構えなおすと共にため息交じりに呟くと、アグリウスはその逃げ足の速さ故、一番アグリウスから距離を話した者に狙いを定める。

 そして彼の後方を走る者達を無視し、初手と同様並みの人間では対処できないであろう速度で間合いを詰め、そのがら空きの背に向かって剣を突き入れる。

 アグリウスの手にした長剣は、酷く軽い音と共に黒い衣服を割き、その下の肌を引き裂き沈み込む。

 その際肺が傷つけれられたのだろう、背中から突き刺されたその者は、短く掠れた悲鳴を発すると共に地面に倒れ込む。

 アグリウスは直ぐに次の行動に移る。突き刺した者が倒れ込む際に生じた余力を受けながら、するりと剣を引き抜き後ろを振り返り、突如目の前に現れたアグリウスを視認したが、かと言って急に速度を落とす事が出来なかった者達を、擦れ違い様に次々と切り伏せたのだ。

 ある者は首を、又ある者はその心臓を……急所と言われる場所を的確に切りつけ、突き刺しながら、瞬く間にアグリウスの周りに存在する生命は潰える。

 最後にその場に立つのはアグリウスただ一人。終始圧倒し、返り血一つすら浴びる事は無かった彼は、既にこの場に敵がいない事を確認し確認し、自身の行った事に感慨も無しに、積み上がった骸を一瞥するとすぐに連絡の魔法を唱えた。


 「シュリ、此方は片付きました。他の者が相手をしていない所で、リジィー様に害が及びそうな所を教えてください。」


 淡々と現況を告げ、自身の判断に従い次の行動に移る。

 アグリウスの私見では、この程度の腕の者に彼の敬愛する王が後れを取るとは思えなかったが、それでも一度不覚を……それもとてつもなく大きな物を過去に取っていたために、油断はできなかったのだ。

 シュリにはついでに現在の他の者の情報を聞きながらも、先ほどの不機嫌そうな主の声音が思い出されてしまう。


 「……そうですね。リジィー様も無理やり起こされた事で気分を害されているかもしれません。ついでに厨房によって紅茶の一つでも用意して行きましょうか。」


 今回は索敵を担当してもらっているシュリの指示に従い、アグリウスは他の侵入者がいる地点に移動を開始しながら一人呟く。

 耳を澄ませば館の至る所で喧騒が聞こえ始めている中、襲撃者からしてみれば冗談の様に思える考えをアグリウスは抱いていた。

 だがそれも仕方の無い事だろう。彼にとってこの襲撃は、片手間に紅茶を淹れられるほどの物でしかなかったのだ。


本当なら他の10魔族の戦闘も一緒に入れたかったのですが……次回に繰り越しになりました。

ただサロス以外の全員は閑話を含めると一度戦闘描写をしているんですよね……作者の語彙が無い為、似たり寄ったりになりそうです。

それに今の状況ではどうしても敵が逃げ腰になっちゃうんですよね……もう少し進めば果敢に戦ってくれる人が出てくるんですけど……それまでまだまだかかりそうだしどうしようか……


考え事は尽きないですが、ここまで読んでくださり、楽しんで頂けているのなら作者である私としても嬉しいです。

強敵らしい強敵が未だに出ていませんが(多分現状一番魔王様を苦しめたのはリリアとスー)それまでは魔王様が嘲笑し続ける事になりそうです。

人間側も、過去の魔王城の遺産を持たせているんだから、もうちょっと頑張ってほしい物です。


ではまた次回の機会に


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